Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第五十四話 出雲作戦前夜

2000年5月6日、敦賀基地。長らく西部方面からの補給拠点として機能してきたこの基地に、今、各地から集結した部隊が熱気を帯びていた。翌日に控えたのは、BETAによって制圧された鳥取一帯を奪還し、西日本の再興の突破口とするべく発動される――「出雲作戦」。

 

レッドキグナス中隊の面々も、この決戦に向けて各自の整備や最終確認を進めていた。ハンガーデッキでは整備兵たちが戦術機に最終調整を施し、隊員たちはそのまま、緊張した表情で最後の準備に取り掛かっている。

 

「……やっぱり来てねぇか、渡大尉のやつ」

涼介は機体整備を終えた不知火のコックピットの縁に座りながら、ふと呟いた。

近衛第三大隊がこの作戦に参加していると聞いて24連隊の不在は知ってはいたが、八雲作戦で共闘した渡大尉の姿は強烈に焼きついていた。

強引で乱暴なところもあったが、あの時共に戦場を駆けたあの男の不在が、涼介の心に一抹の寂しさを残していた。

 

「ま、渡大尉のことだ。どこか別の戦線で会えるだろう」

自分に言い聞かせるように呟き、立ち上がる涼介。視線をやれば、A小隊の松本、松原、柊がそれぞれ準備に余念がない様子で動いていた。あれからの数ヶ月、彼らの練度は確実に上がっていた。かつて突っ走るだけだった自分も、今では分隊長として、仲間を「見る」ことができるようになったと少しだけ自覚している。

 

やがて、司令部ブリーフィングルームに全隊員が集められる。緊張感が空気を支配する中、スクリーンに鳥取周辺の地形データとBETAの行動パターンが映し出される。

 

「出雲作戦は、西日本奪還を視野に入れた作戦です」

ブリーフィング室に響くのは、無感情な、それでいて正確無比な声。

レッドキグナス中隊のコマンドポスト担当官――青島葵中尉である。

茶髪のポニーテールを揺らしながら、彼女は無表情で状況を淡々と説明していく。

 

「敵戦力は、師団規模要撃級を中心に、軍団規模の突撃級、戦車級に関しては測定不能の個体数が確認されています。光線級は確認されていませんが、後方に要塞級が存在する可能性があるとの分析です」

「こちらの部隊編成は――」

 

その瞬間、涼介が思わず口を開く。

「なぁ、青島。明日生きて帰ったら……デートしてくれよ」

 

中隊員たちが一瞬、ざわっとざわめく。恒例のやり取りだ。涼介と青島の間で繰り返されるこの儀式めいたやり取りは、すでにレッドキグナス中隊にとって士気高揚の定番のようになっていた。

 

「考えておきます」

葵は、微動だにせずにそう返す。まるで、明日もまた無事に帰ってくることが当然だと言わんばかりに。

 

涼介はそれを聞いて、口元だけで笑った。

 

保科隼人大尉が前に出ると、中隊員たちに向かって一言。

「この作戦は、これまで以上に過酷なものになる。だが――俺たちはここで踏ん張らなきゃならない」

彼の眼光は鋭く、それでいて誰よりも部隊を想っていた。

「生きて帰る。全員でだ。いいな、レッドキグナス!」

 

「「「了解!」」」

 

声が揃う。

出撃は、明朝。

戦場は鳥取。

BETAの牙が待ち受ける地へ、レッドキグナス中隊が挑もうとしていた。

 

それぞれの想いを胸に抱きながら――。

 

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