Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第四十四話 八雲作戦 前夜の団欒

敦賀基地の夕暮れは、鉛のように重たい空が広がっていた。ブリーフィングを終え、待機状態になっていた各部隊だったが、隼人だけが帝国本土防衛軍の士官に呼ばれ、ひとり司令棟へと足を運んでいった。

 

「じゃあ、俺は行ってくるから、お前らはPXで飯でも食ってろ」

 

涼介にそう言い残し、保科は軽やかに背を向ける。残されたレッドキグナス中隊の面々は、しばらくその背中を見送ってから、ぞろぞろとPXへと向かった。

 

薄暗い食堂には他部隊の隊員たちもちらほら集まり、明日の作戦を前にした独特の空気が漂っている。キグナス中隊のメンバーは、適当なテーブルに座り、簡素な食事を手にとった。

 

「ふう、やっぱり飯の時間が1番落ち着くな……」

 

涼介が合成食の蓋を開けながら呟くと、富田が笑った。

 

「お前が言うかよ。ブリーフィングの時はカリカリしてノートも殴り書きだったじゃねぇか」

 

「う、うるせぇな……!」

 

涼介がバツの悪そうに頬を掻いていると、柊直樹が口を開いた。

 

「でも、正直わかります。明日は近衛に本土防衛軍……猛者ばかりが揃ってるんです。そりゃ、誰だって浮き足立ちますよ」

 

「別に俺はビビってねぇよ!」と声を張る涼介に、大友美香が苦笑交じりで口を挟んだ。

 

「ビビってない人ほど、そういうこと言うのよね。でもまあ……緊張するのは、ちゃんとやろうとしてる証拠ってことで」

 

「大友少尉、上手いこと言いますね〜チビ兄の事よく見てます」

 

と、隣でぱくぱくとご飯を頬張っていた紗栄が、箸を止めてにこりと笑う。その柔らかな表情に、隊の緊張がふっと和らいだ。

 

そこに、タイミングを見計らったかのように、保科がPXに戻ってきた。

 

「お、戻ったか兄貴。どうだったんだ?」

 

涼介が声をかけると、保科は軽く手を上げ、テーブルに腰を下ろした。

 

「話してきた。本土防衛軍の人達と。やっぱり凄いわ、あの人たちは。場数も、気迫も、全部が段違いだった」

 

「うお、やっぱ怖そうだったっけ?」

 

富田が茶化すように尋ねると、保科は少し考えてから笑った。

 

「怖いっていうより、重いな。あれは”覚悟”ってやつだ。出雲作戦に向けた本土防衛の間引き作戦……俺たちがやる八雲作戦も、そのための礎だ」

 

一同は静かになった。冗談も、小話も、一瞬止まる。

 

その沈黙を、保科の強い声が破った。

 

「でもな。だからこそ、俺たちレッドキグナス中隊も負けてられない。近衛や本土防衛軍の猛者たちに見劣りしてたまるか」

 

保科は、そこにいる全員を順に見渡した。涼介、富田、岸本、有村、前園、松原、松本、小川、大友、柊、そして紗栄。

 

「実戦は、明日が初めてって奴もいる。でも関係ない。俺たちは”キグナス”だ。各小隊が信じ合って動ける、最高のチームだ。それを、あの戦場で証明してやろうぜ」

 

誰からともなく、小さく拍手が起きた。

 

「さっすが、ホカ大尉……ほれそうになる〜」

 

と冗談を飛ばす松本に、保科は肩をすくめて返す。

 

「勘弁してくれ。茶化すな」

 

笑い声が小さく広がる。だがその中でも、全員が感じていた。明日の作戦は、これまでの演習や任務とは段違いの覚悟が求められると。

 

「……緊張してきたかも」

 

小さな声で紗栄が呟いた。それを隣で聞いた青島中尉が、そっと言葉をかける。

 

「鍋島少尉。大丈夫ですよ。あなたの能力は訓練で証明されています。あとは信じるだけです」

 

「……ありがとうございます、青島中尉」

 

紗栄の表情に、少しだけ力が戻る。誰に対しても敬語を崩さない青島の、変わらない優しさがそこにあった。

 

その夜、レッドキグナス中隊の笑い声は、敦賀基地の静かな夜風の中に溶けていった。

 

戦場に向かう前の、ほんのひとときの静寂。

明日には再び、地獄のような戦場が彼らを待っている。

それでも彼らは笑う。

仲間と共に、信じる明日へ向けて。

 

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