Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第二十四話 不知火と紫煙

濃灰色に塗装された戦術機《不知火》が、格納庫の中で無骨な鋼鉄の威容を放っていた。新型機への機種転換を告げられてから、涼介たちレッドキグナス中隊の衛士たちは毎日シミュレーターと実機訓練に明け暮れていた。

 

「こいつが……俺たちの不知火、か」

 

涼介は強化装備のまま、実機の前に立ち尽くしていた。かつての激震よりもスリムで、装甲は軽量化されているが、それでも隠しきれない力強さを感じる。ジャンプユニットや背部の兵装懸架が静かに唸りを上げているのが聞こえる。

 

「おい、隊長がそんな顔してどうすんだよ。初対面の彼女か?」

 

涼介の背後から声をかけたのは、保科隼人。整備班の報告を受けて不知火の点検に来たところだった。黒髪を短く刈り込み、階級章にはすでに大尉の階級。再編後はレッドキグナス中隊の中隊長として、分隊長も兼任している。

 

「……兄貴、また煙草かよ。ここ禁煙だって整備班に怒られただろ」

 

「外で吸ってきたっつーの。文句あんならお前も一本いくか?」

 

「……マジで? 吸ったことねえけど」

 

保科は黙って内ポケットから銀のケースを取り出し、一本差し出した。涼介はしばらく手に取った煙草を見つめていたが、意を決してそれを口にくわえた。

 

「火貸して」

 

「はいよ」

 

火をつけて、一度目の煙を肺に入れた瞬間――

 

「うぐっ……げほっ、ごほっ!」

 

涼介はむせた。保科は大きく笑って、背中をばしばし叩く。

 

「ハハハ! だから言ったろ、最初は肺がビックリすんだよ。だが、だんだんクセになる」

 

「これがクセになるって……兄貴、味覚イカれてんじゃねーのか」

 

「ははっ、そうかもな。でもな……こうして吸ってると、不思議と落ち着くんだよ」

 

保科は空を見上げ、かすかな陽光の差す格納庫の天井を見つめて言った。

 

「生きてるうちに、一服くらいしておきたくなる日もある。それだけさ」

 

涼介は、黙って保科の横に並び、ようやく慣れてきた煙草をもう一度吸い込んだ。

 

「……わかる気がする。俺、あの京都から何かが変わっちまった気がしてさ。だけど……」

 

「だけど?」

 

「でも、変わった分だけ、あいつらの分も背負ってかなきゃって思う」

 

保科は頷き、煙を長く吐き出した。

 

「なら背負え。涼介、お前はもう“ストームヴァンガード1”だ。中隊の矛を振るうってのは、そういうことだぜ」

 

涼介は無言で頷いた。彼の瞳の中に、真凜大尉の最後の姿が一瞬浮かんだ。――血に塗れて、それでも全員を前に押し出してくれた、あの笑顔。

 

(俺が、背負う)

 

彼は、もう一度煙草を吸った。乾いた味が喉に広がったが、それを吐き出す頃には、ほんの少しだけ肩の力が抜けていた。

 

2人が吐き出しだし立ち昇る紫煙に包まれた不知火が、静かに起動音を鳴らし始めた。新たな戦場は、もうすぐだ。

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