Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
昼下がり、ブリーフィングルームに呼び出された涼介と紗栄。
ドアを開けると、保科が机の上に書類を広げながらこちらを見上げた。
「今日な、本土防衛軍から連絡が来たんだが。俺は明日、仙台に呼び出された。お前らも同行しろ」
その言葉に、涼介と紗栄は同時にハッと顔を上げた。仙台──現在、首都機能を移し臨時政府が置かれている、その場所は。そして……
「仙台の難民キャンプには、お前らの両親、それから俺の両親もいるはずだ」
一瞬の沈黙の後、保科は軽く笑ってみせる。
「会いに行く時間ぐらいはあるだろう。明日の朝出発だ。準備しておけ」
説明が終わるや否や、涼介は「了解!」とだけ叫び、椅子から立ち上がると部屋を飛び出した。
足音が遠ざかっていくのを見送りながら、保科は呆れたように息を吐く。
「……まったく、あいつは」
残された紗栄は、机の前に立ったまま視線を落とした。
「どうした、紗栄」
保科の声は柔らかかった。
少し間を置き、紗栄は小さく答える。
「……お父さんとお母さん、元気かなって……あの難民キャンプ、あんまり環境とか良くなかったから」
保科の眉が動いた。
「そんなに酷いのか?」
「うん……配給は少ないし、狭い場所に大勢押し込められて、お風呂も数日に一度しか入れなかったって……戦時中とはいえ、あんな扱い……紗栄は適正があったみたいで、すぐに士官学校入ったけど……」
淡々と語るその声には、抑えても滲む怒りと悲しみが混じっていた。
保科は深く息を吸い、低く吐き出す。
「……仙台の政府は何やってんだ」
次の瞬間、紗栄の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「お母さん達、あんなに大変なのに……今まで忘れてた……」
嗚咽が漏れ、肩が小刻みに震える。
保科は黙って近づき、彼女の頭を軽くポンポンと叩いた。
「それだけ必死だったんだ。……お土産、いっぱい持って行こうぜ」
「……うん」
紗栄は赤くなった目を手の甲で擦り、泣き笑いの表情を見せた。
「そうと決まれば、準備しなきゃ!」
そう言って、先ほどの涼介のように勢いよく部屋を出て行く。
開けっぱなしになったドアを見つめながら、保科はふっと苦笑した。
「……やっぱり似た物兄妹だな」
だが次の瞬間、笑みは消え、表情は引き締まる。
視線を机上の命令書に落とし、低く独り言を漏らす。
「……今の政府の現状を、その目で見に来いってことか」
その声も、険しい表情も、誰の目にも触れることはなかった。
窓の外、夕陽はゆっくりと沈み、明日の出発を告げるかのように西の空を紅く染めていた。