Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第四十三話 近衛の傾奇者と兄の誓い

作戦ブリーフィングも終わり解散となった部屋の中には、どこか異様な雰囲気を放つ赤服の男がいた。髪は燃えるような赤で、長い髪を頭頂部の後ろで結い、右の前髪だけは垂らし、左の前髪は銀のヘアピンで無造作に留めている。笑っているのか、何か企んでいるのか、目尻の下がったその表情はどこか掴みどころがない。

 

「貴殿らがレッドキグナス中隊の中隊長、そして小隊長か」

 

そう口を開いたのは、近衛軍の赤服——渡凌牙(わたり りょうが)大尉であった。彼こそが、近衛の中でも一際異彩を放つ「傾奇者」にして、帝国近衛軍第24連隊・第34独立遊撃中隊、通称クレイジーチキンズの隊長である。

 

「恐れながら、帝国陸軍第17連隊サマートライアングル大隊所属、レッドキグナス中隊中隊長の保科隼人大尉。そしてこちらが、A小隊の小隊長、鍋島涼介中尉です」

 

保科が軍礼をもって応じる一方で、涼介は隣に立ちながら、後方の集合部隊に混じって立つ紗栄の姿に一瞬だけ視線を向けてしまった。ほんの刹那だったはずが——

 

「お主、某の挨拶をしている最中に、よそ見とはな?」

 

渡大尉がニヤリと笑みを浮かべて、ずいと一歩詰め寄った。

 

「女を見ていたな?ふむ……雰囲気が似ているな、妹か?いや、はて、初陣の空気が纏われておる……間違いあるまい」

 

涼介は即座に背筋を正し、やや顔を赤らめながら深く頭を下げた。

 

「申し訳ありません、無礼を……つい、気が緩みました」

 

「よいよい、構わぬ構わぬ。某も妹のような者を守ることに、常に命を賭けておる。故に、気になっただけよ」

 

そう言って渡は、涼介の肩を軽く叩いた。笑みは崩さぬまま、何かを見透かしたような眼差しだけが、一瞬だけ鋭く光った。

 

「しっかり守るが良い。戦場は残酷ぞ」

 

そう言い残し、渡は背を向け、長い髪を揺らして悠然と去っていった。

 

呆気に取られた涼介の隣で、保科が小さく息を吐く。

 

「……あれが、近衛の渡凌牙大尉。色々と噂は聞いていたが、実物はさらに掴みどころがないな」

 

その場にいた近衛の一人が肩をすくめながら、ぼそりと呟く。

 

「気にせん方がいいですよ。あの人、近衛の恥晒しなんて呼ばれてますから」

 

敵前逃亡、命令違反、異端児、臆病者……数々の悪評を持つ渡大尉に対する評価は、決して高くはなかった。

 

だが、涼介は違った。

 

渡が立ち去る瞬間、ふと振り返り、誰にも見えぬように一瞬だけ見せた“戦場に挑む男の眼”を、涼介は確かに見ていた。

 

「……あの人、嘘をつく目じゃなかった」

 

そう呟いた涼介は、姿が見えなくなった赤服の背中へ、静かに敬礼を送った。

 

「涼介……?」

保科が小さく問いかけたが、涼介は微笑んで首を振る。

 

「いや、なんでもない。俺たちも、やるべきことをやるだけだな、兄貴」

 

「……ああ。レッドキグナスに、恥じぬ戦いを」

 

二人の視線は、再び始まる“死地”に向けて、ゆっくりと前を見据えていた。

 

——次なる戦場、八雲作戦の火蓋は、間もなく切られようとしていた。

 

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