Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
再出撃直後、レッドキグナス中隊は戦域中央の谷地帯で敵と激突した。地形は湿地帯に近く、移動も制限される悪条件。しかも、光線級が未だ健在なため跳躍は限定的。戦術機たちは地を這うようにして前進しながら、迫り来る突撃級の群れに銃火を浴びせ続けていた。
「数、減らねぇぞ! 前方突撃級、まだ30はいる!」
芹澤が叫んだ。C小隊のラッシュガード。跳躍で迂回しようとしたところを要撃級に狙われ、肩部アーマーを吹き飛ばされたまま、なんとか持ちこたえている。
「無理すんな、涼介! 引け!」
慶の声が飛ぶ。涼介は思わずそちらを見る。……“慶”はもういない。そう、初出撃で落とされた。なのに、錯覚するくらいには、この騒がしさがいつも通りだった。
「C小隊、左へ回れ! BETAを分断する!」
白鳥大尉の号令が全周波に乗った。怒鳴るような、だが沈着な声。
「俺たちA小隊が、真ん中ぶち抜く! 涼介、ついてこい!」
「了解、真凜大尉!」
跳躍ユニットを短く吹かし、涼介は真凜のF-4J激震の横に並ぶ。突撃級の巨体が地鳴りとともに迫るなか、突撃前衛の火力が咆哮する。
しかし、その刹那――
「ぐっ……うわあああああっ!!」
爆音とともに、C小隊の芹澤機が吹き飛んだ。背部兵装ラックに被弾。跳躍ユニットの推進剤が誘爆したのだ。全身をばらばらにされた機体が、泥地に無残に沈んでいく。
「芹澤……!!」
歳刀を失い、芹澤まで。胸が焼けるようだった。
「気ぃ抜くな、鍋島ァァァ!! 次はてめぇの番になるぞ!」
真凜の怒号が脳内に響く。生きてる……まだ、生きてる。
涼介は敵陣へ突撃を再開し、長刀を抜き放った。突撃級の外殻を避け回り込み後方から斬り裂き、内蔵をまき散らしながら倒れるBETA。次の瞬間にはもう三体が詰め寄ってきていた。
「援護するで!」
江上の突撃砲が火を噴き、涼介の背後をカバーする。だが、敵は減らない。数が――まるで尽きない。
「B小隊、持たねぇ! 左側が空くぞ!」
B小隊の白田が叫ぶ。戦術機の腕が破損し、照準も定まらないまま後退しようとしていた。
「……っ、下がれ、白田! 俺が残る!」
保科の機体が、盾を構えるように前に出た。
「兄貴、無茶すんな!」
涼介が思わず叫ぶが、返答はなかった。
白田の機体が下がりきる直前――一条の光が飛んだ。
光線級の狙撃。跳躍こそしていないものの、遮蔽物のない地形で白田の激震を感知していたのだ。
「――ッ! 白田ッ!!」
光の槍が戦術機の胸部を貫き、白田機は一瞬にして爆散した。
通信は途絶えた。救助信号もない。……即死だった。
「くそっ……!」
涼介の声が震える。B小隊、C小隊……キグナス中隊はこの一時間で、既に4名の戦死者を出していた。
それでも、まだ命令は終わらない。
「各機、戦線維持限界まであと120秒。ブルーイーグル中隊が南西から合流予定です!」
青島の声が再び飛ぶ。冷静な指示が、全身に活を入れる。
「いいかお前ら、全員聞けッ!」
白鳥大尉が叫ぶ。
「ここで止まんなきゃ、あいつらが全滅する! 時間を稼ぐぞ!」
「真凜大尉、大丈夫かよ、この状況……!」
「だから俺らがやるんだよ、鍋島!」
背中合わせのような布陣で、二機のF-4J激震が突撃級の波に立ち向かう。
「全員、後退用意! 30秒でライン下げる! 撃ち切り次第、南へ全力撤退!」
白鳥大尉の声に、各機が即応した。
「了解!!」
この一言に、全てが詰まっていた。――生き延びる。全員で、生き延びる。
だが、誰もが理解していた。
“全員”は、もう無理だと。
それでも、撤退の準備が始まった。
それでも、彼らは、前を向いていた。