Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第六話 卒業

訓練学校・第103期──卒業式当日。

 

かつて鬼の如き威容で立ちふさがった訓練校の門が、今日は不思議なほど小さく見えた。

朝から晴天。だが、その眩しさとは裏腹に、候補生たちの表情はどこか寂しげだった。

 

「おい、涼介、ネクタイ曲がってるぞ」

笑いながら直してきたのは、近藤静だ。

彼女は凛と制服を着こなし、いつものメスゴリラぶりはどこへやら、まるで士官学校出の才媛のようだった。

 

「……ったく、お前ってやつは。今日くらい大人しくしてろよ」

涼介が照れくさそうに言うと、静はほんのわずかに口元をほころばせる。

 

そこへ坊主頭の池田が駆けてきた。手には紙袋。中身は……花束だった。

「優子ちゃんに渡すやつ! 見ろよ、気合入ってんだろ?」

 

「……いや、どう見てもコンビニのやつだろそれ」

「う、うるせぇ!気持ちだよ気持ち!」

涼介のツッコミに池田は耳まで真っ赤になって反論する。

 

歳刀は少し離れた場所で立ち尽くしていた。制服の袖を整えるその仕草は、まるで軍人そのものだった。

彼の表情には感傷も驕りもなく、ただ静かな決意が宿っている。

 

そして式典が始まった。名前を呼ばれた候補生が次々と前へ出る。

いよいよ、涼介の番が来た。壇上に立った彼は、一瞬だけ教官席に目をやった。

 

井上勝教官──あの地獄の訓練を叩き込んだ張本人は、鋭い眼差しのまま微動だにしなかった。

だが、涼介が証書を受け取り、校長から衛士徽章を付けてもらった瞬間、ほんのわずかに頷いたのを涼介は見逃さなかった。

 

「……やったぜ」

小さく呟いた声は誰にも届かない。だが涼介の胸の中では、大きく響いていた。

 

式の後、教官から最後の言葉が贈られた。

「戦場では“勝った者”が生き残るのではない。“生き残った者”が勝者だ、今までよく耐えてきた、ここでの訓練を忘れず、戦場で活躍して欲しい……」

 

そして続けた。

「──だが、忘れるな。“生き残るためだけに戦う者”は、いずれ仲間を見殺しにする。

戦場では、貴様らの“覚悟”だけが、貴様らを貫く武器になる!」

 

 

静寂の中、その言葉が心に染み込む。誰一人、軽口を叩かなかった。

 

「そして最後になるが諸君!任官おめでとう!武運長久を祈る!」

 

井上勝教官の最後の言葉に元訓練兵全員が敬礼で返す。

 

解散の後、それぞれが荷物をまとめ、次の配属先へと向かう。涼介は一人、広場で空を見上げていた。

そこへ歳刀が現れた。

 

「次は“本番”だな」

「あぁ……でも、なんかワクワクしてる」

「お前らしい」

 

歳刀は涼介に一枚の紙を差し出す。そこには配属先──“長岡基地 レッドキグナス中隊”とあった。

「……兄貴分と一緒の部隊か」

「奇遇だな。俺もだ」

 

「は? マジかよ!?お前まで来るのか?」

「みたいだな。訓練校では、お前に班長の座は譲ったが配属後はこうはいかないぜ」

「言ってくれるじゃねぇか……お前には負けねぇぞ。」

「無理だな」

「言ってろ!」

フンっとお互いそっぽを向く、相変わらず、喧嘩腰の2人だがその口元は緩んでいた。

 

その後、池田は優子に花束を渡し、盛大にフラれるも、何やら笑いながら去っていった。

「まぁ、まだ勝負はわからない! 俺はまだ挑戦するからなぁ〜!」

 

涼介と静は、その姿を見ながら肩を並べて歩き出す。

「寂しくなるね」

「……そうでもないさ。まだ全員、ここにいる」

 

涼介の言葉に、静は黙って頷いた。風が吹いた。どこまでも優しく、前へ進めと背を押すように。

 

そして──少年たちは、戦場へ向かって歩き出す。希望と恐怖、夢と現実を抱えて。

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