Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第三十三話 重圧を超えて

《横浜市街地 第七補給拠点・仮設弾薬区画》

 

夕闇が市街地に染み渡り、機体整備班の溶接火花がちらつく中、レッドキグナス中隊の戦術機が補給ラインに滑り込んでいく。

両脚に熱損傷を受けた機体。所々被弾した箇所も目立つ。

だが、誰一人「損傷」という言葉で片付けようとはしなかった。

 

「……じゃ、あらためて自己紹介しようか。俺がA小隊、小隊長の鍋島涼介中尉だ」

 

「……はい。小川、帝国陸軍所属の少尉、小川陸です。よろしくお願いします。」

 

整備エリアの片隅。強化装備の襟元を緩めながら、涼介が煙草に火をつけ小さく息を吐いた。

 

「お前、滝本少尉の代わりって言われてプレッシャー感じてんだろ?」

 

「……正直、はい」

 

小川は迷いなく答えた。

 

「でも、そうじゃないと……ここで生きてる理由が、なくなってしまうので」

 

「……悪くない答えだな。だが、気張りすぎんな。お前の“陽炎”じゃ、まだ追いつかねぇ分もある」

 

その言葉に、小川は小さく唇を噛んだ。

 

「俺だって、こっちで“激震”に乗ってる時期が長かった。型落ち呼ばわりされたり、鈍重だの無骨だの言われたけどな……中身次第だ。機体に乗るのは、衛士だからな」

 

「……はい」

 

そのとき、保科大尉が補給車の影から声をかけた。

 

「B小隊、再編完了するぞ。今後は小川を加えた再編成で行く。

小川はガンスイーパーとして前衛寄りの火力分担だ。岸本が右を、有村が左を支援。わかったな」

 

「了解です」

 

「……滝本のポジションは空いてしまったが。お前が埋めるんじゃない。

“お前の立ち位置”を作れ。わかったな?」

 

「……はい、大尉」

 

その短い言葉に、小川はすべての想いを込めて答えた。

 

 

【同日 22:40|横浜市街・旧みなとみらいエリア】

 

「小川ッ、右!2時方向から接近!おそらく要撃級ッ!!」

 

「……っ、了解ッ!」

 

陽炎が瓦礫を滑るように移動し、即座に突進してきた要撃級に短刀を叩き込む。

だが、その動きは――不知火の機動に明確に劣っていた。

 

「……くそッ、なんで……!」

 

爆発音とともに瓦礫が吹き飛び、保科中尉の不知火が軽々と3体を処理している。

有村の不知火は支援射撃で空間を制圧し、岸本の不知火は猛スピードで突撃してBETAを制圧していく。

 

「こっちはまだ、ラインが……!」

 

陽炎は動き出しが遅れ、戦線の中で孤立しかけた。

瞬間、後方から通信が飛ぶ。

 

『小川、冷静に動け。撃破することより、生き残ることを意識しろ!』

 

保科の声。命令ではない、支えるような語調。

 

「ッ……了解!」

 

陽炎の跳躍ユニットが一気に吹き上がり、要撃級の足元に滑り込む。

そのまま脚部に短刀を叩き込むと、切断には至らぬまでも、機動を封じることに成功した。

 

『ナイスだ小川少尉!有村、フォロー砲撃入れて!』

 

『了解!照準固定、撃ちます!』

 

爆発。陽炎が機体を旋回させ、重心をずらして敵を吹き飛ばす。

 

息を吸った。

 

(……俺は、滝本少尉でも、保科大尉でもない。

けど、俺には――“俺のやれる戦い方”がある!)

 

小川少尉の陽炎が再び前に出た。機動が洗練されたわけではない。速度が上がったわけでもない。

だがその操作には、迷いが消え始めていた。

 

「B小隊、小川少尉、戦線に復帰しました! 現在、敵要撃級と交戦中、制圧完了次第、次ポイントへ移動します!」

 

『よし、いいぞ小川。その調子だ』

 

保科の声が笑った。

 

レッドキグナスの新たな一員は――ようやくその位置に立ち始めていた。

 

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