Muv-Luv Alternative:Red Cygnus 血染めの白鳥達 作:NageT
数日後、久しぶりに一日中の待機が告げられた朝。
涼介は食堂で暇を持て余していると、隼人に声を掛けられた。
「なぁ涼介、暇なら少し付き合え」
「……何にだよ?」
顔を上げた涼介に、隼人は返事代わりに基地の外に走り出す。
「ちょっ、待てって兄貴!速い!」
慌てて追い掛ける涼介。二人はそのまま基地周辺を十五キロ近く走破した。息を切らしながらも懸命に着いていく涼介に、隼人は一度もペースを落とさない。
やっとの思いでゴールしたかと思えば、隼人はそのままトレーニングルームへ直行した。
「付き合えって……休日にまでトレーニングかよ……」
涼介はゲンナリとした表情を浮かべるが、隼人は肩を竦めただけだ。
「衛士は身体が資本だ。健全な精神は健全な肉体に宿る。やることもないなら鍛えるに越したことはない」
そう言うと隼人は淡々と筋トレを始める。仕方なく涼介も隣で同じメニューをこなし、汗を流していく。
「……お前、ちゃんと着いてきてるじゃないか」
不意に隼人が感心したように言った。
「あったりめぇだろ! 俺だって兄貴と一緒に何年も衛士やってんだぜ」
涼介は不満げに反論する。
「そうだったな」
隼人は苦笑し、しかし目はどこか嬉しそうだった。
筋トレを終えると、隼人は無言で更衣室を出て歩き出す。
「次は何だよ?」
訝しむ涼介の視線の先、辿り着いたのはブリーフィングルームだった。
「ここで何すんだ?」
「お前だって一応は小隊長だろう。経験はあるが、戦術理解の方はどうかなと思ってな」
モニターに映し出されたのは、新潟方面の地図とBETA侵攻予想ルート。佐渡から本土に押し寄せた場合の想定だ。
「もしBETAがこう来たら……お前ならどう部隊を展開する?」
涼介は腕を組み、食い入るようにマップを見つめた。
やがて、ある地点を指差す。
「俺なら、ここに配置する」
「理由は?」
「前回と前々回、地中侵攻があったルートだろ? そこに備えておけば、不意を突かれても対処できる」
自信なさげに答えた涼介に、隼人は満足げに頷いた。
「……驚いたな。ほぼ俺と同じ考えだ。地中侵攻のことまで頭に入ってるとは」
その後もしばらく二人で戦術論を交わした。時に熱く議論し、時に地図を指し合って笑い合う。兄弟のようにそだった2人ではあるが、同じ戦場に立つ仲間としての距離感がそこにはあった。
やがて隼人は立ち上がった。
「よし、最後だ。付いて来い」
連れて行かれた先はシミュレーター室。
「お? 最後は模擬戦か?」
涼介は拳を鳴らしながら期待に胸を膨らませる。
「いや……松本との模擬戦でもう俺は腹いっぱいだ……」
隼人は少し苦い表情を浮かべる。
「なら何すんだよ?」
「壱型丙に、乗ってみないか?」
一瞬、涼介の表情が固まった。
「……マジで?」
「マジだ」
その瞬間、涼介の目は少年のように輝いた。
「よっしゃ! 今更ダメって言っても遅いからな、兄貴!」
返事も聞かずに更衣室へ駆け込み、強化装備に着替える。シートに収まった涼介の表情は期待で満ち溢れていた。
「いいか、不知火より出力が上がってる。感覚は大きく違う。特に跳躍ユニットは武御雷のものと同じだ。振り回されるなよ」
「……武御雷……」
涼介の脳裏に近衛の渡の姿が蘇る。あの圧倒的な衝撃。
「へぇ、面白ぇ! 絶対乗りこなしてやる!」
シミュレーションが始まる。
涼介は最初こそ壱型丙のパワーに振り回され、制御が乱れる。だがすぐに歯を食いしばり、身体で感覚を掴んでいった。
「クッ……おおっ……! こいつ、最高だな!」
跳躍、着地、射撃、格闘。次第に機体は涼介の意思に呼応するかのように軽やかに動き出す。
「兄貴! この機体は俺向きだ! ストームバンガードに最適だぜ! 俺にくれ!」
「お前にはまだ早い。これは俺の壱型丙だ」
隼人は口元に笑みを浮かべ、挑発するように続けた。
「欲しいなら、奪ってみせろ」
「へっ、言ったな! そのうち絶対奪ってやる!」
涼介は全身で歓喜を表す。新しい玩具を与えられた子どものように、目を輝かせて壱型丙を操り続けた。
こうして2人の休日は、いつも以上に濃密な時間となって更けていった。
2人の間には、本当に血の繋がった兄弟のような強い絆と、衛士としての誇りが確かに息づいていた。