Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第二話 追いかける背中

鍋島涼介はこの日、机の上に置かれた志願書をじっと見つめて唸っていた。

 

 名前、生年月日、出身地──そこまでは問題ない。

 問題は、その下。志願理由の欄だ。

 

「……正直に書くか、カッコつけるか……だな、ん〜わからん!」

 

 隼人がいなくなってからもう既に半年が過ぎていた。

 春の港で見送ったあの日を思い出すたびに、胸がざらつく。

 

 佐渡に残った自分は、ただの“子ども”だった。

 中等教育を受けながらも、心ここにあらずの毎日。

 気づけば何をしていても、思考のどこかに“あの背中”が焼きついて離れない。

 

 兄貴のやつは、今どこで戦ってるんだろう。

 どんな敵と、どんな仲間と、どんな顔で戦ってるんだろうか。

 

 ──だったら、見に行けばいい迷う必要はない。

 

 気づいたら、そう思っていた。

 「お前らが戦わなくて済むように」なんて言葉は、ちゃんちゃらおかしい。

 そんなの、誰が頼んだよ。

 

「……勝手に“守る側”に回るなよ、兄貴……」

 

 涼介の目が、志願書の空白を埋めていく。

 理由の欄には、こう書いた。

 

 >『俺は負けてない。ただ、まだ勝ってないだけだ』

 

 そして、こう締めくくった。

 

 >『兄貴に追いつくために、俺も絶対に衛士になる』

 

 ボールペンのインクが乾くのを待ちながら、涼介はふぅと息を吐いた。

 これで、自分も“あっち側”に行ける。

 

 玄関から「チビ兄!早く降りて来ないとごはん冷めるよー!」と妹の声が飛ぶ。

 鍋島紗栄──涼介の妹。明るくて、元気で、泣き虫で、ちょっと子どもっぽい。

 彼女を置いて行くのは、ちょっとだけ胸が痛んだ。

 

 だけど、行くしかなかった。

 このままじゃ、自分は一生“あの背中”に届かない。

 

 

 出発の日、港にはいつもの朝の風が吹いていた。

 

 大きな荷物を肩に背負いながら、涼介は船を見上げる。

 数ヶ月前、あの甲板に隼人が立っていたのを思い出す。

 

「今度は、俺が行く番だ」

 

 振り返ると、紗栄が目に涙を溜めながらも笑っていた。

 頑張って笑おうとしてるのが、逆に泣けた。

 

「……隼人兄とケンカすんなよ」

「ケンカじゃねぇよ。勝負しにいくんだ」

「……チビ兄、絶対帰っきてよ」

「もちろんだ」

 

 涼介は軽く拳を突き出す。

 紗栄がそれに拳を合わせると、心の中にぽっと灯がともる。

 

 今はまだ、届かない背中。

 けど、追いついてやる。何百戦かかろうが、絶対に──

 

「500戦くらいするまでには勝てんだろ!付き合ってもらうぜ!兄貴!」

 

 船が岸を離れる。

 佐渡島が少しずつ遠ざかっていく中、涼介の目は、ただまっすぐ前を見ていた。

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