Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第二十九話 多摩川戦線・間引き作戦 終結

――11月下旬、深夜03:00。

 

濃霧のたちこめる多摩川沿岸。僅かな湿気を含んだ冷たい風が、川面から立ち上る湯気のような白煙を揺らしていた。

一帯を照らすのは、戦術機の稼働光と索敵用の微光のみ。空に浮かぶ星々は、今日も地上を見下ろすことなく、ただ沈黙している。

 

「……接敵まで3分。突入ルート、A3からC4に修正。岸本少尉、先行警戒を」

 

≪了解!了解だぜ、任せろや保科大尉!≫

 

保科隼人大尉の指揮のもと、レッドキグナス中隊はBETA前衛部隊への制圧作戦――通称“間引き作戦”の最終出撃を迎えていた。

高速突撃のA小隊、火力支援のB小隊、後方制圧のC小隊。

3小隊の連携が、長く続いた消耗戦にあって常に最小損耗で最大戦果を叩き出してきた。

 

だが――。

 

「……気配が薄いな」

 

涼介が、不知火の操縦席で眉をひそめる。

 

「たしかにです、ナベ中尉。感覚的にも、なにか変です」

 

≪松本、また”勘”で言ってないだろうな?≫

「いえっ、センサーもあたしのカンも、両方変って言ってます!」

 

ため息を漏らしながらも、涼介は松本の発言に一理あることを感じ取っていた。

ここ数日、BETAの動きが明らかに鈍く、出現地点も散漫になっていた。そして――。

 

「中隊各機、敵反応急速に後退。西南西方向へ大規模転進中!」

 

レッドキグナス中隊CP、青島中尉の声が通信に割って入った。

いつもと同じ、やや機械的な敬語。しかし声色はわずかに緊張を帯びていた。

 

≪……転進?BETAが?どこへ?≫

≪西南西って……横浜方面じゃねえか≫

 

「保科大尉、司令部より正式通達です。本作戦はここで終了。全戦術機、帰投命令が出ています」

 

青島の声が、作戦の終わりを告げた。

 

「……何かがおかしいな」

 

保科が呟いた。静かだが、鋭い。

涼介は強化装備の網膜投影越しに、モニターに映るの青島を見据える。

 

「なぁ、青島中尉。俺たち、負けたわけじゃねえんだよな」

 

「ええ。レッドキグナスは間引き作戦期間中、戦死者ゼロ、稼働損耗率10%未満。最優の戦績です。……ご立派です、皆さん」

 

小さな間をおいて、彼女は続けた。

 

「……でも、BETAは逃げたわけではありません。これは撤退ではなく、“進撃”です」

 

≪……!≫

 

「横浜方面に、何かがあると考えるべきでしょう。今後の展開は――」

 

「もう分かってるよ。ハイヴだろ」

 

涼介の声に、一瞬通信が静まり返った。

だがそれは、皆が同じ結論に辿り着いていた証だった。

 

青島は静かに言った。

 

「鍋島中尉……私の考えでは、それは“建設開始”を意味していると思われます。BETAが次の拠点として、“横浜”を選んだのです」

 

基地内に帰投したレッドキグナス中隊は、即座に機体整備と補給を受けながら、全員がブリーフィングルームに集合した。

インカムを外した青島が、データパッド片手に進み出る。

 

「……お疲れ様でした。これで、間引き作戦は終了です。しばらくは待機となります」

 

「青島中尉」

 

涼介が唐突に呼び止めた。

 

「はい、何でしょうか、涼介中尉?」

 

「打ち上げしようぜ。合成食だけど焼き鳥とかよ、その後は2人で…」

 

「……考えておきます」

 

その涼介が言い切る前の返答に、誰からともなく笑いが漏れた。

全員、疲弊しながらも、生きていることを確認し合うように、肩を叩き、笑い合い、座り込んだ。

 

青島は微笑み、静かにその場を離れる。

 

そして誰もが知っていた――間引き作戦の終結は、嵐の前の静けさでしかないことを。

横浜、という名の火口が、確実に開きつつあるという事実を。

 

戦火は終わらない。

だが、それでも――

 

「生き残ったな、兄貴」

「ああ。だがここからが地獄だ。気ィ抜くなよ、涼介」

 

保科の手が、涼介の肩を力強く叩いた。

 

――レッドキグナス中隊。間引き作戦を生き延びた精鋭たち。

彼らの次なる戦場は、“横浜ハイヴ”だった。

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