Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第六十四話 冬の硝煙と白い息

冬になり、2000年も終わりを告げようとしていた。

 

長岡基地の朝は、寒さと静けさに包まれている。

整備区画では戦術機に霜がうっすらと付き、点検を終えた整備員たちが凍えながら手をこすっていた。

 

その一角、訓練区域へと続く渡り廊下で、鍋島紗栄は冬用のいつもより重たいコートの前をきゅっと握りしめていた。

 

「……寒い。雪、降るのかな」

 

「降っても文句言うなよー。砲撃手が手をかじかませたらシャレになんねーんだからな」

 

そう声をかけてきたのは雁部だった。

煙草は吸わずに手で遊んでいるのは、紗栄が過去に「火薬の匂いと混じるからやめてください」と言ったからかもしれない。

 

「雁部少尉、いちいち絡んでこないでください。邪魔です」

 

「おー、こわ。お兄ちゃん譲りの突っかかり方だなー。ま、そこが可愛いんだけど」

 

「うるさいです」

 

それだけ言い捨てて早足で訓練区画に入っていく紗栄に、雁部は悪びれもせず笑った。

けれど目の端には、確かな敬意が浮かんでいた。

 

雪がちらつく中、紗栄の足取りは、迷いなくまっすぐだった。

 

 

模擬演習開始──今回の想定は山岳斜面を用いた防衛戦。

砲撃支援の位置取りと、敵の集中砲火を想定した回避パターンが肝となる。

 

「紗栄ちゃん、前に出すぎないで。ブラストの火線に入る」

 

「了解です、大友少尉」

 

C小隊の二機が丘陵部に陣取る。大友は防御支援、紗栄は中距離砲撃。

その背後では富田と前園が機体を低姿勢で構え、常に遮蔽物との距離を測っていた。

 

そんな中、紗栄のモニターに突如、A小隊からのの緊急通信が割り込んだ。

 

「おい!紗栄、そこは火線の交差点だぞ!ずれろ!」

 

涼介の声だ。いつの間にか松本とともに前線に回り込んでいたらしい。

 

「チビ兄が勝手に回り込んで来たんでしょ!?後方支援の射線くらい確認してください!」

 

「……最近生意気になってきやがって。」

 

涼介のぼやきに、大友がくすりと笑う。

 

「似てますよね?あのふたり?」

 

「まあ……ね。根っこはお互い直上型のおバカだからな、心配になるけど……ああやって支え合ってるっけね、あの兄妹」

 

富田が大友の呟きに答える。

 

 

その後、演習終了後のブリーフィング。

 

「松本。何度言えばわかる?お前は機体制御は抜群だが、周囲との連携意識が希薄すぎる」

 

保科が呆れたように言うと、松本はポカンと首をかしげた。

 

「ホカ大尉。あたし、ちゃんと横見てましたよ?」

 

「見てるだけで動かなかったら意味ないんだよ……」

 

「えぇ……じゃあ見て、動いて、考えて、感じろって……めっちゃ忙しいじゃん」

 

「その忙しいのが戦場ですよ」

 

その横で、紗栄がポツリと呟いた。

その言葉に、保科が複雑な表情をする。

 

「その通りだな。紗栄、今日の配置は悪くなかった。だけど敵の分散状況を見て、もう一歩踏み込んでも良かった」

 

「はい。反省します」

 

珍しく素直な紗栄に、隣にいた雁部が耳打ちする。

 

「“反省します”なんて言えたんだ。」

 

「あとで機体の冷却材に砂糖でも混ぜておきますね」

 

「殺す気か」

 

軽口を叩きながら、どこか微笑ましい空気が広がる。

 

 

その日の夕方、整備区画の片隅で、涼介が大友にコーヒー缶を差し出した。

 

「大友少尉。ありがとな。紗栄のこと、ずっと支えてくれててよ」

 

「……こっちこそ感謝してるよ。チビ兄がいてくれて良かったって、たまにぽろっと言ってたよ」

 

「マジか。いや、マジか」

 

「二回言ったね」

 

ふたりの笑いが、白い息に混じって空に昇っていく。

 

冷たい風が吹く中でも、温もりは確かにそこにあった。

 

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