Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第六十九話 複雑な兄の想い

冬の夜気が深まる長岡基地。雪は止み、空は静かに澄み渡っていた。

 

「……ったく、やっと帰ってきたってのに、外の空気が一番落ち着くってどういうこったよ」

 

涼介が缶コーヒーを一口啜りながら、基地裏の喫煙所に腰を下ろす。すでに保科、富田、小川、雁部が集まり、勝利の一服を楽しんでいた。

 

「まあ、あんだけの数とぶつかって全員無事ってのは、奇跡って言っていいでしょうね」

 

小川が笑いながらそう言うと、富田がいつものように声を張り上げた。

 

「奇跡じゃねぇ、実力だっけね!レッドキグナス中隊は最強だよ!」

 

「……富田がそう言うと、なんか嘘っぽく聞こえんだよなぁ」

 

涼介が苦笑し、雁部はゲラゲラと笑いながら煙を吐く。

 

「でも、ほんとお疲れさんっす。俺なんかまだ緊張解けてねぇのに、富田中尉の声で一気に現実戻ってきましたわ」

 

「ったく、うるせぇよ。こちとら最前線でデカブツと張り合ってたんだ。ガス抜きくらいさせろ」

 

一同が冗談まじりに笑い合う中、涼介の視線がふと遠くに向いた。

 

「……紗栄、あいつも強くなったよな」

 

その言葉に皆が一瞬だけ黙る。保科も静かに煙草をくゆらせ、目を閉じた。

 

「ああ……間違いなく成長してる。戦場に連れていくのが不安だったのはもう昔の話だな」

 

「……でもよ」

 

涼介がぽつりと呟く。

 

「本当は……あんな風にさせたくなかったよな。普通に笑って、恋して、将来の夢とか語るような……そんな妹でいてほしかったよ」

 

保科は何も言わず、ただ煙草を深く吸い込んだ。静かに、風が吹く。

 

その時、不意に喫煙所の入口からひょこりと顔を出す少女がいた。

 

「……あ〜やっぱりまたタバコ吸ってる」

 

「げっ、本人来た」

 

思わず声を漏らす涼介に、紗栄は小首をかしげながら近づいてくる。

 

「私もそろそろ一人前ってことで、こういうとこ混じってもいいんじゃないかなーって」

 

涼介と保科は顔を見合わせ、どちらからともなく苦笑した。

 

「……まあな。よく頑張ったよ、お前は」

 

「お疲れさん、紗栄」

 

「えへへ、で、私ってもう一人前?」

 

そう無邪気に尋ねる紗栄に、保科は一瞬視線を落とし、静かに呟いた。

 

「……そうだな。お前は、もう立派な衛士だよ」

 

「ほんと?」

 

「ああ」

 

答えながら、涼介と保科の表情には言い知れぬ複雑さがにじむ。嬉しさと、哀しさと、誇らしさと。

 

「……ありがと」

 

満面の笑みを浮かべて去っていく紗栄の背中を、誰もが無言で見送った。

 

「……あいつには、ちゃんと未来があると信じてる」

 

涼介が呟くと、保科が軽く頷いた。

 

「信じるしかないさ。今のこんな世界ではな」

 

そのとき、喫煙所の入口にもう一人の人影が現れた。

 

「保科大尉、少しお時間をよろしいでしょうか?」

 

小林少尉だった。

 

「どうした?こんな時間に」

 

「……少し、二人でお話ししたいことがありまして」

 

視線をそらすこともせず、真っ直ぐに言葉を投げる小林に、保科は頷いて立ち上がる。

 

「わかった。……んじゃ行くか」

 

軽く言い残し、保科は小林と共に喫煙所を後にする。その背中を見送る一同に、涼介がぼそりと呟く。

 

「……小林ってさ、真面目すぎて逆に怖いよな」

 

「わかるっけね。なんか、何考えてるか分かんねぇ感じがする」

 

富田の言葉に、小川が付け加える。

 

「でも実力は確かです。保科大尉と組ませての連携は機能してますし」

 

「裏表はないっぽいけど……なんか、妙に保科大尉に懐いてるよな」

 

「まあ、今のところは問題ねぇさ」

 

雁部が軽く笑い、火のついた煙草を灰皿に押し込んだ。

 

「……さてと。明日からまた訓練か。次はどこで戦わされるか分かんねぇしな」

 

「まったく、BETAってのは休ませてくれねぇもんだっけね……」

 

冗談まじりに笑いながら、それぞれがゆっくりと夜の闇へと戻っていく。

 

遠ざかる足音。静かな基地の夜。

 

そして――その闇の中、レッドキグナス中隊の誰も知らない“変化”が、静かに進み始めていた。

 

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