Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
夏の夕日が斜めに差し込む長岡基地のブリーフィングルームには、緊張と期待が漂っていた。前列には保科隼人大尉、そして後方には中隊の主力たち――涼介、松本、松原、富田、前園、岸本、小川、有村が揃っていた。
扉が開くと、3人の新兵が整った姿勢で入室する。
「これより、再編成に伴う新配属者3名の顔合わせを行う。順に紹介を――」
保科の指示に応え、一人目が前に出る。
「柊直樹少尉。第14訓練戦術機教導隊を修了後、越後方面警戒任務を経て、このたびA小隊に配属されました。至らぬ点もあるかと思いますが、精一杯務めさせていただきます」
短く、しかしよどみのない挨拶。彼の背筋の伸び具合と礼儀正しさに、松原が「ちゃんとしてんなぁ」と小声で呟いた。
続いて、落ち着いた所作で大友美香が一歩前へ。
「大友美香少尉です。前任では後方支援部隊の整備・運用に携わっておりました。C小隊にて職責を果たし、少しでも皆様の力になれるよう努力いたします」
声はやや柔らかく、それでいて芯のある印象だった。富田が嬉しそうに頷き、隣の前園も珍しく小さく頷く。
そして、最後に赤髪の少女が前に出た。
「鍋島紗栄少――」
「――紗栄っ!」
唐突な叫び声が場を裂いた。
後列から立ち上がりかけたのは鍋島涼介中尉だった。目を見開き、まるで夢を見ているかのように前へ出ようとする。
「なんでお前が――っ、こんなとこに来てるんだ!まさか本当に……!」
戸惑いと動揺を隠しきれず、涼介が数歩踏み出しかけたその瞬間だった。
「――鍋島中尉。この場では、それ以上の言葉はお控えください」
冷静な声。敬礼の姿勢を崩さず、真正面から彼を制したのは紗栄だった。
「私は鍋島紗栄、少尉。このたびレッドキグナス中隊、C小隊への配属を命じられました。兄妹であっても、この場ではあくまで軍人同士として接していただきます。以後、公的な場では私を『紗栄』ではなく、『鍋島少尉』とお呼びください」
その凛とした物言いに、室内が一瞬静まり返った。
涼介は何か言いかけたが、口を閉じた。そして、隣でそれを静かに見守る保科に視線を向け――鋭く睨んだ。
(……知ってたな、こいつ)
そんな感情がそのまま目に宿っていた。だが保科はあえてそれを受け止め、何も言わずに前を向いたままだ。
「……引き続き、よろしく頼む。以上だ」
保科の一言で、場の緊張はようやくほどけた。
•
その後の夕刻、長岡基地裏の喫煙所脇にあるベンチにて。涼介が缶コーヒーを片手にぼんやりしていると、誰かが隣に腰を下ろした。
「……チビ兄は相変わらず騒がしいね」
聞き慣れた声だった。紗栄が軍帽を膝の上に乗せ、やや頬を緩めながら言う。
「お前なあ……いきなり来るとか……心臓に悪いわ」
「ふふ、でも……ちゃんと会えたね。無事で、よかった」
小さな声。昔の泣き虫な紗栄が一瞬だけ顔を覗かせる。
「……生きててよかった、佐渡が落ちた後連絡つかなくて……消息不明だって」
「もちろん生きてたよ、お父さんとお母さんも無事だよ、今は仙台の難民キャンプだけど…。さっきはごめんね、あの場では鍋島少尉って呼ばせたけど……チビ兄はチビ兄。それは変わらないよ」
涼介が少しだけ吹き出し、缶コーヒーを彼女に手渡す。
「……ま、これからだ。お前が無茶しないように、ちゃんと見張っとく」
「ふふ、紗栄のほうがしっかりしてそうだけどね」
そうして兄妹は夕暮れの風に吹かれながら、ようやく再会の時間を静かに共有したのだった。
•
新たな仲間を迎え、レッドキグナス中隊は再び始動する。
その歩みの先に待つのは、苛烈な戦場か、あるいは希望か――それでも彼らは、戦術機のコクピットで未来を掴むために、今日も前を向く。