Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
年が明け、2000年──。
未曾有の脅威「BETA」との戦いが続く中、帝国斯衛軍の一翼を担うレッドキグナス中隊は、春に予定される大規模掃討戦「出雲作戦」に向け、長岡基地にて訓練の強度を一層高めていた。
冷たい朝靄の中、格納庫の警告灯が赤く明滅する。
鋼鉄の脚を鳴らしながら次々と起動していく94式《不知火》と不知火壱型丙。
出撃を告げるブリーフィングのアラートが鳴ると、最前衛に立つA分隊の4機が、真っ先に滑走路へ躍り出る。
「よっしゃァ行くぞォォ!今日も突っ込むぞオラァァッ!」
先陣を切るのは鍋島涼介中尉。
いつも通りの豪快な突撃だが、彼の動きには以前と比べて“ある変化”があった。
「……あれ、鍋島中尉、こっち見ながらフォロー入れてくれてますね?」
後方から追随する柊直樹少尉が、思わずモニター越しに呟いた。
「確かに。こっちの対応が遅れた時も、先読みして射線切ってくれていました。なんか、ちゃんと“分隊長”してますね」
松原充少尉が苦笑混じりに応じる。以前の涼介なら、敵の正面に突っ込んでいって味方がそれに合わせる感じだった。それが今は、全体の隊列や射線、タイミングまで見極めて指示を飛ばしている。
「いや〜進化してるね、なべ中尉。あたし、ちょっと嫉妬しちゃうかも」
涼介のすぐ横を駆ける松本歩夢少尉は、どこか楽しそうに笑っていた。
「うるせぇ!、余計な事言ってねぇでしっかり着いてこいや!」
涼介がふと笑い、照れ隠しに檄を飛ばした。
あの499戦目。保科隼人大尉との模擬戦は、敗北だった。だが、あの一戦が涼介にとって何よりの転機となった。力任せの突撃だけでなく、仲間との連携を意識し、“戦場を見渡す目”を持つことの重要性を骨の髄まで叩き込まれたのだ。
その成果は如実に現れていた。
A小隊の機動はかつてないほど滑らかで、分隊単位の迎撃演習ではB小隊やC小隊の支援を必要とせず、単独でBETAの波状を想定した攻撃に対し“全機生存”で対応する成功率が大幅に上昇していた。
──
「ちっ、アイツら……随分、調子いいじゃねぇか」
格納庫の上階、シミュレーションルームで映像を見ながら岸本悠真少尉が肩を竦めた。
「でも、いい刺激になりますね。負けてられないと思いますよ」
小川陸少尉がやや悔しげに言うと、有村蓮少尉は「……訓練の本番は、出雲作戦だからな」と淡々と応じた。
「だな。今のうちにミスは潰しておきてぇ。BETAにゃ悪ぃけどよ、標的になってもらおうじゃねぇか」
保科隼人大尉は、腕を組みながら部隊全体の映像を静かに見つめていた。
A小隊の躍進に引き上げられるように、B小隊・C小隊もそれぞれが役割の再確認と連携精度の向上に努めていた。
「小さい鍋島、タイミング遅いっけ。ポイントBからの射撃、外してなければ味方が1人死なずに済んだぞ」
「っ……はい、すみませんっ!」
制圧支援担当の鍋島紗栄少尉が悔しげに答える。だが、その目は怯んでいなかった。すぐ横で大友美香少尉が、ぽんと肩を叩いて励ます。
「でも回避も制圧も前より上手くなってるよ。あとは落ち着きだけ。大丈夫、春までには間に合う」
「……はいっ!」
──
訓練の終わり、夜のPXではささやかな夕食を囲む。
「いやー、涼介。最近マジで凄いよな。普通に小隊長してるし」
「うっせ。元から小隊長だわ。まぁ、模擬戦で兄貴にボコられたおかげでな」
「ん、“おかげ”って言えるようになったんだね」
「……うるせぇよ松本!。悔しいけど、兄貴に勝てる日までは負けらんねぇ!」
レッドキグナス中隊は、確かに変わりつつあった。
各分隊の練度向上、仲間意識の強化、そして士気の上昇。
春の決戦──「出雲作戦」は、確実に迫ってきていた。
だが、彼らは恐れず、ひたすら前を見据えていた。
仲間と共に、生き残り、勝つために。
そして、鍋島涼介はこの日、戦場を“独り”で走るのではなく、“仲間と共に戦う”という意味を本当の意味で理解し始めていた。