Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
2000年5月7日午前0400時。
濃密な霧が鳥取平野を覆う中、各地に展開した部隊が同時に動き出す。いよいよ「出雲作戦」が始まった。
敦賀基地、作戦管制室。緊張感に満ちた空気の中で、青島葵中尉は冷静にコマンドポストを務めていた。
「BETA、北西から東南にかけて広域展開。突撃級多数。要撃級がそれを護衛するように前進中。各隊、予定通りに進軍を」
背筋を伸ばし、淡々と指示を飛ばす葵。その傍らにいた保科隼人大尉が、出撃前のブリーフィングを終えたレッドキグナス中隊の前に立つ。
「目標は鳥取市街、制圧地点ポイント。ここを取れば西日本奪還への足がかりになる。生きて帰れ。いいな、全員だ」
隊員たちが一斉に頷く。その中で、涼介がふと視線をコマンドポストに向け、にやりと笑った。
「なあ、青島。……この作戦が終わったら、デートな」
その場に居た全員が一瞬だけ表情を緩める。恒例のやり取りだ。
返す言葉は決まっている。
「考えておきます」
無表情のまま、だが確実に届く声。
その瞬間、レッドキグナス中隊に一本の芯が通った。
「よっしゃあ、いっちょ派手にいくぜぇ!」
涼介が吠える。94式不知火のコクピットが閉じられ、A小隊が順次起動。
「松本、頼んだぞ。いつもどおりでな」
「りょー。任せて、なべ中尉、。あたし、みんながどこにいても見えてるから」
天然ながら鋭いセンスを持つ松本が、ふんわりと笑う。
「……前に出すぎないでくださいよ、鍋島中尉。中尉が落ちたら、隊が崩れるんですから」
冷静沈着な柊が淡々と注意するも、口元はほんの僅かに緩んでいる。
「ま、鍋島中尉の事は僕が守りますよ……」
松原がボヤきながらも、装備した突撃砲のセーフティを外す音が響いた。
一方、B小隊も出撃準備を完了していた。
「支援要請は迅速にな、俺たちがカバーに入る」
悠然と構える保科に、岸本が笑って返す。
「ったく、若い奴らの後始末ばっかりやってられっかよ。でもまあ、嫌いじゃねぇぜ」
「隊長、少しは頼ってくれても構いませんよ」
小川が肩をすくめるようにして、機体を起動させる。
「……敵影確認次第、優先順位で撃破します」
有村の低く、静かな声が全機に響いた。
さらにC小隊も動き出す。
「よし、俺たちも行くっけね! 支援火力の本気ってやつを見せてやれ!」
富田が叫ぶと、前園が小さく頷きながらコンソールを操作。
「大友、小さい鍋島。前に出すぎるなよ」
「了解です富田中尉。みんなで帰りましょう!」
「……チビ兄、後ろは任せて。絶対、守るから」
紗栄が気合いを込めて応える。
そして――。
「レッドキグナス中隊、全機、出撃してください。」
青島の指示が飛ぶ。
滑走路を駆け抜ける戦術機群。空が白み始める黎明の空に、彼らの跳躍ユニットのジェット噴射が閃光を描いた。
鳥取市街外縁。
戦闘が開始されたのは出撃からおよそ30分後。突撃級の大群が地響きを立てて接近する中、涼介が吠える。
「A小隊、正面突破だッ! 松本、右から来る要撃級に気をつけろ!」
「りょー!」
松本が即座に対応。柊と松原も左右から追随し、戦術機が交差しながら要撃級の首を跳ね飛ばしていく。
「……今の動き、悪くない」
後方から様子を見ていた保科が、通信越しに呟いた。
「鍋島中尉、ちゃんと周り見えてますね」
小川が納得したように言えば、岸本も苦笑する。
「成長したじゃねえか、兄貴分の出番はもうねえか?」
「それは困ります。大尉が背中で引っ張らないと、みんな止まりませんよ」
有村の言葉に、保科は一つ笑った。
「……よし、レッドキグナス、全力で突破するぞ!」
その言葉に応えるように、C小隊の支援砲撃が前線に炸裂する。富田の不知火が敵陣に破壊の楔を打ち込み、紗栄と大友がその後を追う様に砲撃する。
「おらぁ! 吹っ飛べ、BETAどもォ!」
「……行くよ、チビ兄……!」
戦術機の群れがBETAの波に突き進む。
今ここに、レッドキグナス中隊の本領が発揮されていた。
――この地を奪還するために。
――誰ひとり欠けることなく、生きて帰るために。
そして、次の“約束”を果たすために。