Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

58 / 224
第五十一話 模擬戦と499戦目

長岡基地の演習区域。初夏の空に戦術機のブースター音が轟く中、砂煙が立ち上がっていた。

 

レッドキグナス中隊の隊長機、不知火壱型丙がその中心に立つ。漆黒に近いフレームに大型跳躍ユニットを背負ったその機体は、まるで獣のような存在感を放っていた。

 

「本当に……動くんだな、あの化け物」

 

涼介が呆れたように呟いた。

 

「出力は申し分ない。クセはあるが、反応の鋭さは確かだ」

 

保科がいつものように冷静に答える。

 

今日の訓練は、この新機体の完熟訓練を兼ねた模擬戦。相手は、かつてレッドキグナスに在籍し、今は同じサマートライアングル大隊のブルーイーグルス中隊を率いる江上哲也大尉だ。

 

「おー、懐かしい顔ぶれやなぁ」

 

通信越しに聞こえてきたのは江上の飄々とした関西弁。

 

「久しぶりやなぁ、保科。俺もやがお前が隊長とは、月日が経ったもんだ」

 

「……江上、今日は完熟訓練に付き合ってくれてありがとうな」

 

「えぇねん、えぇねんて。ついでにお前の“化け物機体”の性能も見せてもらうで。あいかわらず“兄貴”って呼ばれてるらしいな?」

 

通信の後ろで部下たちがくすくす笑っているのが聞こえる。

 

「江上さん! お久しぶりです!今日は負けませんよ!」

 

「おぅ涼介! 聞いてるで! 相変わらずの“突撃バカ”! 今日は煽るから覚悟しとけや!」

 

「やってやんよ、江上さん! 今日こそは一発カマしてやっからな!!」

 

そうして、かつての仲間との懐かしいようなやり取りのあと、演習が開始された。

 

 

戦術機二十四機による模擬戦は、開始と同時に砂塵と火花が舞う。

 

保科の不知火壱型丙が跳躍し、そのままブルーイーグルスの中隊へ切り込む。

その動きは予想以上に鋭い。ピーキーな重量機とは思えない滑らかな挙動。

 

「……兄貴やべぇな、あれマジで不知火か?」

涼介が呟く。レーダー上で保科機は一直線に敵隊の中央を抉るように突き進んでいる。

 

「囲んでも外に逃げないとは……保科らしいわ、ホンマ」

 

江上が小さく吐き捨てる。

 

中隊戦でありながら、保科は完全に単機で戦線を破壊していく。

その後を追うように、レッドキグナスの松原や松本、有村、小川らも突撃。

 

「うぉおおお、負けてられるかあああっ!!」

涼介も吠えながら突入。松本とともに回り込み、連携して一機ずつ敵を潰す。

 

「突っ込み過ぎた、涼介!!」

「うるせぇ!兄貴の方が突っ込んでだろ!」

 

だが模擬戦という枠を外れないギリギリの線で、互いに本気を出していた。

 

 

数十分後、模擬戦は両隊の「引き分け」で終了。

 

江上が強化装備の襟元を緩めながら、保科に歩み寄る。

 

「相変わらずやな、あの頃の突撃バカをしっかりと手綱を握りながらしっかり隊長やってるやんけ……感慨深いで」

 

「……江上の援護がなければ、今の俺はなかったよ」

 

「お前が中隊長なら、こっちも安心やわ。機体も良いもの貰ったようやな。お前には似合っとるで」

 

その隣で涼介がふてくされた顔で腕を組んでいた。

 

「……何だ、どうした涼介」

「兄貴。今の模擬戦、兄貴ばっか目立っててずるい」

「お前が勝手に突撃しただけだろ」

「……次だ」

「ん?」

 

涼介が一歩、保科に詰め寄る。

 

「次は俺と兄貴のタイマンだ。499戦目、やろうぜ兄貴」

保科は少し目を見開いてから、静かに頷いた。

 

「いいだろう。ただし……俺は手加減はしないぞ」

「望むところだ」

 

夕陽の中、二人の影が交差する。

四百九十八戦全敗の涼介が、ついに挑む四百九十九戦目。

 

そして、その先にある五百戦目――物語の転機は、もうすぐそこにあった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。