Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

65 / 224
第五十八話 出雲作戦失敗 地獄からの生還

《出雲作戦・最終局面 撤退戦》

 

出雲作戦は、完全なる失敗だった。

 

後方のHQ強襲により、戦場は混乱、全軍の被害は甚大

 

レッドキグナス中隊も、無事とは程遠い状態だった。機体は損耗し、補給も不完全。柊と有村を失い、戦線全体は混乱に満ちている。

 

それでも、彼らは生きて帰るために動き出した。

 

「前方、戦車級! 数十、否、百を超える! 側面にも……!」

岸本の報告に保科が即座に命じる。

 

「C小隊、右へ回り込んで牽制! A・B小隊は中央を突破する! 行け!」

 

死の咆哮。突撃級の突進が大地を抉る。崩れる友軍陣地。断末魔と悲鳴が次々に交差し、戦域そのものが地獄と化していた。

 

「畜生っ、クソったれがあああああッ!」

涼介の叫びが、怒声とも悲鳴ともつかない。

 

彼の不知火が、大破した友軍機の残骸の中を縫うように走る。誰かを助ける余裕などない。レッドキグナス中隊も、今やギリギリの戦力しか残っていなかった。

 

「諦めるな! 俺たちが止まったら、今度こそ終わるぞッ!」

富田の怒声が部隊の背中を押す。

 

その叫びの中で、誰もが歯を食いしばり、己の限界を越えていく。

 

不知火の長刀が唸り、突撃砲の火線がBETAを貫く。跳躍ユニットを噴かし、時に転倒しながらも前に進む。

 

一機、また一機とBETAを突破し、ようやく、ようやくの思いで後方の安全圏へ――

 

 

《敦賀基地 格納庫》

 

薄明かりの差すハンガーに、ボロボロの不知火たちが帰還してきた。塗装のほとんどが焼け焦げ、片腕を失った機体もある。

 

コックピットが開き、涼介が地面に飛び降りる。足元がふらついた。

 

誰も言葉を発さない。ただ、生きて帰ってきたという事実だけがそこにあった。

 

そして、その沈黙を破ったのは――

 

「みなさん、無事でよかったです」

 

聞き慣れた無機質な声だった。

 

振り向くと、そこには青島葵中尉が立っていた。

 

頭には包帯、右腕は吊られている。制服は血に染まり、体のあちこちに傷が見える。それでも、彼女はまっすぐに立っていた。いつも通りの無表情で。

 

「……あお、しま……?」

 

涼介が呆然と呟き、一歩、また一歩と歩み寄る。

 

「私は指揮車両のほうにいたので、何とか無事でした。HQの陥落で通信が遮断され、皆さんの安否が心配でした」

 

その言葉を聞いた瞬間、涼介の目から大粒の涙が溢れ出した。

 

「……よがっだ……いぎででよがったぁあ……! あおしまっ……!!」

 

叫ぶように泣きながら、涼介は青島を強く、強く抱きしめた。

 

「……痛いです、鍋島中尉。私、骨折しています」

 

青島は淡々と、変わらぬ調子で言った。しかしその瞳の奥は、わずかに潤んでいた。

 

「……無事に、帰ったからな……」

 

涼介は肩を震わせながら、青島の髪に額を預けた。

 

「約束だ……デートしようぜ、青島……」

 

数秒の沈黙ののち、青島はやはり変わらぬ声で言った。

 

「……考えておきます」

 

沈黙の後――

 

「……くくっ……」

 

誰かの笑い声が漏れ、それは次第に隊全体へと広がっていった。

 

「やっぱあの2人、こうじゃねぇとな……」

 

「疲れてんのに笑わせんなよ……お前ら反則……」

 

「もう……笑わすな……涙止まんねぇんだよ……」

 

笑いながら泣く者、泣きながら笑う者。誰もが涙を浮かべながら、それでもその場に立ち尽くしていた。

 

出雲作戦――失敗。

 

多くの仲間を失い、心に深い傷を残して。

 

それでも、帰ってこられた者がいた。再会できた者がいた。

 

その事実だけが、彼らをまた歩かせる力になった。

 

レッドキグナス中隊は負けていない――再び、ここから始まる。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。