Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第三十五話 絶望の撤退戦

 ――その報は、戦場の空気を一変させた。

 

 「こちら中央司令部。全戦術機部隊に告ぐ。0805、米軍よりG弾二発の発射が通達された。標的は甲22号目標――横浜ハイヴ。繰り返す、G弾の投下が通達された。全戦術機部隊は即時、作戦区域からの退避を開始せよ!」

 

 一瞬、誰もがその言葉の意味を理解できなかった。G弾――それは人類最後の切り札であり、同時に核をも超える絶対的な破壊をもたらす兵器。使用が許されるのは、すべてが終わるという判断が下された時のみ。

 

 レッドキグナス中隊が、すでに戦場の最前線、ハイヴ正面の外郭市街地まで踏み込んでいたことを考えれば、それは「見捨てられた」と言われているも同然だった。

 

 「……ふざけんなよ……俺たちはまだ……!」

 

 鍋島涼介の咆哮が、コクピットに響いた。不知火のフレームが怒りを帯びるように震える。

 

 「涼介! 今は感情を抑えろ!」保科隼人の声が、戦場全体に響く中隊回線に割り込んだ。「全員聞け! これよりレッドキグナス中隊は、南方ルートを使って戦域からの離脱を開始する! 生きて戻れ、それが命令だ!」

 

 涼介は歯を食いしばった。目の前には、先程まで共に戦っていた友軍の残骸が崩れ落ちたビルの隙間に沈んでいる。松原は意識を失いかけたまま、不知火の中で辛うじて呼吸をしていた。

 

 「……わかった。全員、撤退するぞ」

 

 だが、撤退戦は想像以上に過酷だった。

 

 市街地の崩壊と共にBETAの攻勢も激化していた。特に後衛を務めたC分隊は、脱出ルートの遮断を目論む戦車級と要撃級の波状攻撃に晒されていた。

 

 「西脇少尉、花村少尉、退避ルートを確保しろ!」

 

 「前園少尉、援護を……っ!」

 

 西脇の不知火が、仲間を庇って撃破され、続くように花村も撃墜された。C小隊の通信が一時途絶え、富田と前園の声だけが、荒く、緊迫したノイズ混じりの声で戻ってきた。

 

 「西脇と花村がやられました……っ。俺たちは生きてます、合流します……!」

 

 保科の顔が歪んだが、指揮を崩さず指令を出す。

 

 「富田、前園、残存部隊と共に南第六通りを通れ! 敵は左方から再集結し始めてる、迅速に行動しろ!」

 

 「了解ッ!」

 

 一方、A小隊も損耗が激しく、松原の不知火が制御を失ってふらついた。

 

 「松原! しっかりしろ! 離脱までもう少しだ!」

 

 だが、彼を庇うように高梨の機体が身を投げ出した。

 

 「……お前は、生きろ。鍋島中尉に……ついてけ……」

 

 その言葉が最後だった。

 

 爆炎と共に、高梨志織の不知火が爆散した。

 

 「――くそっ、くそっ、くそぉぉぉぉッ!!」

 

 涼介の怒声が回線に響いた。

 

 「戦えなくなったら、生きて戻る。それが命令だったろうが……っ!」

 

 青島中尉の声が、静かに通信に入る。

 

 「……中隊長、撤退ルート、衛星マッピングにより最短経路を再送しました。……皆さん、無事で帰ってきてください……」

 

 「ありがとな、青島中尉。無事に帰ったら――飯でも行こうぜ」

 

 「……考えておきます、鍋島中尉」

 

 それは、いつも通りのお約束だった。

 

 しかし、それがどれほど切実な「願い」だったか、皆が痛いほどわかっていた。

 

 レッドキグナス中隊は、多くの仲間を失いながらも、南方へと脱出を開始する。

 

 頭上には、遠く燃え上がる巨大な閃光。G弾が、横浜の地に「終焉」を告げていた。

好きなキャラクターアンケート

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