Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
戦術機の咆哮が地鳴りのように響き渡る。
舞台は鳥取県沿岸部、かつて人が住まい、砂丘が有名だった地域。今はBETAの濁流に呑まれた赤黒い大地が広がっていた。
「レッドキグナス、各小隊、再出撃準備完了……!」
コマンドポストに立つ青島葵中尉の声が中隊の神経を貫く。通信回線の向こう、涼介がいつもの調子で応える。
「無事帰ったらデートの約束、考えてくれてんだろうな?」
「……戦果次第です。鍋島中尉」
無表情ながらも、通信の先の青島は戦場の緊張に顔を強ばらせていた。無事を祈る声に、涼介は「任せとけ」とひとことだけ返す。
その直後、激震と共に空を切り裂く紅の閃光が現れた。
赤い機体――近衛第24連隊・クレイジーチキンズの隊長機、渡凌牙大尉の00F型・武御雷。
その異様な存在感は、戦場すら一瞬で舞台に変える。
「ふはははっ!戦場の幕は下りぬ!参るぞ!」
通信越しに響く渡の笑い声が、味方すら困惑させる。その背後には副隊長の山吹色のF型と、白きA型の部隊が舞い踊るように続く。
BETAの群れに向けて真っ直ぐ突進する赤い影は、次の瞬間――
「総員着剣、吶喊・――我が刃よ、冴え渡れ!」
二振りの長刀が閃き、要塞級BETAの脚部を両断し転倒させ。後方の光線級が反応するより早く、渡の武御雷は側転と同時に着地、逆手で斬り上げる。
「……すげぇな、あの赤いの」
レッドキグナス中隊の通信回線に感嘆が漏れる。呆れ混じりの声に、涼介がにやりと笑った。
「遊ばせてたまるか。松本、松原、柊、行くぞ!」
「りよー!」
「了解!」
「はい」
突撃前衛のA小隊が、一気に間合いを詰めた。
BETAの集団へ突撃し、涼介の「不知火」が突進――そして一閃。要塞級の腹部に強烈な斬撃を叩き込み、後方の松原がカバー射撃を入れる。
「鍋島中尉、右から光線級!」
「任せた、松本!」
「はいな〜」
天然天才型の松本が反応速度で弾道を読み、射撃を放つ。爆発が起き、続く有村の後衛支援が破片すら吹き飛ばす。
C小隊も後方から制圧を展開。
「紗栄、落ち着いて!今の距離なら当てられる!」
大友美香が叫ぶ。インパクトガードの紗栄は一瞬呼吸を整え、照準を定めてトリガーを引いた。
――命中
それは死の8分を超えた初陣衛士の、生存への一歩だった。
「命中……やった……!」
「やればできるじゃねえか、小さい鍋島!」
富田の激が飛び、紗栄の背筋が伸びる。
その時だった。赤い武御雷が、涼介の「不知火」のすぐ傍らに現れた。
「ふむ、まだ生きてるな。なかなか見どころのある突撃であったぞ、鍋島中尉」
「そりゃどうも、そっちこそ化け物じみてますね……」
「怖いからな、某は。死ぬのが。だから敵に怖がらせる。そうすりゃ逃げる必要がない」
涼介はふと、ブリーフィングルームで聞いた“臆病者”という噂を思い出した。しかし今、目の前にいるのは、臆病ではなく――“恐怖を知りながら戦い抜く男”の背中だ。
(……やるじゃねえか、近衛の恥晒し)
赤い武御雷はまた戦場を駆け、BETAの中枢へと突き進んでいった。
その背中を目で追いながら、涼介も叫んだ。
「おい、A小隊全機突撃!こっちも負けてらんねえぞ!」
「了解!レッドキグナス中隊突撃!A小隊だけに働かせるな!」
BETAの群れへ、「不知火」が一斉に躍り出る。
出雲の大地が火を吹き、血と火薬の臭いが戦場を満たす中、レッドキグナスとクレイジーチキンズの“猛者たち”は、八雲作戦の最前線を突き進んでいた――。