Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
《出雲作戦・最終局面 撤退戦》
出雲作戦は、完全なる失敗だった。
後方のHQ強襲により、戦場は混乱、全軍の被害は甚大
レッドキグナス中隊も、無事とは程遠い状態だった。機体は損耗し、補給も不完全。柊と有村を失い、戦線全体は混乱に満ちている。
それでも、彼らは生きて帰るために動き出した。
「前方、戦車級! 数十、否、百を超える! 側面にも……!」
岸本の報告に保科が即座に命じる。
「C小隊、右へ回り込んで牽制! A・B小隊は中央を突破する! 行け!」
死の咆哮。突撃級の突進が大地を抉る。崩れる友軍陣地。断末魔と悲鳴が次々に交差し、戦域そのものが地獄と化していた。
「畜生っ、クソったれがあああああッ!」
涼介の叫びが、怒声とも悲鳴ともつかない。
彼の不知火が、大破した友軍機の残骸の中を縫うように走る。誰かを助ける余裕などない。レッドキグナス中隊も、今やギリギリの戦力しか残っていなかった。
「諦めるな! 俺たちが止まったら、今度こそ終わるぞッ!」
富田の怒声が部隊の背中を押す。
その叫びの中で、誰もが歯を食いしばり、己の限界を越えていく。
不知火の長刀が唸り、突撃砲の火線がBETAを貫く。跳躍ユニットを噴かし、時に転倒しながらも前に進む。
一機、また一機とBETAを突破し、ようやく、ようやくの思いで後方の安全圏へ――
⸻
《敦賀基地 格納庫》
薄明かりの差すハンガーに、ボロボロの不知火たちが帰還してきた。塗装のほとんどが焼け焦げ、片腕を失った機体もある。
コックピットが開き、涼介が地面に飛び降りる。足元がふらついた。
誰も言葉を発さない。ただ、生きて帰ってきたという事実だけがそこにあった。
そして、その沈黙を破ったのは――
「みなさん、無事でよかったです」
聞き慣れた無機質な声だった。
振り向くと、そこには青島葵中尉が立っていた。
頭には包帯、右腕は吊られている。制服は血に染まり、体のあちこちに傷が見える。それでも、彼女はまっすぐに立っていた。いつも通りの無表情で。
「……あお、しま……?」
涼介が呆然と呟き、一歩、また一歩と歩み寄る。
「私は指揮車両のほうにいたので、何とか無事でした。HQの陥落で通信が遮断され、皆さんの安否が心配でした」
その言葉を聞いた瞬間、涼介の目から大粒の涙が溢れ出した。
「……よがっだ……いぎででよがったぁあ……! あおしまっ……!!」
叫ぶように泣きながら、涼介は青島を強く、強く抱きしめた。
「……痛いです、鍋島中尉。私、骨折しています」
青島は淡々と、変わらぬ調子で言った。しかしその瞳の奥は、わずかに潤んでいた。
「……無事に、帰ったからな……」
涼介は肩を震わせながら、青島の髪に額を預けた。
「約束だ……デートしようぜ、青島……」
数秒の沈黙ののち、青島はやはり変わらぬ声で言った。
「……考えておきます」
沈黙の後――
「……くくっ……」
誰かの笑い声が漏れ、それは次第に隊全体へと広がっていった。
「やっぱあの2人、こうじゃねぇとな……」
「疲れてんのに笑わせんなよ……お前ら反則……」
「もう……笑わすな……涙止まんねぇんだよ……」
笑いながら泣く者、泣きながら笑う者。誰もが涙を浮かべながら、それでもその場に立ち尽くしていた。
出雲作戦――失敗。
多くの仲間を失い、心に深い傷を残して。
それでも、帰ってこられた者がいた。再会できた者がいた。
その事実だけが、彼らをまた歩かせる力になった。
レッドキグナス中隊は負けていない――再び、ここから始まる。