Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第三十話 明けの明星

年が明けて1999年。

 

冷たい冬の空気の下、レッドキグナス中隊は東富士演習場での訓練に明け暮れていた。

目指すは、目前に迫る明星作戦――人類史上初となるハイヴの奪還作戦。

目標は横浜ハイヴ、BETAによって築かれた鉄の巣窟を打ち破ること。

本州奪還のための最大の攻勢であり、パレオロゴス作戦に次ぐ規模とされるこの反攻に、彼らも主力部隊の一角として選出されていた。

 

「……ようやく、獲り返せるかもしれねぇんだな、俺たちの国をよ」

 

不知火のコックピットハッチを開け、富田宏明中尉が呟く。

白い息が吐き出されるたびに、彼の焼津訛り混じりの言葉が、冷たい空気に滲んで消えていく。

 

「気ィ抜くなよ富田中尉。今日の想定は“突入ルートB”の三小隊同時進入パターン。前回の反応速度じゃ真っ先に焼かれる」

 

そう言って彼の機体に駆け寄ったのは、高梨志織少尉。

表情は冷静そのもので、戦術機の外装チェックを入念に続けていた。

 

「ハイヴ突入訓練……って言っても、どうしてこんな細かいルート覚えなきゃいけないんですかね~。どうせ中入ったら、勘がモノ言いますって」

 

涼しげな声が飛ぶ。松本歩夢少尉。ストームバンガードらしい軽やかな動きで、自分の機体の上にひょいと乗っていた。

周囲からは小さなため息が漏れる。

 

「お前の“勘”で仲間が死んだら、俺は一生許さねぇぞ」

 

涼介が険しい目でそう言い放つと、歩夢は舌を出して謝った。

 

「ハイ、ハイ、すみません中尉。でもホントにいい動きするんですよ、この子」

 

「……“この子”って、機体のことかよ」

 

苦笑する涼介に、松原充少尉が「ですね」と頷いた。

配属されて間もない若い新兵の彼は、今も涼介を目で追いながら、師と仰ぐ涼介の一挙手一投足を学ぼうとしている様子だった。

 

その後方、B小隊の保科隼人大尉が部隊全体に向けて言った。

 

「全員、ブリーフィングルームに集合。突入訓練第三パターンの分析に入る。――10分で来い」

 

その声には、かつての“兄貴分”としての柔らかさはなく、今は中隊長としての厳しさが乗っていた。

しかし、彼の視線がふと涼介に向いた瞬間だけは、どこか哀しげな影が一瞬宿る。

 

――あの佐渡を、奪い返すわけじゃない。それでも。

 

彼らにとっての“仇”に一矢報いる機会が、目前に迫っていた。

 

ブリーフィングルームでは、CP担当の青島葵中尉が最新の敵配置シミュレーションを示しながら説明を続けていた。

彼女の茶髪のポニーテールが、プロジェクターの光を反射して揺れている。

 

「みなさん、これは先週末に収集された衛星画像情報に基づく、横浜ハイヴ周辺の更新データです。

ご覧の通り、敵性構造物の密度は旧モデルよりも約12%増加しています」

 

「……この密度で突入? 自殺行為だろ、正面からじゃ」

 

と、滝本翼少尉がぼやく。

 

「だからこそ我々が訓練しているのです、滝本少尉。何度も申し上げますが――“完璧な突入”など、最初から想定されておりません」

 

「相変わらず容赦ねぇな、青島中尉……」

 

「事実ですから」

 

全員が苦笑する中で、涼介がふと声を上げた。

 

「青島中尉、作戦が終わったらさ――食事でもどうだ?」

 

言った瞬間、皆が“きたきた”とばかりに視線を向ける。青島は涼しく微笑み、

 

「考えておきます、中尉」

 

その返事も、今や部隊内の風物詩だった。

 

こうして、明星作戦に向けた訓練の日々は続く。

寒空の下、己の命を預け合う仲間たちと共に、不知火を駆って、彼らは進む。

かつての仲間、そして失われた故郷のために。

 

――本州奪還。その先にある“未来”のために。

 

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