Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
「よし、次のシナリオは都市部模擬戦だ!想定地点は九州、制限時間は十五分。敵勢力は中型BETA三十体、突撃級二十体、小型群多数だ!」
鍋島涼介中尉の怒鳴るような声が、ブリーフィングルームに響き渡る。今日の訓練は新編成後初の実戦想定演習。三分隊の連携が問われる、手加減なしの内容だ。
「……なんか、やたら気合い入ってません? 鍋島中尉」
隣のブースで美香が眉をひそめた。
「そりゃあまあ、妹の前でカッコつけたくなる年頃ってやつでしょ」
と、有村がボソリ。
訓練機のコックピットに搭乗する新兵たちにも緊張が走る。紗栄の視線は正面モニターに集中していた。隣には柊直樹が無言でリストのチェックを繰り返している。
「柊少尉、硬いですよ。もうちょっと肩の力抜いた方が――」
「……失礼しました。ただ、この編成での動きがまだ読みきれていないもので」
「真面目だねぇ。まあ、それも嫌いじゃないけど」
大友美香が和やかに笑いながら、通信越しに呟いた。
そこに突然、A小隊の涼介から通信が入る。
「おい、紗栄!今回のポジション、お前が先行部隊の右翼側をカバーするインターセプターだ。後衛に回るなよ、しっかり前張れ!」
「了解、鍋島中尉。指示通り、右翼側制圧に徹します。ですが――」
一拍置いて、紗栄が冷静に続ける。
「……無茶はしないでください。中尉の突撃パターン、無駄に前に出過ぎです。私の射線にかぶります」
「はっ? ……いや、それはお前が射線を合わせろよ!」
「そもそも、ガンインターセプターの援護なしで前に突っ込むストームバンガードが何言ってるんですか」
「なにぃ!」
「はいはい、バカ兄妹の通話は終了~。松本少尉、カット入れて」
「りょーかい。ミュートっと……あ、紗栄ちゃん、もう怒ってる?」
「怒ってません」
「……声、怒ってる時のやつだぞ、それ」
一同のチャンネルに小さく笑いが漏れる。緊張の中にも、どこか仲間としての空気が育ちつつあるのが分かる。
やがて、シミュレーション開始のカウントダウンが始まった。
「全機、起動。タイマースタート」
都市廃墟の模擬空間に、不知火小隊が展開する。涼介と松本が先頭で突入、続いて松原と柊が側面から支援に回る。
「柊少尉、右ビル影に中型三体。突撃砲で散らします!」
「援護する! 左から小型群も接近中!」
戦闘は次第に激しさを増していく。紗栄は後方での支援だけでなく、時折支援突撃砲で突撃級の脚を狙撃し、前線を援護する。
「鍋島少尉、ナイス射撃!」
「ありがとうございます。ですが、次は大友少尉の攻勢を待ってからの方が効果的です。大友少尉、左から回ってください!」
「了解、接近する! 富田中尉、前園少尉、右から包囲にかかって!」
「ったく、よく回るなこいつら!」
「前に出すぎるなよ、涼介!」
「うっせぇ、こっちはこっちで稼いでんだよ!」
保科の注意もどこ吹く風で涼介はなおも突撃を繰り返す。が、直後――
「中尉、背後から突撃級! 回避を!」
紗栄の声が響く。すかさず、柊の機体がカバーに入り、長刀で突撃級の背後を斬り裂いた。
「……助かった、柊!」
「命令違反スレスレでしたけど……無茶な突撃はこれ切りにしてくださいね」
「は、上等だ!」
通信が切れる直前、涼介の笑い声が弾けた。
•
訓練終了後、格納庫での整備が終わる頃。
「お疲れ様です、大友少尉、鍋島少尉」
柊が静かに声をかけてきた。
「ふぅ、なんとか形にはなったね……紗栄ちゃんも、機体の制御バッチリだったじゃん」
「ありがとうございます。まだ本調子ではありませんが……まあ、チビ兄の突撃癖にも慣れてきました」
「……はぁ?」
背後から現れた涼介が肩をすくめる。
「お前なあ、人のことを『チビ兄』って……軍人としての礼儀はどこ行った」
「ちゃんと場面で使い分けてるでしょう? 訓練中は“鍋島中尉”って呼んだでしょ? それ以上の軍紀求めるなら、まず自分の突撃癖をなんとかしてください」
「ぅ……うるせぇ!」
「ふふ」
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日が傾き、格納庫の扉から差し込む赤い光の中、笑い声がこだました。
そうして、レッドキグナス中隊は――新たな仲間を迎え、再びその翼を広げ始めた。
それぞれが抱える傷と後悔、それでも繋がる意思と信頼が、確かにそこにあった。