Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達   作:NageT

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第八十九話 隼人と涼介の休日

 数日後、久しぶりに一日中の待機が告げられた朝。

 涼介は食堂で暇を持て余していると、隼人に声を掛けられた。

 

「なぁ涼介、暇なら少し付き合え」

 

「……何にだよ?」

 

 顔を上げた涼介に、隼人は返事代わりに基地の外に走り出す。

 

「ちょっ、待てって兄貴!速い!」

 

 慌てて追い掛ける涼介。二人はそのまま基地周辺を十五キロ近く走破した。息を切らしながらも懸命に着いていく涼介に、隼人は一度もペースを落とさない。

 

 やっとの思いでゴールしたかと思えば、隼人はそのままトレーニングルームへ直行した。

 

「付き合えって……休日にまでトレーニングかよ……」

 涼介はゲンナリとした表情を浮かべるが、隼人は肩を竦めただけだ。

 

「衛士は身体が資本だ。健全な精神は健全な肉体に宿る。やることもないなら鍛えるに越したことはない」

 

 そう言うと隼人は淡々と筋トレを始める。仕方なく涼介も隣で同じメニューをこなし、汗を流していく。

 

「……お前、ちゃんと着いてきてるじゃないか」

 不意に隼人が感心したように言った。

 

「あったりめぇだろ! 俺だって兄貴と一緒に何年も衛士やってんだぜ」

 涼介は不満げに反論する。

 

「そうだったな」

 隼人は苦笑し、しかし目はどこか嬉しそうだった。

 

 筋トレを終えると、隼人は無言で更衣室を出て歩き出す。

 

「次は何だよ?」

 訝しむ涼介の視線の先、辿り着いたのはブリーフィングルームだった。

 

「ここで何すんだ?」

 

「お前だって一応は小隊長だろう。経験はあるが、戦術理解の方はどうかなと思ってな」

 

 モニターに映し出されたのは、新潟方面の地図とBETA侵攻予想ルート。佐渡から本土に押し寄せた場合の想定だ。

 

「もしBETAがこう来たら……お前ならどう部隊を展開する?」

 

 涼介は腕を組み、食い入るようにマップを見つめた。

 やがて、ある地点を指差す。

 

「俺なら、ここに配置する」

 

「理由は?」

 

「前回と前々回、地中侵攻があったルートだろ? そこに備えておけば、不意を突かれても対処できる」

 

 自信なさげに答えた涼介に、隼人は満足げに頷いた。

 

「……驚いたな。ほぼ俺と同じ考えだ。地中侵攻のことまで頭に入ってるとは」

 

 その後もしばらく二人で戦術論を交わした。時に熱く議論し、時に地図を指し合って笑い合う。兄弟のようにそだった2人ではあるが、同じ戦場に立つ仲間としての距離感がそこにはあった。

 

 やがて隼人は立ち上がった。

「よし、最後だ。付いて来い」

 

 連れて行かれた先はシミュレーター室。

 

「お? 最後は模擬戦か?」

 涼介は拳を鳴らしながら期待に胸を膨らませる。

 

「いや……松本との模擬戦でもう俺は腹いっぱいだ……」

 隼人は少し苦い表情を浮かべる。

 

「なら何すんだよ?」

 

「壱型丙に、乗ってみないか?」

 

 一瞬、涼介の表情が固まった。

「……マジで?」

 

「マジだ」

 

 その瞬間、涼介の目は少年のように輝いた。

「よっしゃ! 今更ダメって言っても遅いからな、兄貴!」

 

 返事も聞かずに更衣室へ駆け込み、強化装備に着替える。シートに収まった涼介の表情は期待で満ち溢れていた。

 

「いいか、不知火より出力が上がってる。感覚は大きく違う。特に跳躍ユニットは武御雷のものと同じだ。振り回されるなよ」

 

「……武御雷……」

 涼介の脳裏に近衛の渡の姿が蘇る。あの圧倒的な衝撃。

「へぇ、面白ぇ! 絶対乗りこなしてやる!」

 

 シミュレーションが始まる。

 

 涼介は最初こそ壱型丙のパワーに振り回され、制御が乱れる。だがすぐに歯を食いしばり、身体で感覚を掴んでいった。

 

「クッ……おおっ……! こいつ、最高だな!」

 

 跳躍、着地、射撃、格闘。次第に機体は涼介の意思に呼応するかのように軽やかに動き出す。

 

「兄貴! この機体は俺向きだ! ストームバンガードに最適だぜ! 俺にくれ!」

 

「お前にはまだ早い。これは俺の壱型丙だ」

 隼人は口元に笑みを浮かべ、挑発するように続けた。

「欲しいなら、奪ってみせろ」

 

「へっ、言ったな! そのうち絶対奪ってやる!」

 

 涼介は全身で歓喜を表す。新しい玩具を与えられた子どものように、目を輝かせて壱型丙を操り続けた。

 

 こうして2人の休日は、いつも以上に濃密な時間となって更けていった。

 2人の間には、本当に血の繋がった兄弟のような強い絆と、衛士としての誇りが確かに息づいていた。

 

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