Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
1999年秋、帝国本土防衛軍・帝国近衛軍・帝国陸軍による合同作戦「八雲作戦」は、出雲方面のBETA定数を削減するという目的を果たし、遂に幕を下ろした。
戦術機の残骸と、焼け焦げた土の匂いが辺りに漂う中、各部隊は戦果確認と戦線整理を進めていた。帝国三軍とも損耗は少なくなかったが、戦線を押し上げるという最低限の目的は果たされており、評価としては“勝利”の一言に尽きた。
そんな中、レッドキグナス中隊は奇跡的に死傷者ゼロという快挙を成し遂げていた。
「これで……終わった、か」
涼介は、無数のBETAを屠った不知火のコクピットに体を預け、天を仰ぐ。神経をすり減らす連続出撃の末、視界に映るのは味方機だけだ。
戦線後方の簡易補給拠点へ帰投すると、レッドキグナスの面々は皆、疲労の色を隠せないものの、どこか誇らしげな顔をしていた。
「作戦終了です。みなさん、本当にお疲れさまでした」
青島中尉の穏やかな声が通信に流れる。司令車内で各部隊の指揮中枢を支え続けた彼女もまた、心底安堵した様子だった。
「ま、これも全員が生きて帰ってこそだな」
保科が目を細めて笑うと、整備班の拍手が自然と沸き上がった。疲れ果てた兵たちの顔に笑みが戻っていく。
夜、敦賀基地に帰投したレッドキグナス中隊には、炊き出しと温かい食事が振る舞われた。粗末ながらも、戦地帰りの兵たちにとっては何よりのご馳走だった。
その中で、涼介の姿が見えない。
「あの、保科大尉。鍋島中尉が……どこかへ?」
青島が訊くと、保科は苦笑しながら答える。
「さあな。おそらく……例の“赤いの”を探しにでも行ったんだろう」
そう、涼介は探していた。戦場で鮮烈な印象を残した、あの赤い武御雷の搭乗者――クレイジーチキンズ隊長・渡との再会を。
「渡大尉の奴……どこ行った?」
基地内を探し回ったが、近衛軍の詰所には既にもぬけの殻。整備班にも問い合わせたが、「先ほどすでに部隊ごと引き上げた」とのことだった。
「あんの野郎、あっさりしすぎだろ……」
涼介は小さく笑い、しかしどこか残念そうに呟いた。
「貴殿との共闘は楽しめた。またどこぞの戦場で会おうぞ」――あの去り際の言葉だけが、妙に耳に残っていた。
その頃、保科は本土防衛軍の将校とベンチで向かい合い、なにやら難しい顔で話をしていた。話題の内容までは遠くて聞き取れなかったが、涼介は「今は邪魔しない方がいいな」と判断してそっとその場を離れる。
「おい、富田、煙草あるか?」
「あるにはあるが、最後の一本だよ」
「じゃあ買い出しがてら、小川も誘うか」
そう言って涼介は、富田と小川を引き連れ、PXの片隅にある喫煙所へ向かう。無骨なベンチに腰掛け、火を点けた煙草の先に、戦場の残り香を感じた。
「お前ら……死ぬなよ。次の“出雲”まで、まだ先は長いんだ」
涼介の言葉に、富田と小川は無言でうなずいた。
その夜、静かに夜風が基地を撫でていた。長い戦いの終わりと、次なる戦いの予感。その狭間にあるわずかな安息を、誰もが噛み締めていた。
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