Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
【長岡基地・格納庫裏】
夕暮れ時。空は茜に染まり、整備機の唸りが低く響く。長岡基地の格納庫裏――その静寂を破るように、二人の新兵がレッドキグナス中隊の前に立った。
「雁部雅史少尉、着任しました。……以上!」
「小林洋平少尉、同じく。――本日より、よろしくお願いします」
雁部は肩のバッグを片手で放り投げ、口角をにやりと吊り上げた。
「てなわけで、今日からお世話になりやす。よろしゅう頼んまっせ!」
中隊員たちが微妙な顔で目を見合わせる中、鍋島涼介がいきなり大笑いした。
「お前、キャラ濃すぎだろ! ……気に入ったぜ!雁部って、あの“狂犬雁部”か?」
「お、知ってんすか? ま、噂先行ってやつっすよ。今はちっとマイルドになってるんで安心してくだせぇ、鍋島中尉殿!」
ふたりは拳をコツンと軽くぶつけ合い、もう旧知の友のようだった。
一歩後ろ、小林洋平は静かに一礼した。
「本土防衛軍からの転属です。規律と連携を重視しています。……どうぞ、ご指導のほど、お願いします」
その堅さに保科隼人は小さく笑った。
「真面目そうなやつが来てくれて助かるよ。……雁部がアレだから、バランス取ってくれな」
「俺ァ真面目っすよ!? バカヤベーくらい!」
「うるせぇよ」と涼介が笑いながらツッコミを入れ、皆に少しずつ笑みが広がっていった。
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【格納庫・喫煙所】
夕食後、涼介は雁部を喫煙所に連れていく。すでに保科、富田、小川の三人が、それぞれの癖で煙をくゆらせていた。
「おー、鍋島に……新入りの雁部か」
「うっす、先輩方。喫煙所ってだけで嬉しいっす。国連軍じゃ一緒に吸うようなヤツいなかったっすから」
雁部はズボンのポケットから銀色のライターを取り出し、ライターの蓋をクルッと回して火をつける。
「……こーゆう空間があるだけで、戦場の匂いが少しマシに感じるっすよ」
富田が頷いた。
「なんかわかるな。煙草は心の防塁ってな」
「……国連軍の頃、どんな部隊だったんだ?」と保科が訊く。
雁部は煙を吐きながら肩をすくめた。
「精鋭っちゃ精鋭。でも“誰かの死”が“自分とは関係ねぇ”って顔した連中ばっかでしたわ。ああいうの、無理っす」
保科は黙って煙を吐き、言った。
「うちは、そうじゃない。……死んだ奴の名前、忘れない。そういう連中の集まりだ」
「サイコーっすね。そーゆー部隊が、一番バカヤベーくらい強いっすよ」
そう言って雁部は涼介にウィンクし、涼介は「うさんくせぇ!」と笑いながら肩を叩いた。
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一方、小林は少し離れた壁際で、黙って手帳をめくっていた。その背後に保科が近づく。
「どうだ、馴染めそうか?」
「……正直、驚いています。全体的に、自由というか……温度があります」
「温度?」
「はい。本土防衛軍では……誰かが死んでも“記録”として処理される。ここは“記憶”がある。……不思議です」
保科はしばらく黙ってから、静かに言った。
「俺は……全員を守れるとは思ってない。でも、少なくとも……忘れたくないと思ってる」
「……それは、贅沢な考えじゃないでしょうか?」
「贅沢でも、間違っててもいい。そっちの方が“人間”だろ」
小林はゆっくりと頷いた。
「……勉強になります」
「硬くなるなよ。小林、もうお前も“こっち側”の人間なんだ」
「……はい、大尉」
小林の目には確かに誠実な光が宿っていた。
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【整備区画・数日後】
格納庫では、涼介と雁部が機体の調整をしていた。
「おい、ここの調整まだ甘いぞ!」
「すんませんすんません、ナベさんの指示にはバカヤベーくらい従いますって!」
「だから“ナベさん”言うなっての!」
「でもナベさんっすよね?だって“ナベ”島っすよ?」
「お前と松本だけで俺の呼び方ブレすぎなんだよ!」
整備兵たちが笑う中、雁部は涼介にこっそり囁いた。
「……正直、ナベさんと組めて良かったっす。前線での背中、信じられるって思えたのは初めてっすよ」
涼介は一瞬、真面目な顔でうなずいた。
「……当然だろ俺を誰だと思ってやがる!。しかし戦場で背中預けられるかどうかって、大事だからな」
その“信頼”は、まだ生まれたばかりの芽だったが、確かに根を下ろしつつあった。
そしてその陰で、小林の冷静な視線が、整備区画の全体を静かに見渡していた――。