Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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間話 煙とシャボン玉

数日後――長岡基地の昼下がり。

涼介の演説の熱気もまだ冷めきらない頃、喫煙所にはいつもの面々がたむろしていた。保科、涼介、富田、小川、雁部。

火のついた煙草から立ちのぼる煙が、ゆるく空を漂っていく。

 

だが今日は、そこにもう一人――異質な存在がいた。松本歩夢。

彼女は煙草を吸うわけでもないのに、なぜか喫煙所の片隅に腰を下ろしていた。そして口には――ストロー。

 

「……お前、なにしてんだ?」

涼介が眉をひそめる。

 

「え〜?なんかみんな楽しそうだったから、来てみたかったの」

そう言って、松本はストローを吹く。ふわりと虹色のシャボン玉が膨らみ、煙の漂う空間をゆらゆらと揺れた。

 

「……」

全員の視線が、不可思議な光景に釘付けになる。

 

「でも、あたしタバコ吸わないから。これ」

誇らしげにシャボン玉を見せ、ドヤ顔をする松本。

どうやら彼女の中では、ここでは何か咥えていなきゃいけないという謎ルールが成立しているらしい。

 

「なんとも言えねぇ光景だな……」富田がぼそりと呟く。

その横で雁部が、火のついた煙草をそっとシャボン玉に近づけ――

 

「ジュッ!」

 

「バカヤベー!」

笑いながらも煙草の火が液で消え、少しだけへこむ雁部。

 

その時だった。

「――また吸ってる!」

甲高い声とともに、紗栄が現れる。

 

「やべっ」

保科、涼介、富田、小川が同時に顔を引きつらせる。

 

「すいません、吸います」

小川は申し訳なさそうに二本目へ火をつけた。

 

「松本少尉も!こんな所にいたらダメですよ!」

紗栄は小川をスルーし、松本を注意する。

 

「てか、お前はなんで今日はここにいんだ?」

涼介が疑問を口にする。

 

「ん〜、ここにいれば、あたしもホカ大尉と勝負できるかなって」

「……なんでそうなるんだよ」全員の心の声が重なった。

 

紗栄がハッとした表情を見せる。

「……あ、紗栄がチビ兄に勝負挑んだ場所だから?」

「それ!」松本は満面の笑みで答え、またシャボン玉を膨らます。

 

「いやいや、ここはそういう場所じゃないですから」小川が突っ込む。

 

「そなの?……ホカ大尉は勝負してくれないの?」

じっと保科を見つめる松本。

 

「……しょうがねぇな。シミュレーターが空いてたら、気晴らしに付き合ってやるよ」

保科は煙草を灰皿に押し付け、喫煙所を後にする。

 

「やった!今日は勝つまでやめませんよ〜」

松本は嬉しそうに紗栄へシャボン玉セットを押し付け、保科の後を追った。

 

――だが、後に保科は後悔することになる。

 

シミュレーター室で行われた模擬戦。

キグナス中隊随一の実力者・保科と、操縦技術なら中隊でも屈指の松本歩夢。

噂を聞きつけた他部隊の衛士や整備兵までもが、面白がって集まってきた。

 

開始の合図とともに、戦術機同士が駆け、宙を舞う。

金属同士の激しい衝突音、砂煙を上げる踏み込み、狙い澄ました射撃と回避。観客は息を呑み、誰もがその技量に見入った。

 

一戦目――保科の勝利。

途中、松本のよくわからない奇抜な機動に面食らう場面もあったが、やはり安定した実力で押し切る。

 

「……もう一回」

松本が真顔で言う。

 

「いいだろう」保科も笑みを返し、二戦目開始。

再び保科勝利。

 

「もう一回」

五戦目。観客は徐々に減り、笑い混じりの応援も消えていく。

 

「もう一回」

十戦目。保科の額にうっすら汗。

 

「もう……一回」

もう何戦目かわからない戦目。シュミレータールームはついに二人だけ。

 

――そして深夜。

「……松本……もう勘弁してくれ……」

魂の抜けた表情でシミュレーター室から出てきた保科の姿があった。

 

勝敗は、保科の全勝――。

中隊長としてどれだけ疲弊しても部下には負けない保科の意地だけがそこにあった。

 

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