Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第八十一話 涼介の想いと勝ちへの執念

長岡基地の格納庫にヘリが着陸すると、冷えた夜気と油の匂いが入り混じった空気が、鍋島兄妹を出迎えた。

保科とは格納庫前で別れ、「今日は解散だ、ゆっくり安め」とだけ言い残し、彼は足早に去っていった。

 

涼介と紗栄が居住棟に戻るや否や、雁部と富田が駆け寄ってくる。

「おい! 仙台はどうだったっけ!? ちゃんと両親に会えたかよ?」

「ナベさんこっちは心配で心配でよ…」

二人の声は矢継ぎ早で、兄妹の返事も待たない勢いだ。

 

涼介は苦笑しながらも頷く。

「あぁ、会えたよ。元気…ってほどじゃねぇが、生きてた」

紗栄も微笑み、短く「ちゃんと話せた」とだけ付け加えた。

 

報告が終わると、涼介は雁部に向き直る。

「悪い、PXに兄貴以外のみんなを集めてくれ」

数分後、PXの片隅にキグナス中隊の面々が集まった。しかし松原が困った顔で近づく。

「…すいません、涼介中尉。小林は保科大尉と一緒にどっか行っちゃっていませんでした」

涼介は肩を竦め、松原の肩を軽く叩く。

「兄貴と一緒ならそれでいいさ。気にすんな」

 

やがて涼介は、集まった仲間たちの前に立った。

テーブルの上にはコーヒーの湯気が立ち、誰もが彼の言葉を待っていた。

 

「集まってくれて、ありがとな、まずは仙台でのことを報告する」

涼介の声が静かに響く。彼はまず、保科の両親が既に亡くなっていたことを淡々と告げた。

空気が一瞬で張り詰め、誰もが目を伏せる。

「全員で黙祷しよう」

全員が目を閉じ、PXにはわずかな換気音と遠くの格納庫の作業音だけが響いた。

 

沈黙が破られたのは、涼介が再び口を開いたときだった。

「…仙台の難民キャンプを見てきた。あそこは地獄だった。俺たちが負ければ、ああいう場所がもっと増える。ガキが腹すかせて彷徨い、国を支えてきた大人たちが倒れても誰も助けない。女子供が腐った兵士にいいようにされて…泣いてた」

拳を握る涼介の指が白くなる。

 

「そんな光景、もう見たくねぇ! 俺たちだけじゃ何もできねぇかもしれねぇ…けど、それでもBETAを駆逐して、みんなで笑ってられる日本を取り戻してぇ!」

涼介の声は熱を帯び、仲間たちの胸に響いた。

 

富田が低く「…あぁやってやるっけね」と呟き、雁部は無言で拳を握った。

「だから言われなくてもわかってると思うが、俺たちが負けたら後ろの奴らはもっと苦しくなる。泣くやつが増える。だから負けらんねぇ! いや、勝って取り戻さなきゃならねぇ! …だから力貸してくれ! BETAとの戦い、勝とうぜ!」

 

その瞬間、PXの一角に力強い歓声が上がった。

「おう! 絶対勝つぞ!」

「負け犬になる気なんざねぇ!」

松原が笑いながら「今日の涼介中尉熱いです、でもそうゆうの嫌いじゃないです」と言い、雁部が「バカヤベーよ!ナベさん、信念だな」と返す。小さな笑いが起こり、だがその目は全員が真剣だった。

 

気づけば、PXの外にも人が集まっていた。他部隊の衛士、整備兵、事務職員…さらには長岡基地の司令までが立って耳を傾けている。

涼介は一瞬驚いたが、その視線に怯むことなく、言葉を締めくくった。

「俺たちは負けねぇ! 俺たちは必ず生きて帰ってくる! そして…取り戻す!」

 

どこからともなく拍手が起こり、それが次第に大きなうねりとなってPX全体に広がった。

この日、長岡基地は一つにまとまった。

勝利を信じて――。

 

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