Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第六十二話 過去を乗り越えて

長岡基地、ブリーフィングルーム。窓のない室内には、機材の発する微かな駆動音と、保科の低く落ち着いた声だけが響いていた。

 

「――以上の理由で、小川少尉。お前には今後、《ガンインターセプター》として中衛ポジションの要を任せたい」

 

保科はホロスクリーンに映し出された配置図を指差しながら、小川に向き直る。

 

「俺と同じ役割ってことになるが。どうだ?」

 

小川陸は短く息を呑んだ。

 

「……正直に言って、怖いです。自分の判断一つで、また部隊を潰すかもしれない」

 

保科の表情がわずかに動いたが、言葉を挟まずに促すように頷いた。

 

「明星作戦のとき――」

 

小川の視線はスクリーンの端をぼんやりと捉えながら、過去に沈んでいった。

 

あの時、横浜ハイヴ攻略を目的とした明星作戦は、その時小川少尉の所属していた部隊の受けた命令は表向きはハイヴ突入部隊の援護だったが、実際は敵制圧区域への強行突破だった。小川が所属していたのは、帝国陸軍川越基地の混成戦術機部隊。戦術機の性能も乗り手の練度もレッドキグナス中隊には到底及ばない。

 

市街地での戦闘中、彼の判断がわずかに遅れ、味方部隊が突出。結果、左右から現れた要撃級の群れに挟撃され、部隊は壊滅し、単機で彷徨っていた所をレッドキグナス中隊に拾われた。

 

「俺の判断が遅れたんです。あの時、ちゃんと下がるべきだった。でも俺は……あいつらを信じて前に出させた。結果、全滅でした」

 

「あの時はお前だけが生き残ったんだったな」

 

「はい。俺一人だけです」

 

静かにそう答える小川に、保科はしばし視線を投げたあと、静かに言葉を選んだ。

 

「それでも今こうして、俺たちの中にいる。お前は逃げなかった。ちゃんと過去と向き合ってる。それは誰にでもできることじゃない」

 

保科は立ち上がり、小川の正面まで歩み寄る。

 

「俺は、お前を《ガンインターセプター》に据えるって決めた。それは、お前が必要だからだ。迎撃後衛はただの後ろじゃない。味方を“生かす”ための前線だ」

 

「生かす……」

 

「そうだ。自分だけじゃない。他人の命を護る場所だ。俺たちは……時に判断を間違える。それでも、自分の判断で“仲間を守る”ことに責任を持てる奴じゃないと、このポジションは務まらない」

 

保科の眼差しが、まっすぐ小川を射抜いた。

 

「お前はその器があると、俺は思ってる」

 

小川はしばらく言葉を返せなかった。

 

胸の奥がぎゅっと締め付けられる。かつての失敗と、保科の信頼。どちらも重く、だが確かだった。

 

「……保科大尉。ありがとうございます」

 

深く頭を下げる。涙が出そうだった。けれど、その感情は過去にすがるものではなく、未来に向かう決意に変わりつつあった。

 

「……もう、逃げません。俺は、俺の判断で、仲間を生かします」

 

保科は口の端を少しだけ上げると、軽く小川の肩を叩いた。

 

「それでいい。今日の訓練から、配置変えるぞ。お前の横には俺がいる。思いきりやれ」

 

「はい!」

 

その声に、迷いはなかった。

 

小川陸、18歳。明星作戦を越えて、今ようやく――“仲間を護る戦い”へと歩き出した。

 

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