Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第五十六話 出雲作戦交錯する絶望

2000年5月7日午前0600時。

出雲作戦第二段階。鳥取市街北東部、地下構造物制圧作戦区域。

 

レッドキグナス中隊は、他部隊が足踏みする中で、前線を大きく押し上げていた。

だが、それは同時に孤立を意味していた。

 

「……こちら富田、残弾残りわずか。C小隊、補給のためいったん後退したいっけね」

 

「こちらコマンドポスト、了解しました。補給の必要性を認め後方支援ラインまで下がってください。A・B小隊はこのまま待機、周囲警戒のちB小隊から順に後退してください」

青島が応じ、的確に指示を出す。

 

突撃級、要撃級が次から次へと湧いてくる。制圧したはずの通路が、再びBETAの泥流で満たされていく。

 

「っち、さすがに数が異常だ。こりゃ……!」

岸本が汗を拭いながら呟いた、そのとき。

 

「――HQから緊急入電!」

後方通信から青島の無機質な声が響いた。

 

「地下空間より複数の反応、BETA進行ルート発見。地形図と一致しません。――囲まれます」

 

「……は?」

涼介の顔色が変わる。すでに四方のビル群から、地下通路から、そして周囲のビルの隙間からもBETAが殺到していた。

 

「チッ、罠かよ……っ! くそッ、囲まれた!」

保科が叫ぶと同時に、部隊は自動的に円陣陣形へと移行する。

 

「全員、機体損傷率確認! A小隊、南東へ突破口を開け! 要撃級が主だ、やれるな!」

 

「よっしゃああああああ!! 行くぞぉおおおおおッ!!!」

涼介が機体を跳ね上げ、敵陣中央へ突貫する。

 

「涼介、右に要撃級! こっちは俺がやるっ!そのまま行け」

 

保科の不知火壱型丙の突撃砲が火を吹き、涼介の不知火に向かっていたBETAを吹き飛ばしなが撃を飛ばす。

 

「行くぞ、松本! 松原、柊、左! 援護しろ!」

 

「りょー、なべ中尉!――こっちは任せて!」

 

A小隊の4人が突破口をこじ開けるように進む。しかし、BETAの濁流は尽きることを知らない。

 

「待って……! 俺も、俺も……!」

その背中を追う柊の機体が、突如ぐらりと傾いた。

 

「――う、わ……跳躍ユニット被弾……!? 推進剤が……ッ!」

煙が上がり、右脚部から噴き出す青白いガス。推進剤の漏れ。柊の機体がその場に膝をつく。

 

「くそ……! 動け、動けよ……っ! 誰かッ……誰か助けてください……ッ!!」

 

普段冷静な彼の声が、ノイズ混じりに悲鳴となって届く。全員がその異変に気づいた。

 

「柊――!?」

松原が振り返る。

 

「ダメだ、松原戻るな! 柊! すぐ援護を送る、耐えろ!!」

保科が叫ぶ。

 

その声に応えるように、有村の不知火が一直線に彼の元へ突撃する。

 

「落ち着け、柊。振り切るぞ。突撃級の波、左へ逸らす。俺が囮になる」

 

「うわぁぁぁッ! 近寄るなッ……!来るなぁくるなぁぁあぁぁ!!」

柊の呼吸は乱れ、完全に視界を喪失していた。

 

恐怖と混乱に支配された指が、無意識に引き金を絞る。

乱射された突撃砲の一発が、有村の機体の右脚部を貫いた。

 

「ッ――!」

 

不知火が横転し、機体が地面を引きずられる。

その音に、柊の瞳がようやく正気を取り戻しかけた、が――遅かった。

 

「やめろ……来るな来るな来るなァァッ!!」

 

怒号と共に、黒い濁流が2機を飲み込んだ。

突撃級、要撃級、戦車級……その遥か後方に、要塞級の巨体すらちらつく。

 

「柊に有村少尉まで……クソがぁ!」

涼介が叫ぶ。松本の目が見開かれる。松原が拳を強く握った。

 

「……くそ、くそ、まただ……! なんで、こんな……!」

 

保科は唇を噛んで叫び声を呑み込む。

有村。寡黙に戦い続けた男。柊。冷静に状況を見極めていた少年。

2人が、目の前で消えた。

 

「なべ中尉……つぎは?」

松本が震える声で言う。

 

「……突破する。ここで全滅は許されねぇ……!」

涼介の声は震えていたが、確かに前を向いていた。

 

「全機、俺に続け! 柊と有村の分まで、生きて戻るぞ!!」

 

「……了解だよ、大尉……」

岸本の声が低く唸るように返った。

 

「すまん、柊……僕がもっと、見てれば……」

松原が呟く。

 

そして、まだ戻らぬC小隊へと、青島が一言だけ呟いた。

 

「……有村少尉、柊少尉のバイタル消失。合流後、再編成を検討。レッドキグナス……損失、2名」

 

その報告すら、痛みに染まっていた。

 

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