Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第六十三話 そこにいる意味

訓練区域、第三シミュレーターブロック。

全天球モニターに広がるのは山岳戦区を模した仮想戦場。戦術機のモーションデータとBETAの反応パターンがリアルタイムで演算され、現実に近い挙動を叩き出していた。

 

「こちらB小隊、小川。配置につきました」

 

「了解、小川少尉。後方火力は任せたぞ」

 

保科の冷静な声が通信に乗って届く。

小川の喉がわずかに鳴った。新しいポジション、新しい責任。だがその重みは、彼の背を押す力にもなっていた。

 

「了解。任せてください、大尉」

 

模擬戦が開始される。

標的の光線級が南側の斜面から接近、続いて戦車級と要撃級の混成群が展開。

 

「BETAの突撃速度、速い……!」

 

焦りが喉元をよぎる。かつて明星作戦で見た光景が、嫌でも脳裏をかすめた。

しかし今回は違う。

 

「小川少尉、右の遮蔽物を回って撃て。奴らの視線を逸らせ」

 

保科の指示が飛ぶ。瞬時に頷き、小川は不知火の機体を旋回させる。

敵の射線に飛び込み、遮蔽物から連続射撃。炸裂音と警告音が交錯する。

 

「撃破、確認!小川、ナイスカット!」

 

岸本の明るい声が通信に入る。

 

「小川、動き全然違ぇな。元からあんなに正確だったっけね?」

 

「いや、明らかに変わってる。」

 

小川は思わず苦笑した。C小隊の富田と前園の囁きはおそらく聞こえていることを前提にしたものだ。だが、不思議と嫌ではなかった。

 

敵が前方から一気に突撃してくる。光線級の照射準備が整うその瞬間――

 

「小川、背中預けるぞ」

 

「了解、大尉」

 

保科と小川、二機のガンインターセプターが背中合わせに展開し、照射ラインをズラすように左右から撃ち込む。模擬戦とはいえ、まさに実戦を想定した戦術だ。

 

「……これが、大尉と同じポジションの意味か」

 

背中を預け合うということは、仲間の命を一手に引き受けるということ。そして同時に、自分の命をも預ける覚悟を持つということだった。

 

《撃破確認。全機、無事》

 

管制塔からの通信が入り、訓練終了のサインが点灯した。

 

機体ハンガーに戻ると、真っ先に近づいてきたのは雁部だった。

飄々とした表情で、小川の肩をバンバンと叩く。

 

「いや~やるじゃん。どんなポジションもこなせるのなバカヤベーよ」

 

「……痛いですよ、雁部少尉」

 

小川が苦笑すると、隣にいた岸本も笑いながら加わった。

 

「でも事実だよ。小林も言ってたぜ。“小川少尉の判断が正確だったから、俺たちは前に出られた”ってな」

 

「小林が、そんなことを……?」

 

あの堅物が素直にそんな評価を口にしたことに、思わず目を見開く。

 

「まぁ、まだあいつとはぎこちないだろうけどな。だけどお前、ちゃんと“今”の仲間と信頼築けてるよ」

 

「……ありがとうございます。俺ももっとやれる事増やしていきます。」

 

小川は、今度は胸を張って言った。

 

どんなに後悔しても、過去は戻らない。だがその過去に学び、今の仲間と歩むことはできる。

明星作戦で果たせなかった“仲間を守る”という誓いは、今――レッドキグナス中隊でこそ、果たせる。

 

彼の背にもう、あの時の怯えも後悔もなかった。

 

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