Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
帝国陸軍・長岡基地より前線へ送られた「サマートライアングル大隊」は、数にしてわずか三個中隊にすぎなかった。だが、その中でも――レッドキグナスは、最も深く突き刺さっていた。敵陣のど真ん中に、だ。
「再補給、完了。跳躍ユニット、加圧OK。推進剤圧、正常値!」
青島葵の声が通信に乗って届く。コマンドポストからの指示は簡潔かつ冷静だった。……いつも通りのトーンが、今は逆に不安を煽る。青島中尉はまだ、俺をただの衛士の一人としか見ていない。その距離が、少しだけ救いでもあった。
涼介はシートに深く腰を下ろし、深く息を吐いた。背後では補給班が跳躍ユニットの最終チェックを終え、兵装のマウントを済ませて退避していく。全てが、音もなく静かに――まるで、死に向かう儀式のようだった。
「……ホンマにまた行くんかいな」
短く呟いたのは江上だ。レッドキグナスA小隊、強襲前衛。突撃砲と長刀を持ち替えながら、彼は無意識に震えていた。
「選べねぇだろ。あの数、他の部隊だけじゃどうにもなんねぇ」
白鳥真凜――いや、“白鳥大尉”が吐き捨てた。ヘッドセット越しでも分かる、男勝りな口調と静かな怒り。
「俺らがやらなきゃ、誰がやる。いま退けば、次は誰が死ぬかわかったもんじゃねぇ」
その声に、誰も反論はできなかった。A小隊の土岐が死んだのは、ついさっきのことだ。BETAの波に飲まれ、要撃級に潰された。生き残った俺たちには、もはや“止まる”という選択肢はない。
「……イエローライラ中隊は、まだ戦域南側の拠点制圧支援中だ」
通信に割り込んだのはB小隊の白田だった。声が硬い。涼介の中で、嫌な予感が募る。
「今、イエローライラのC小隊が全滅したって……他の中隊からも支援回してるが、持つかどうか……」
沈黙が落ちた。誰もが、言葉を失った。
「……マジかよ」
C小隊の芹澤が低く呟く。戦場の現実が、着実に牙を剥いていた。
「だが、まだ終わっちゃいねぇ」
白鳥大尉が言った。静かに、だが力強く。
「“光線吶喊”は成功した。あとは、どれだけ多くの奴を引きつけて、ぶっ殺して、主力部隊が動ける時間を稼げるかだ」
沈黙が、また落ちる。
「敵影接近、接敵まで10分。突撃級500、要撃級・戦車級は測定不能。――再出撃、許可します」
青島の声が冷たく響いた。その瞬間、涼介は喉が乾くのを感じた。
「ああ、クソが……!」
誰かが呻いた。だがもう、心の準備など必要なかった。死は、もう何度も目の前を掠めていった。
「全機、出るぞ」
白鳥大尉が言った。
「後ろで死ぬくらいなら、前で暴れて死ね。いいな!」
「了解!」
「行こうぜ、真凜大尉!」
他の衛士たちが「白鳥大尉!」と返す中で、涼介だけが名を呼ぶ。それを聞いて真凜は、わずかに笑った気がした。
「鍋島、出遅れんなよ。遅れたらBETAより先にブチ殺すからな!」
「真凜大尉こそ!」
跳躍ユニットに推進剤が流れ、戦術機が一斉に浮かび上がる。夜明け前の空を切り裂き、再び、地獄へと飛び込んでいく。
涼介は息を整え、つぶやく。
「俺は……まだ、死なねぇ」
次の瞬間、突撃級の群れが、地平線の向こうから一斉に迫ってきた。