Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第三十七話 白鳥達の一服

喫煙所の片隅で、煙が長く部屋の中を漂っていた。

 

「……で、あいつ結局、整備員の女の子に告白もできねぇで終わったってわけよ。情けねぇよなぁ」

 

富田が口元を歪めて笑い、煙草の先をくゆらせる。向かいに立つ鍋島涼介も、ふっと笑って煙を吐き出した。

 

「はは……ああ見えてチキンなんだよな。戦場じゃやたら吠えるくせに、女の前じゃ子犬みたいになっちまってさ」

 

戦地から帰還し、長岡基地で再編待機となってから数日が経っていた。失った仲間たちのことは胸に残ったままだが、それでも生きている者は前に進まなければならない。

 

「失礼します。……自分も、混ぜていただいてもいいですか?」

 

声をかけてきたのは、小川陸少尉だった。未だ陽炎に乗る彼は、不知火の洗練された姿に囲まれながらも、器用に食らいつき、その技量を着実に評価されてきた。

 

「ああ、小川。お前煙草吸ったっけ?」

 

富田が目を細める。小川は少しばつが悪そうに頷くと、胸ポケットから慣れない手付きで煙草を取り出し、火を点けた。

 

「最近……ですね。ようやく、味だけは分かってきた気がします」

 

「ふぅん、背伸びしてんな」

 

涼介が笑う。だがその笑いの奥に、どこか柔らかい感情がにじんでいた。かつての自分もそうだった。兄貴分を真似て、煙草を始めた。何かを背負おうとして。

 

「実は――」と、小川が切り出す。

 

「本日付で……自分、正式にレッドキグナス中隊への配属が決まりました、機体も不知火を回してもらえる事になりました。」

 

富田と涼介が、同時に煙を吹き出した。

 

「おいおい、今さらだなぁ。もうとっくに俺らの一員って顔してたぞ、お前」

 

「ま、でも改めておめでとうってことで……乾杯でもしたいところだが、あいにくの缶コーヒーだな」

 

涼介がそう言いながら缶を掲げる。3人がカツンと軽く缶を鳴らし合った、そのとき――

 

「おう、お前らもいたか」

 

いつの間にか、保科隼人大尉が背後に立っていた。中隊長であり、涼介の兄貴分でもある男は、いつものように腕を組みながら、どこかしら気怠げな表情を浮かべていた。

 

「お、いいところに。なぁ、兄貴。中隊の再編案って話、聞いたぞ? 新しい奴らが来るんだろ? どんな連中なんだよ」

 

涼介が身を乗り出す。しかし、保科は肩をすくめるだけだった。

 

「明日になれば嫌でも顔合わせるさ。あんまり期待すんな。」

 

「ま〜そうだっけね、でも大尉殿、うちのC小隊は2人入れ替わるから連携が大変だよ」

 

「そうだったな、苦労をかけるが頼む」

 

珍しく保科が苦笑を浮かべた。そして、煙草に火をつけると、一服だけしてすぐに踏み消した。

 

「じゃあな。俺はこれから新兵の書類見て、顔合わせしてくる。……気ぃ抜くなよ、お前ら」

 

背を向けて去っていくその背中を、涼介はふと見つめた。

 

「……なんか、今日の兄貴、いつもと違くね?」

 

「……さぁな。ま、疲れてんだろ」

 

富田が肩をすくめ、小川もそれに続くようにうなずいた。

 

再び始まる、くだらない会話。だがその中にも、確かに感じられる空気の変化があった。

 

明日、再び訪れる再編。そして、彼らのもとに配属される新たな仲間。

 

どんな出会いが待っているのか。

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