Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
11月11日。
長岡基地の朝は、突然鳴り響いた警報で叩き起こされた。
低く唸るサイレンと、放送管制の鋭い声が重なり、静まり返っていた空気が一瞬で戦場のそれに変わる。
「全員、戦術機待機区画へ!繰り返す――」
放送が終わる前に、格納庫へ駆ける足音が通路に響き渡った。
待機中だったキグナス中隊の面々も、顔を見合わせる間もなく装備を掴み、持ち場へ走る。
涼介は不知火のコックピットへ飛び込み、深く息を吸い込むと、シートに背中を叩きつけるように座った。
「……来やがったか」
通信越しの声は、緊張と高揚が入り混じっていた。
HUDが次々と起動し、戦術機の内部が機械音で満たされていく。
両手で操縦桿を握り直し、彼は無意識に歯を食いしばった。
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【06:20】
旅団規模のBETA群が日本海・海底を南下しているとの報告が入る。
帝国軍日本海艦隊が迎撃に向かっているが、情報室の士官は声を潜めて言った。
「……突破されるのは時間の問題だろう」
予測を裏付けるように、基地内の空気はさらに慌ただしさを増していく。
整備員たちが戦術機の足元を走り回り、弾薬カートリッジや燃料ポッドが次々と運び込まれる。
格納庫の天井クレーンが悲鳴を上げ、全衛士が戦術機に乗り込みスクランブル体制へ移行していった。
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【06:27】
「BETA群、第一次海防ラインを突破!新潟上陸!」
「第56機動艦隊、全滅!」
その報せは、冷たい弾丸のように各員の胸を撃ち抜いた。
ブリーフィングルームにいた士官たちの表情が一斉に硬直し、長岡基地全体の緊張が一気に跳ね上がる。
涼介は通信越しに低く呟く。
「くそっ……56艦隊が落ちたか」
その声を聞き、隼人も短く応じる。
「時間の問題だな」
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【06:48】
帝国軍第12師団がBETA群と接敵。
第14師団がこれに合流し、正面防衛戦が形成される。
だが数の差は歴然で、BETAの進撃速度は鈍るどころか加速している。
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【07:10】
戦況解析の結果、BETAの戦略目標が判明。
国連太平洋第11方面軍横浜基地から、防衛基準体制2への移行が発令される。
同時に、BETA群が中越、下越、新潟の三方面に分流することが確認された。
その中で――中越方面のBETA群殲滅命令が、ついにキグナス中隊へ下される。
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「……悪い予想が当たっちまったな、兄貴」
涼介が舌打ちしながら隼人へ通信を送る。
「なんとなくそんな気はしてた……準備は出来てるだろうな?」
隼人は深いため息を吐き、わずかに笑みを滲ませた。
だがその直後、涼介が慌てたように別回線を開く。
「ちょっと待ってくれ!」
リンク先はコマンドポスト。
「青島中尉! この出撃から無事に帰ったら、デートしてくれ!」
それはレッドキグナス中隊の出撃前の“儀式”だった。
通信室の青島が、いつも通り淡々と答える。
「……考えておきます」
そのやりとりに、周囲の仲間たちはニヤリと笑い、緊張を少しだけ解いた。
「よっしゃ〜! 行くぜ! テメェら遅れんなよ!!」
涼介の声が格納庫に響き渡る。
不知火の巨体がカタパルトデッキへと移動し、エンジンが唸りを上げる。
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「よし、終わったな……行くぞ、キグナス中隊!」
保科の号令に、中隊全員が声を揃えて応える。
「おおーーっ!」
整備員たちが退避し、発進シーケンスが始まる。
カタパルトが振動し、射出口の防壁が開かれる。
冷たい冬の海風が吹き込み、コックピットの中まで張り詰めた空気を運んでくる。
保科の不知火壱型丙が射出され、続いて小川機、岸本機……そして涼介の不知火が白い軌跡を描き、長岡の市街地へ飛び立った。
美しい編隊を組む12機の不知火は、朝日を背にして一直線に北西へ進路を取る。
その行く手には、海を越えて押し寄せる、数万のBETAの群れが待ち受けていた。