Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第六十五話 初詣 ―2001年 元日―

冬の冷気が肌を刺す。

雪の残る参道を、レッドキグナス中隊の面々が肩を寄せて歩いていた。長岡基地近くの神社で行われた初詣に、今年は中隊全員で参加することになったのだ。

 

「寒ぃな……けど、これが正月って感じだな」

涼介が白い息を吐きながら笑う。マフラーを巻いた妹の紗栄が、その横で小さく頷いた。

 

「チビ兄、ちゃんとお願い事してよね。今年は……全員で生き延びたいから」

 

「おう。絶対な」

涼介は力強く答えた。目には過去の痛みと、未来への覚悟が宿っていた。

 

拝殿の前に整列する一同。それぞれが心を静かに落ち着け、手を合わせる。

 

 

保科隼人は、まっすぐに願った。

「今年も、こいつら全員を生きて帰す。それだけだ」

彼は中隊長としての責任を一身に背負い、誰よりも多くの死を見てきた。だからこそ、この願いに嘘はない。

 

青島葵は無表情のまま、手を合わせていた。

(……どうか、この戦いに意味がありますように)

それは誰にも伝えない彼女の本音。あの日、出雲で死の淵に取り残された経験が、彼女の内面に深く影を落としていた。

それでも彼女は、通信室から皆を導く役目を放棄しない。冷静に、正確に。

いつか「意味のある未来」に辿り着けると信じて。

 

鍋島紗栄は、少しだけ目を閉じて祈った。

「もっと強くなれますように。もう誰も……置いていかない」

出雲作戦で兄の背を追うしかなかった無力感。あれを越えるために、砲撃支援としての腕を磨き続けてきた。

ふと隣を見れば、雁部が煙草を口にくわえ、わずかに笑っていた。

 

「へぇ、結構真剣に祈るんだな?神様に祈ったてBETAにゃ勝てねぇよ」

 

「う、うるさいですよ……雁部少尉だって手ぇ合わせてたくせに」

 

「俺ぁ”運がつきますように”ってな。国連にいた頃、そういうもんには見放されてたから」

 

雁部雅史はかつて国連軍で多くの仲間を失った。だからこそ今のように気さくに振る舞う。誰かを救う力が、自分に残っていると信じるために。

 

 

松本歩夢は、境内の鈴の音に耳を傾けながら、口を動かしていた。

 

「今年は、漢字もっと読めるようになりたい……あと、間違えて後方にロケット撃たないように……」

 

後ろで松原充が肩を叩く。「お前はまず常識を学べ」

 

松原は、以前よりも真面目な顔つきになっていた。

(鍋島中尉みたいな背中になりたい。それが……僕の願い)

いつまでも背中を追うだけでなく、成長の真っ只中にいる彼にとって、戦場は一人前になるための現場でもある。

 

 

富田宏明は、頭を下げながら呟いた。

 

「腹いっぱい、うまい飯が食えますように……あと、みんなでだっけね!」

 

人情家の富田らしい願いだった。それを横で聞いていた前園浩輔は、無言で頷くだけだったが、その目はどこか柔らかかった。

 

「……世界が、少しでも静かになりますように」

前園はいつも口数が少ないが、心の中では誰よりも平和を求めていた。

 

 

岸本悠真は、ふと視線を空に向けてから祈った。

 

(そろそろ後進に託す時かもしれねぇな……)

古参の自分にできることは、若い隊員に技術と誇りを残すこと。その思いは誰よりも強い。

 

 

一方、真剣に小川陸は手を合わせていた。

 

(迎撃後衛……俺の判断が、部隊を生かす。)

それでも今の自分は、保科と同じポジションで、中隊を守る役目を担っている。

「……今年は、誰一人死なせない。今度こそ、守り抜く」

 

彼の横で、保科がそっと言った。

「お前は、もう一人じゃねえからな

 

 

大友美香は願う。

(この部隊で来年もこの場所にこれます様に)

キグナス中隊の姉御は全員の安全を願う。

いつも後衛から全体を見守る彼女らしい願いだった。

 

小林洋平は、礼儀正しく手を合わせ、目を伏せていた。

 

「……一軍人として、誠実に役目を果たします」

かつて所属していた本土防衛軍からレッドキグナス中隊に異動となり。その違いに戸惑いつつ、今も彼自身の正義感と使命を強く持っている。

だが、それを知らぬ仲間たちと、少しづつ打ち解け彼の想いが確に、ここにあった。

 

鍋島涼介は深々と二礼した後、盛大にニ度拍手を打ち、また深々と一礼し、願う。

(紗栄と兄貴と佐渡に帰る、全員で笑ってる未来を勝ちとってやる!)

珍しく真剣に願う。

その姿を仲間達は静かに見守る。

 

 

 

 

拝殿を下りて、皆がそれぞれに温かい甘酒を手にしたころ、涼介が声を上げた。

 

「よーし!今年も全員で生き延びて、BETAぶっ倒して、うまい酒飲もうぜ!」

 

「未成年が何を言ってるんですか」

と青島が即座に突っ込む。

 

「ったく……今年もにぎやかになりそうだな」

保科はふっと目を細め、仲間たちの背を見つめていた。

 

願いは違えど、心は一つ。

2001年――レッドキグナス中隊にとって、運命を分ける一年が始まろうとしていた。

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