Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第四十一話 出撃前夜 -「灯るもの」-

長岡基地の夜は静かだった。格納庫にうなる補助電源の音だけが、闇の中に響いている。誰もが明日の作戦に向け、わずかな休息を求めていた。

 

一角の喫煙所には、いつもの顔ぶれが集っていた。

 

「……初陣の時ってさ、夜眠れたか?」

 

静かに煙を吐きながら、富田宏明中尉がぽつりと問う。

 

「覚えてねぇな。気付いたら朝になってて、そのまま出撃してた」

 

そう返すのは、鍋島涼介中尉。煙草をくわえながらも、眉間に深くしわを寄せていた。

 

「初陣の話なら、俺は緊張でゲロっちゃって。待機中に中でやらかして……地獄でした」

 

笑うように言ったのは、小川陸少尉。だがその目は、ふと暗い底を覗かせる。

 

「……俺も、初陣は滝本に背中を押されて出た。今思えば、あれがあったから今もここにいる」

 

誰よりも穏やかに語ったのは保科隼人大尉。煙草を咥えたまま、視線は遠くの夜空を見ていた。

 

涼介は黙っていた。

 

妹・紗栄の初陣──それが、明日だ。

 

言葉にできない緊張が、胸の奥で膨らみ続けていた。

 

そのころ、紗栄の部屋では静かに時が流れていた。

 

紗栄は机の前で手帳を開いていた。今日の訓練記録と、装備チェックのメモ。ペンを握る手が、かすかに震えている。

 

そんな彼女の隣に座ったのは、コマンドポスト担当の青島葵中尉だった。

 

「鍋島少尉、緊張されているのですね」

 

「……はい。すみません、隠せてませんね」

 

「いいえ。隠す必要もないと思います。初めての実戦なのですから、怖くて当然です」

 

青島の声は柔らかく、けれど芯がある。

 

「……青島中尉は、怖くなかったんですか?」

 

「怖かったですよ。今でも怖いです。私はCP《コマンドポスト》なので前線には出ませんが、私の指示で誰かが帰ってこられないかもしれない。」

 

紗栄は目を伏せ、ゆっくりと息を吐いた。

 

「チビ兄が……いえ、鍋島中尉がいるから、平気なフリしてました。でも、正直怖いです。震えが止まりません」

 

「大丈夫です。震えるのは、生きたい証拠です。……それに、貴女は一人ではありません」

 

「……ありがとうございます」

 

ほんのわずかに、紗栄の頬が緩んだ。

 

PXでは、新入りの柊直樹少尉がC小隊の前園や大友と談笑していた。

 

「いやあ、なんだか妙に静かですね。出撃前夜って、こんなもんですか?」

 

「……むしろ、騒がしい方が落ち着かない」

 

前園が短く答えた。

 

「俺なんか、何回出撃しても寝れませんよ。なのに富田中尉は高いびきで……」

 

「それは……寝るふりかもね」

 

「え、そうなんですか?」

 

大友の言葉に、柊が驚いて目を丸くする。

 

「明日死ぬかもしれない。……だから、目を閉じてでも眠る。あの人は、そういう人だ」

 

誰もがそれぞれの夜を過ごす中。

 

涼介は喫煙所から戻る足を止め、作戦配置図の前で立ち尽くしていた。

 

その背後から、紗栄がそっと声をかけた。

 

「……チビ兄」

 

「紗栄……寝ろよ、もうすぐ消灯だ」

 

「チビ兄こそ。……緊張してるんでしょ」

 

「してねぇよ。俺が震えてどうすんだよ……!」

 

声を荒げて、だがその眼差しは切実だった。

 

「ま、ここで紗栄に会えてよかったわ」

 

「……私も」

 

ほんの少し、照れくさそうに言って、紗栄は一歩引いた。

 

「鍋島中尉。公私混同は控えてください」

 

「お、おう……って、まだ言うかそれ」

 

「軍人ですから」

 

それでもその口元には、微笑みが浮かんでいた。

 

そして──夜は更ける。

 

誰にも明日は分からない。だが、皆の心には確かなものがあった。

 

仲間と共に生き延びる。

 

それだけを信じて。

 

レッドキグナス中隊、出撃を前に──ただ静かに、夜が更けていく。

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