Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
冬の夜気が深まる長岡基地。雪は止み、空は静かに澄み渡っていた。
「……ったく、やっと帰ってきたってのに、外の空気が一番落ち着くってどういうこったよ」
涼介が缶コーヒーを一口啜りながら、基地裏の喫煙所に腰を下ろす。すでに保科、富田、小川、雁部が集まり、勝利の一服を楽しんでいた。
「まあ、あんだけの数とぶつかって全員無事ってのは、奇跡って言っていいでしょうね」
小川が笑いながらそう言うと、富田がいつものように声を張り上げた。
「奇跡じゃねぇ、実力だっけね!レッドキグナス中隊は最強だよ!」
「……富田がそう言うと、なんか嘘っぽく聞こえんだよなぁ」
涼介が苦笑し、雁部はゲラゲラと笑いながら煙を吐く。
「でも、ほんとお疲れさんっす。俺なんかまだ緊張解けてねぇのに、富田中尉の声で一気に現実戻ってきましたわ」
「ったく、うるせぇよ。こちとら最前線でデカブツと張り合ってたんだ。ガス抜きくらいさせろ」
一同が冗談まじりに笑い合う中、涼介の視線がふと遠くに向いた。
「……紗栄、あいつも強くなったよな」
その言葉に皆が一瞬だけ黙る。保科も静かに煙草をくゆらせ、目を閉じた。
「ああ……間違いなく成長してる。戦場に連れていくのが不安だったのはもう昔の話だな」
「……でもよ」
涼介がぽつりと呟く。
「本当は……あんな風にさせたくなかったよな。普通に笑って、恋して、将来の夢とか語るような……そんな妹でいてほしかったよ」
保科は何も言わず、ただ煙草を深く吸い込んだ。静かに、風が吹く。
その時、不意に喫煙所の入口からひょこりと顔を出す少女がいた。
「……あ〜やっぱりまたタバコ吸ってる」
「げっ、本人来た」
思わず声を漏らす涼介に、紗栄は小首をかしげながら近づいてくる。
「私もそろそろ一人前ってことで、こういうとこ混じってもいいんじゃないかなーって」
涼介と保科は顔を見合わせ、どちらからともなく苦笑した。
「……まあな。よく頑張ったよ、お前は」
「お疲れさん、紗栄」
「えへへ、で、私ってもう一人前?」
そう無邪気に尋ねる紗栄に、保科は一瞬視線を落とし、静かに呟いた。
「……そうだな。お前は、もう立派な衛士だよ」
「ほんと?」
「ああ」
答えながら、涼介と保科の表情には言い知れぬ複雑さがにじむ。嬉しさと、哀しさと、誇らしさと。
「……ありがと」
満面の笑みを浮かべて去っていく紗栄の背中を、誰もが無言で見送った。
「……あいつには、ちゃんと未来があると信じてる」
涼介が呟くと、保科が軽く頷いた。
「信じるしかないさ。今のこんな世界ではな」
そのとき、喫煙所の入口にもう一人の人影が現れた。
「保科大尉、少しお時間をよろしいでしょうか?」
小林少尉だった。
「どうした?こんな時間に」
「……少し、二人でお話ししたいことがありまして」
視線をそらすこともせず、真っ直ぐに言葉を投げる小林に、保科は頷いて立ち上がる。
「わかった。……んじゃ行くか」
軽く言い残し、保科は小林と共に喫煙所を後にする。その背中を見送る一同に、涼介がぼそりと呟く。
「……小林ってさ、真面目すぎて逆に怖いよな」
「わかるっけね。なんか、何考えてるか分かんねぇ感じがする」
富田の言葉に、小川が付け加える。
「でも実力は確かです。保科大尉と組ませての連携は機能してますし」
「裏表はないっぽいけど……なんか、妙に保科大尉に懐いてるよな」
「まあ、今のところは問題ねぇさ」
雁部が軽く笑い、火のついた煙草を灰皿に押し込んだ。
「……さてと。明日からまた訓練か。次はどこで戦わされるか分かんねぇしな」
「まったく、BETAってのは休ませてくれねぇもんだっけね……」
冗談まじりに笑いながら、それぞれがゆっくりと夜の闇へと戻っていく。
遠ざかる足音。静かな基地の夜。
そして――その闇の中、レッドキグナス中隊の誰も知らない“変化”が、静かに進み始めていた。