Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第七十八話 仙台の光景と両親

早朝の空はまだ深い紺色に包まれ、薄霧が冷たく地表を覆っていた。軍用のヘリコプターは、長岡基地の滑走路を静かに離陸する。機体の振動が伝わる狭いキャビン内で、涼介は無言で窓の外を見つめていた。隣には妹の紗栄が、少し固くなった表情で手にした大きな荷物を握りしめている。後ろの席には保科が座り、計器盤に目を落としたまま静かに時間を過ごしていた。

 

「……これから仙台に行くんだよな」

涼介の声はかすかだったが、その中に強い覚悟が滲んでいた。かつての佐渡、自分がまだ子供だった頃、軍人になった隼人を追いかけて自分も軍人になる事を夢見て島を出た。軍人にはなれた、しかし彼らはただ無力に陥落する故郷を見届けるしかなかった。あの時の悔しさと自責の念が、胸を締め付ける。

 

紗栄はそっと兄の肩に手を置き、小さな声で言った。「お父さんとお母さんに会える。少しは安心できるかもしれないね……」

 

ヘリは数時間の飛行を経て、仙台の上空へと差し掛かる。眼下に広がるのは、無数のテントが隙間なく立ち並ぶ難民キャンプだった。過密な区画に押し込められた人々の疲れた顔が、小さく見えた。

 

「着いたぞ」

保科が短く告げると、三人は機外へ降り立った。保科は直ちに呼び出しを受けて別行動に移る。涼介と紗栄は互いに頷き合い、両親の元へ歩を進めた。

 

キャンプの一角にある薄汚れたテントの中。細くやつれた両親が、まるで子どもたちを待ちわびていたかのように目を赤くして迎えた。紗栄は堪えきれずに涙をこぼしながら、母の腕に飛び込む。涼介も両親の疲れ切った姿を見て、胸の中で何かが締め付けられた。

 

「無事でいてくれてよかった……」涼介は声を震わせ、目を潤ませた。

 

母はかすれた声で答えた。

「ここは過酷だけど、どうにかやっているわ。あなたたちが来てくれて、心から嬉しいわ」

 

父は顔にしわを刻みながらも、二人の成長を誇らしげに見つめていた。

 

「こんなに立派になって……あの小さかった涼介と紗栄が……」

母は涙をこらえきれず、ぽろぽろと流した。

 

「いつもお前たちのことを思っていた。戦場で頑張っている姿を聞いて、どんなに励みになったか」

父も声を震わせる。

 

しばらく言葉にならない沈黙が続き、やがて紗栄が持参した食料や日用品を差し出すと、二人の目が一瞬だけ輝きを取り戻した。

 

「こんなにたくさん……ありがとう……」

 

涼介はふと、少しだけ言葉を変え、訊ねた。

 

「そういや兄貴の両親は……?」

 

母の顔が一瞬、陰った。

 

「隼人ちゃんが来たら伝えるわ……」

 

母のその反応に涼介は察した。

 

その時、保科が疲れた表情でテントの入口に姿を現した。

 

「遅れてすまない、あ、おじさん、おばさんご無沙汰しています。」

保科は深く息を吐き、テントに入ってくると二人に向き直り挨拶する。

 

「……隼人ちゃん……お久しぶりね立派になって……うっうぅ」

 

涼介の母は保科を見て堪えきれずに涙を流す。

 

「鍋島のおばさん、大袈裟ですよ…そういえば親父とお袋は今どこに?」

 

涼介と紗栄が俯き2人の母親が嗚咽を漏らす姿を見て隼人は察する。

 

「もしかして……」

 

言葉を失い次の句がつげなくなっている隼人を見て涼介の母が口を開く。

 

「難民の中で起きた争いに巻き込まれて、父さんは数ヶ月前に亡くなった。母さんも栄養失調で昨日、静かに息を引き取ったばかり……」

 

その言葉はまるで重い石のように室内に響き渡った。隼人の瞳は見開かれ、一瞬顔が強ばる。

 

 

隼人の瞳にも涙が光る。かつて、軍人になると宣言した時、背中を押してくれた両親、島を出てからは一度も会っていない……立派に成長した姿を両親に見せたかった、しかし両親はもういない。

様々な感情が渦巻き彼の胸を深く揺さぶった。

 

初めて見せる脆さを隠せず、堪えきれずに涙を流した隼人。

 

「そんな……嘘だろ。親父も、お袋も……昨日お袋が死んだ?」

 

紗栄も涼介も、ぽろぽろと涙をこぼしながら小さく震えていた。

 

厳しくも優しかった漁師の隼人の父、いつも喧嘩してボロボロの隼人と涼介に絆創膏を貼ってくれた隼人の母、愛に溢れた保科家の両親を想い3人は抱き合いいつまでも泣いた。

 

重苦しい現実の中にあっても、彼らは家族として、そして戦友として、新たな一歩を踏み出さなければならない、しかし今は泣こう。

悲しみは涙が洗い流してくれる。

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