Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第三十一話 明星作戦開始

1999年、冬。

 

冷たい雨が長岡基地のコンクリートを濡らし、灰色の空が戦いの訪れを告げていた。

レッドキグナス中隊に割り当てられたブリーフィングルームには、昼夜の区別もない。

それぞれの視線が前方のホログラムマップに注がれ、言葉少なに気配を整えていた。

 

「――本作戦は“明星作戦”と呼称される。人類史上二例目の、ハイヴ奪還作戦だ」

 

前方に立つ保科隼人大尉が、鋭い眼差しで部隊全体を見渡しながら語る。

彼の後ろでは、横浜ハイヴを中心にした詳細な地形マップと進行ルートが3D投影されていた。

 

「目標は、横浜白陵基地跡地に建設されたH22:甲22号目標――通称、横浜ハイヴの殲滅。

 第一次進攻部隊は、国連軍と大東亜連合軍による統合作戦部隊。我がレッドキグナス中隊は、都市戦域制圧の先鋒部隊として選抜されています。支援火力・高速展開・白兵制圧能力を生かし、進路確保を担当――」

 

保科隼人大尉が指差した先は、横浜ハイヴ北部・港北区一帯。

不知火へ機種転換を終えたばかりの彼らが担うには、あまりにも過酷な任務だった。

 

「市街地は既にBETAに浸食されています。特に大型個体の残留が想定されますが――“突破”が最優先です」

 

「……任せてくれよ、兄貴。やるしかねぇ」

 

鍋島涼介中尉が低く、そしてはっきりと言った。

彼の瞳の奥には、“佐渡”の影がある。しかし、今それを口にはしない。

 

――妹・紗栄の行方は、未だ不明のまま。

 

「佐渡はまだだ……だが、それでも……この一歩がなきゃ、たどり着けねぇ」

 

誰にも聞こえない声でそう呟いた。

 

【整備区画・出撃前】

 

格納庫では最終点検が進められていた。白銀の不知火が並ぶ姿は、まるで戦場へ向かう騎士団のようだ。

 

「松本、燃料系統チェック。松原、データリンク再確認頼む!」

 

涼介が小隊長として声をかけると、松本と松原が手を止めて応じる。

 

「はい!……ふぅ、緊張してきた」

 

「やるしかないわよ。前に出るのが私たちの役目でしょう?」

 

高梨志織少尉が、冷静な目でモニターを見ながら言う。

機動重視の機体に最終武装をセットする手際も完璧だった。

 

一方、B小隊では保科がじっと滝本を見ていた。

 

「滝本、今日はいつも以上に冷静にいけ。お前は力がある……だが無茶をすれば、誰かが支える羽目になる」

 

「了解ッス、大尉。……今日こそ、俺の力見せますから!」

 

滝本は笑いながらも、その目には覚悟の光が宿っていた。

 

C小隊でも富田がいつも以上に真剣な面持ちで整備班と確認を続けていた。

 

「間違いなく地獄になる……それでもやる。それだけだ」

 

そして涼介は、毎度の場所へ向かう。

 

戦術指揮ポスト。

そこには、青島葵中尉がいつものように中分けのポニーテールを揺らしながら、全機のシステムチェックに追われていた。

 

「全機、戦術データリンク正常。通信暗号キーを共有済みです。戦時指揮モード、5秒後に切り替えます」

 

「頼もしいな、青島中尉。あのさ、この作戦終わったらさ……飯でもどう?」

 

青島葵を真っ直ぐ見つめて伝える涼介。整備班の何人かがまたか、というように肩をすくめる。

 

お約束――それでも、涼介の表情は真剣だ。

 

「……考えておきます。どうか、ご無事で」

 

いつもと同じ返答――だがその一瞬、青島の瞳が揺れた気がした。

 

「……ああ。行ってくる」

 

鍋島は不知火に乗り込み、シートを固定。

全機のシステムが一斉に起動する。

 

【出撃】

 

「レッドキグナス中隊、全機発進準備完了!出撃を許可します!」

 

青島中尉の声が通信に響いた。

 

「行くぞ……この一歩が、すべてを変える!」

 

轟音と共に、不知火たちが長岡基地を飛び立った。

――目指すは、横浜。

 

まだ佐渡は見えない。妹も見つからない。

だが、前へ進むことでしか、誰も守れないのだ。

 

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