Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
敦賀基地の食堂棟。八雲作戦から帰還した各部隊の一部が集い、作戦に参加した衛士を労うささやかな食事会が開かれていた。豪華とは言い難い献立だが、湯気を立てる味噌汁の匂いに、無事生還した者たちの心がじんわりとほどけていく。
「――これが“死の8分”を超えた味ってやつですね」
紗栄が言った。隣の柊が肩をすくめながら苦笑いを返す。
「大げさな。もう少しで心臓が止まりそうだったのは事実ですが……」
「でも、ホントに生きてるんだよ、私たち」
湯呑を両手で包み込むように抱え、紗栄はぽつりと呟いた。彼女の頬は紅潮し、目の縁にはうっすらと涙がにじむ。緊張と恐怖と、そのすべてからの解放に似た涙だった。
「お前ら、初陣お疲れさん。よく頑張ったな」
有村が席に着き、カップ酒をくいとあおる。隣には大友も座り、紗栄に優しい目を向ける。
「無事で何よりです、紗栄ちゃん。訓練とは比べものにならない緊張だったでしょう?」
「……はい。でも、隊の皆さんがいてくれたから、なんとか」
「それは違いますよ」
不意に松原が口を挟んだ。柔らかな笑みを浮かべながら、真っ直ぐに紗栄を見つめる。
「自分の命は自分で守った。僕もそうだった。……前の作戦で守れなかった命の分まで、強くならないとね」
「そうね〜。あたしもそろそろ、エースって呼ばれてもいいと思ってるんだけどなぁ」
ちゃっかりと松本が加わり、皆の笑いを誘う。松本と松原は、今日の戦場でも息の合った連携を見せていた。だがそれでも、誰一人として慢心はしていない。
「キグナス中隊、損耗ゼロってマジで奇跡だよな」
「それもこれも保科大尉と――あの熱血中尉のおかげ、じゃない?」
と、大友が涼介の名前を口にした瞬間、タイミングを測ったように当の本人が食堂に入ってくる。
「おっ、お前ら食ってるかー!」
「うるさいっですよ中尉。耳元で吠えないでくださいってば」
と小川が軽く肘鉄を入れ、富田が笑う。
「アイツ、また声デカいっけね」
その一方で、涼介の目はちらちらと会場内を探っている様子だった。
「……近衛はやっぱいねぇよな」
「近衛は作戦終了後すぐ帰ったってさ。余計な関わりは避ける主義らしい」
有村がさらっと言って、涼介は肩を落とす。
「渡大尉ともっかい話したかったんだがなぁ……」
「面白い人でしたよね」
松原がぽつりとこぼし、その場はまた笑いに包まれた。
やがて食事会はお開きとなり、ぞろぞろと兵舎へと戻る隊員たち。涼介も立ち上がりかけたが、ふと後ろから小さな声が聞こえた。
「チビ兄……」
振り返ると、紗栄がぽつんと立っていた。食堂の照明に照らされた瞳は、やはりどこか潤んでいた。
「ちょっとだけ、話せる?」
基地の外れ、まだ冷たい風が吹き抜ける廊下をふたりで歩く。しばらく無言が続いたあと、紗栄がぽつりとこぼす。
「……死ぬかと思った。マジで、全部止まったみたいだった。でも、足を動かして、トリガーを引いて……気づいたら、生きてた」
「……そっか」
「ねぇチビ兄」
彼女の瞳が、懸命に戦った一人の衛士のものへと変わっていた。
「紗栄、少しだけでも強くなれたのかな」
涼介は黙って立ち止まり、妹の頭に手を置いた。
「……十分だ。よくやったな、紗栄。誇っていい」
その言葉に、紗栄は唇をきゅっと引き結び――次の瞬間、堪えきれずに兄の胸に飛び込んだ。
「バカ兄……泣いちゃうじゃん……」
「おうおう!泣け泣け。泣ける時に泣いておけ。次の戦場じゃ、泣く暇なんてないかもしれないからな」
兄と妹、戦場で再会したふたりは、初めての戦を共に乗り越え、ようやく静かに言葉を交わすことができた。
夜が更け、基地には消灯のアナウンスが響く。
涼介は妹を軽く背中で押し、宿舎の明かりの方へと導いた。
「ほら、寝ろ。明日からまた訓練漬けだ」
「うん……おやすみ、チビ兄」
「おう。おやすみ、紗栄」
八雲作戦の夜は静かに、そして深く、レッドキグナス中隊の記憶に刻まれていった――。
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