Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第三話 訓練校の日々──血と汗の予感

帝国陸軍衛士訓練学校新発田基地──通称「地獄製造所」。その名に恥じぬ、苛烈極まる衛士育成の場である。十五歳の少年、鍋島涼介は、佐渡島の静けさとは真逆の喧騒と緊張に包まれた新発田基地内の訓練校へと足を踏み入れた。

 

「おい、そこの赤髪。立ち止まってんじゃねぇ。入隊志願したんなら腹くくれ!」

 

鋭い声が響き、涼介は慌てて前へ足を進める。訓練服の集団が整列する中、その中心にいたのは、鬼のような顔の男だった。黒光りするオールバック、ギラリと光る眼光──井上勝。新任兵全員を鍛え上げる教官にして、“地獄の管理人”と恐れられる存在だった。

 

「貴様らは今日から“人”ではない! ただの部品だ。命令に従い、機械のように動け。考えるな、従え、死ぬな! わかったかァ!」

 

「は、はいッ!」

 

声が裏返った者もいれば、恐怖で声にならない者もいる。だが、涼介の心は燃えていた。──ここで強くなれば、隼人に追いつける。そう信じていた。

 

そんな彼の隣に並んでいた坊主頭の少年が、不意に声をかけてくる。

 

「おい、あんた、鍋島涼介……だろ? 志願組って噂で聞いたぞ。俺は上越から来た池田裕平。よろしくな」

 

「お、おう、よろしく……!」

 

笑顔のまぶしいその少年は、涼介にとってすぐに気の置けない存在となった。訓練の合間に話すようになり、互いの夢や故郷の話を語り合った。いつしか彼らは、全体の中でも目立つ“赤髪と坊主”として同期たちに知られるようになった。

 

だが訓練は容赦がなかった。朝は五時に起床し、分刻みのスケジュールで座学、模擬戦、筋力トレーニングが課せられる。中でも井上教官の実技演習は、精神的にも肉体的にも候補生を追い詰めた。

 

「鍋島! 貴様、また突っ込んだな! 何度言わせる気だ、戦術とは状況判断と協調だ!」

 

「す、すみませんッ!」

 

涼介は歯を食いしばった。視野が狭い──それが彼の癖であり、欠点だった。

 

だが、同じ班の歳刀慶は違った。冷静沈着、無駄な動き一つなく訓練の模擬戦を勝ち抜く。口数は少ないが的確な指示を飛ばし、班員の信頼も厚い。

 

「……お前、また突っ込んでやられてんのか。」

 

その声に振り向けば、そこには体格の良い、気の強そうな女──“メスゴリラ”こと近藤静が腕を組んで立っていた。

 

「誰がやられたって? 俺はまだ戦える!」

 

「ふーん、口だけは達者じゃん?」

 

そんなやり取りに、周囲はクスリと笑う。少しずつだが、涼介はこの場所で仲間を得ていた。

 

そして時は流れ、彼らの訓練校生活も終盤へと差し掛かる。卒業の前に行われる“総戦技演習”──それは、生き残る者と死ぬ者の線引きをする最後の試練だった。

 

鬼教官・井上勝の視線が、訓練校全体に鋭く突き刺さる。

 

「お前ら全員、次の総戦技演習で“兵”になれるか、それともただの屍になるか決まる。俺の教えが無駄じゃなかったと思わせてみろ……!」

 

血と汗にまみれた試練の幕が、いま静かに上がろうとしていた──。

 

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