Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第五十九話 キグナスに新たなる風

【長岡基地・格納庫裏】

 

夕暮れ時。空は茜に染まり、整備機の唸りが低く響く。長岡基地の格納庫裏――その静寂を破るように、二人の新兵がレッドキグナス中隊の前に立った。

 

「雁部雅史少尉、着任しました。……以上!」

「小林洋平少尉、同じく。――本日より、よろしくお願いします」

 

雁部は肩のバッグを片手で放り投げ、口角をにやりと吊り上げた。

「てなわけで、今日からお世話になりやす。よろしゅう頼んまっせ!」

 

中隊員たちが微妙な顔で目を見合わせる中、鍋島涼介がいきなり大笑いした。

「お前、キャラ濃すぎだろ! ……気に入ったぜ!雁部って、あの“狂犬雁部”か?」

 

「お、知ってんすか? ま、噂先行ってやつっすよ。今はちっとマイルドになってるんで安心してくだせぇ、鍋島中尉殿!」

 

ふたりは拳をコツンと軽くぶつけ合い、もう旧知の友のようだった。

 

一歩後ろ、小林洋平は静かに一礼した。

「本土防衛軍からの転属です。規律と連携を重視しています。……どうぞ、ご指導のほど、お願いします」

 

その堅さに保科隼人は小さく笑った。

「真面目そうなやつが来てくれて助かるよ。……雁部がアレだから、バランス取ってくれな」

 

「俺ァ真面目っすよ!? バカヤベーくらい!」

「うるせぇよ」と涼介が笑いながらツッコミを入れ、皆に少しずつ笑みが広がっていった。

 

 

【格納庫・喫煙所】

 

夕食後、涼介は雁部を喫煙所に連れていく。すでに保科、富田、小川の三人が、それぞれの癖で煙をくゆらせていた。

 

「おー、鍋島に……新入りの雁部か」

「うっす、先輩方。喫煙所ってだけで嬉しいっす。国連軍じゃ一緒に吸うようなヤツいなかったっすから」

 

雁部はズボンのポケットから銀色のライターを取り出し、ライターの蓋をクルッと回して火をつける。

「……こーゆう空間があるだけで、戦場の匂いが少しマシに感じるっすよ」

 

富田が頷いた。

「なんかわかるな。煙草は心の防塁ってな」

 

「……国連軍の頃、どんな部隊だったんだ?」と保科が訊く。

 

雁部は煙を吐きながら肩をすくめた。

「精鋭っちゃ精鋭。でも“誰かの死”が“自分とは関係ねぇ”って顔した連中ばっかでしたわ。ああいうの、無理っす」

 

保科は黙って煙を吐き、言った。

「うちは、そうじゃない。……死んだ奴の名前、忘れない。そういう連中の集まりだ」

 

「サイコーっすね。そーゆー部隊が、一番バカヤベーくらい強いっすよ」

そう言って雁部は涼介にウィンクし、涼介は「うさんくせぇ!」と笑いながら肩を叩いた。

 

 

一方、小林は少し離れた壁際で、黙って手帳をめくっていた。その背後に保科が近づく。

 

「どうだ、馴染めそうか?」

「……正直、驚いています。全体的に、自由というか……温度があります」

 

「温度?」

 

「はい。本土防衛軍では……誰かが死んでも“記録”として処理される。ここは“記憶”がある。……不思議です」

 

保科はしばらく黙ってから、静かに言った。

「俺は……全員を守れるとは思ってない。でも、少なくとも……忘れたくないと思ってる」

 

「……それは、贅沢な考えじゃないでしょうか?」

「贅沢でも、間違っててもいい。そっちの方が“人間”だろ」

 

小林はゆっくりと頷いた。

「……勉強になります」

 

「硬くなるなよ。小林、もうお前も“こっち側”の人間なんだ」

 

「……はい、大尉」

 

小林の目には確かに誠実な光が宿っていた。

 

 

【整備区画・数日後】

 

格納庫では、涼介と雁部が機体の調整をしていた。

 

「おい、ここの調整まだ甘いぞ!」

「すんませんすんません、ナベさんの指示にはバカヤベーくらい従いますって!」

 

「だから“ナベさん”言うなっての!」

「でもナベさんっすよね?だって“ナベ”島っすよ?」

 

「お前と松本だけで俺の呼び方ブレすぎなんだよ!」

 

整備兵たちが笑う中、雁部は涼介にこっそり囁いた。

「……正直、ナベさんと組めて良かったっす。前線での背中、信じられるって思えたのは初めてっすよ」

 

涼介は一瞬、真面目な顔でうなずいた。

「……当然だろ俺を誰だと思ってやがる!。しかし戦場で背中預けられるかどうかって、大事だからな」

 

その“信頼”は、まだ生まれたばかりの芽だったが、確かに根を下ろしつつあった。

そしてその陰で、小林の冷静な視線が、整備区画の全体を静かに見渡していた――。

 

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