Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
爆音と土煙の中、燃えるような赤のF型武御雷が一閃し、一体の突撃級BETAを真横に薙ぎ払った。続いて脚部スラスターを吹かし、滑るような動きで横に展開しながらもう一体を瞬時に首から胴体ごと切断。炎と共に肉塊が吹き飛び、血飛沫が空に弧を描く。
その動きに涼介は思わず息を呑んだ。先ほどまで隣で軽口を叩いていた近衛第24連隊、クレイジーチキンズ隊長・渡凌牙大尉の乗る真紅のF型武御雷――異端の赤備えが、戦場をまるで舞台のように軽やかに舞っていた。
「ったく、あんな奴が“近衛一の臆病者”とか……誰が言い出したんだよ」
涼介はそう呟きながら、己の不知火を前へと突き出す。渡の戦いぶりに刺激されたのは、自分だけではなかった。周囲の味方機、特に若手の衛士たちが戦意を高めているのを感じる。中でも新兵の柊と紗栄が、目の色を変えて戦線維持に努めている姿に、思わず目を細める。
「鍋島中尉、敵の流れ、切り崩せそうです!」
背後から紗栄の声。死の初陣“8分”を優に超え、既に彼女はこの戦場の地獄を、全身で味わっていた。血と土と鉄の臭いにまみれながら、それでも必死に目の前の仲間を守るために。
「なら、押し込むぞ! 柊、ついてこい!」
「了解です、中尉!」
不知火4機が隊列を崩さず突撃する。その先には、渡大尉の赤い機体がなおも斬り込みを続けていた。白いA型2機と、副隊長機の山吹のF型がそれに追随している。
その時、渡の赤い武御雷がくるりと機体を反転させ、後退し始めた。
『む、そろそろ推進剤が心許ないな。――貴殿らはもう少し暴れていくようだが、某はここで退かせてもらうぞ』
通信に軽い口調が乗る。
「ここで退くんですか! もう少し押し込めそうですよ!」
涼介が食い下がるが、渡はどこ吹く風だ。
『武人たる者、退く時は退く。某は某の部下たちの命と機体を、決して無駄にはせぬ主義でな』
そして最後にこう続けた。
『貴殿との共闘は実に楽しかった。――またどこぞの戦場で、機会があれば会おうぞ。では、さらばだ!』
それきり、赤の武御雷は潔く戦場を離脱。山吹と白の機体もそれに続き、火線から離脱していく。
その背を見送りながら、涼介は思わず漏らした。
「……確かに、あれが“近衛一の臆病者”と言われても不思議はねぇな」
だがその目は、先ほどの冗談交じりのそれではなかった。全てを見極めた上で、部隊の損耗と補給状況を即断即決し、颯爽と撤退するその判断――真の猛者の姿に、涼介は敬意を込めて静かに敬礼した。
その直後、レッドキグナス中隊の通信が入る。
『こちら保科、全機注意せよ。補給限界が近い。新兵二名のバイタルもかなりの疲弊を示している。全隊、後方補給ラインへ一時後退する』
涼介はハッと我に返る。自身も戦闘による損耗が思っていた以上に大きいことを、インジケーターで改めて確認する。特に柊と紗栄の機体の装甲には裂傷とヒートマークが目立ち、限界が近い。
「了解、A小隊これより離脱行動に入る!」
味方機が続々と後退行動を開始する中、戦線には新たに本土防衛軍の陣形が突入していく。その黒鋼の塊の如き重厚な陣容に、キグナス中隊の面々は思わず息を呑んだ。整然と、しかも凄まじい勢いで前線を押し上げていく様は、近衛とはまた違う“戦場の猛者”の姿を刻みつける。
「……やっぱ、あいつらも半端ねぇな」
涼介が呟いたその声は、どこか悔しさと憧れが入り混じったものだった。
だが今は、一度仕切り直す時だ。燃え尽きる前に、もう一度刃を研ぐ。
レッドキグナス中隊は、火線を後にし、補給ラインへと向かっていった。