Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第二十一話 京都陥落ーー撤退戦

 

――1998年8月15日、午後。

 

東山の稜線が濃い灰色の煙に隠れ、洛中の街並みが炎と瓦礫に沈んでいた。千年の都は、無数のBETAの足音に蹂躙されている。

 

サマートライアングル大隊、最後の一団が伏見周辺で抵抗線を張っていた。

 

「くそっ……完全に包囲されたぞ!支援砲撃はもう期待できねぇ!」

 

激震のコックピット内、涼介の声が震える。目の前には、川を越えてなだれ込む突撃級の群れ。赤黒い体躯が夕陽に染まり、まるで炎そのもののようだった。

 

「兄貴!そっちはどうだ!」通信チャンネルに叫ぶと、保科中尉――いや、今や臨時のキグナス中隊長の声が返る。

 

『伏見ルートは閉鎖された。だが西山越えのルートがまだある。残存部隊は全力で脱出に移れ!芹澤も安藤もいねぇ。もう時間がねえんだ……!』

 

真凜大尉の戦死から数時間。まともな整備も補給もないまま、再び出撃し続けたレッドキグナスは、もはや半壊状態だった。

 

C小隊の芹澤を皮切りに全滅、B小隊の白田と中原。先ほど南の伏見稜線で全滅が確認されたイエローライラ中隊。ブルーイーグル中隊も壊滅的な損害を被っていた。

 

「江上さん!、そっちの損害は!?」

「お前に心配されるタマじゃねぇ……が、こりゃもうダメかもしれん」

 

もはや涼介たち残された衛士たちは、仲間というより戦友だった。

 

敵の波は、断続的に、しかし確実に押し寄せる。突撃級、戦車級、要撃級。無限に湧いてくるかのように京都盆地を埋め尽くし、味方の陣形を食い破ってゆく。

 

それでも、涼介は思う。真凜大尉なら、ここでも諦めなかっただろうと。

 

「江上さん、突破しましょう。……真凜大尉が命をかけて俺たちを生かした。その意味、無駄にしたくない」

 

短く「……ああ」と返す江上。

 

それが合図だった。

 

――午後16時13分、サマートライアングル大隊の残存兵力は、京都防衛戦の最終撤退命令を受けた。

 

レッドキグナス中隊を中心に、ブルーイーグルの数機と整備員、指揮車両らも混じった残存戦力。10機以下となった戦術機と、数十名の兵士たちが、西山回廊ルートを通って退路を開いた。

 

「跳躍ユニット、推進剤残量20%……あとは走りで逃げ切るしかねぇな」

 

涼介の顔に、汗が滲む。コックピット内の酸素も薄い。

 

背後では、崩れゆく街並みの中、BETAの群れが引き裂かれた瓦礫の道を埋め尽くしながら追ってくる。もう空は赤くなっていた。

 

「……京都、落ちるな」

 

誰かの呟きが通信に乗った。誰も否定しなかった。

 

最後尾を務めていた江上が、機体の半身を盾にして瓦礫を抑えながら無言で援護を続ける。

 

「もうすぐだ……耐えろ……!」

 

中継基地まであと数十キロ。道中、残された補給地点も遮蔽施設もない。だが、この地獄を生き延びることが、真凜大尉の想いを継ぐことなのだと、涼介は知っていた。

 

そして、我武者羅に駆け抜け、時に戦いだだ後退した――数日後、レッドキグナス中隊は長岡基地に帰還する。

 

両脚を引きずりながらも動く激震、弾痕にまみれた装甲、そして荒れ果てた表情の衛士たち。

 

その中で、白鳥真凜大尉の不在はあまりにも大きかった。

 

涼介は誰よりも静かに、しかし強い眼差しで、整備デッキに降り立った。

 

その瞳に宿っていたのは、初陣の震えでも、喪失の哀しみでもなかった。

 

それは、「これから」を背負う覚悟だった。

 

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