Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第七十四話 兄の想い妹の想い

模擬戦終了のアナウンスがシュミレータールームに鳴り響く。装置が開き、まず現れたのは涼介。そのすぐ後に、少ししょんぼりとした様子の紗栄が続く。

 

「負けちゃったぁ……」

肩を落とす彼女に、松本が明るく声をかけた。

「いい勝負だったよ〜! 次はあたしとやろう!」

 

しかし涼介は「ふんっ」と鼻を鳴らすだけで、松本の誘いにも応じず、口を噤んだまま黙っていた。

 

その様子に、周囲はなんとなく気づき始める。涼介が怒っている理由に。

 

不安げに紗栄が声をかけた。

「チビ兄……なんで怒ってるの?」

「……あぁ? わかんねぇのか?」

低く抑えた声。しかしその中には、怒りというよりも呆れと焦燥が混じっていた。

 

涼介の剣幕に、紗栄は肩をすくめて怯む。

彼女を庇うように松本が「え、そんな怒んなくても」と口を挟みかけたが、松原や保科、前園らは静かに頷いていた。皆、涼介の言いたいことを理解している。

 

「高度制限だよ、馬鹿野郎!」

 

不意に涼介が紗栄の頭を軽く押さえた。

 

「パニくって飛び上がりやがって……戦場だったら光線級の餌食だぞ。お前、死ぬぞ……!」

 

その言葉に、紗栄の目に涙が滲む。表情が一気に引き締まり、ハッと息を呑む。

 

「俺の同期に歳刀ってヤツがいたんだけどよ……そいつ初陣の時、出撃後に光線級に焼かれたんだよ……高度下げろっつたが間に合わなかった」

 

涼介が少し寂しそうに天を見つめながら呟く。

 

「うぅ……ごめんなさぁい……」

 

ぽろぽろと涙をこぼしながら、紗栄が泣き出す。

涼介は溜め息を吐きながら背を向け、歩き出す。

 

「……俺たちが戦ってるのはBETAだ。それを忘れんな半人前!」

 

その背中に向かって、紗栄が声を張り上げる。

 

「うぅ……肝に銘じます、鍋島中尉っ! ありがとうございまじたぁっ!」

 

「おう! 二度と忘れんな、鍋島少尉!早く一人前になって楽させてくれ!」

 

泣きながら敬礼する紗栄に、涼介は背を向けたまま満足げに頷いた。

 

場が和んだそのとき、松原がふと疑問を口にする。

「それにしても……何で急に禁煙とか言い出したんですか、紗栄少尉?」

 

紗栄は、少し恥ずかしそうに目を伏せながら、ぽつりと呟いた。

 

「えっと……うぅ、煙草って……身体に悪いって、吸いすぎると死んじゃう人もいるって……本で読んで……」

 

「はぁ?」

 

涼介は肩をすくめ、呆れたように眉をひそめる。

 

「まあ、身体に良くはねぇだろうけどよ……」

 

しかし紗栄は、涙を溜めながらも今度は大きな声で叫んだ。

 

「だって、チビ兄にも! 隼人兄にも、富田中尉も、小川少尉も、雁部少尉にも! ずっと、ずっと元気でいてほしいんだもん!」

 

その言葉に、空気が一変した。

 

保科は目を抑えながらそっと後ろを向く。

富田は堪えきれず号泣し、

小川は無言で天井を仰いだ。

大友は「紗栄ちゃん……!」と叫びながら紗栄に飛びつく。

岸本、前園は目頭を押さえ、

小林は静かに頷きながら「私は煙草は嗜みません」とつぶやいた。

 

そんな中、ひとり空気を読まない男がいた。

 

「兄貴! 富田! 小川! 一服行こうぜ!」

 

雁部と肩を組みながら、喫煙所へと足を向けようとする涼介。

 

「……台無しだよ!!」

 

レッドキグナスの面々が揃ってツッコミを入れる。

 

しかし涼介は気にする様子もなく、にやりと笑う。

 

「煙草なんかにやられっかよ。俺たちは地獄の京都、横浜、鳥取、それに最近だと新潟を生き抜いてきた精鋭だぜ?」

 

自信に満ちた声で、堂々と言い放った。

 

「さぁて、勝利の一服といこうや!」

 

上機嫌でシュミレータールームを出ようとするその時、淡々とした声が彼を止める。

 

「私、煙草と女の子を泣かす人は嫌いです」

 

振り返ると、青島が静かに紗栄の隣に歩み寄っていた。

 

その姿を見て──

「うおおお……」

涼介はガックリと膝をつき、その場に崩れ落ちた。

 

──その後、鍋島涼介は「今回だけは」と3日間の禁煙に挑戦するが、見事に調子を崩し、「これは任務に支障が出る」と自己判断の末、喫煙を再開したという。

 

なお、禁煙していた期間、誰よりもソワソワしていたのは雁部だったらしい。

 

そして──レッドキグナスの伝説は、今日も一行ずつ、塗り重ねられていくのだった。

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