拙い文章にはなりますが、楽しんでいただけたら幸いです。
「人間というのは、本当は、平凡に生きることが一番難しい」
──『誰もわたしを愛さない』/樋口有介 より
「ウチではその依頼を受けてあげられないね。悪いけど、他をあたってくれるかな。」
「...はい、わかりました。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。」
そう言って気まずそうに笑う探偵さんに頭を下げ、事務所を出ていく。扉を開けて事務所を出ると、夏独特のまとわりつくような熱気が僕に襲い掛かり、雲一つない真昼の空から降り注ぐ日差しが目に突き刺さる。こんなに空は明るくてこれっぽっちの翳りもないのに、僕の目の前には暗闇しかなかった。
「これで9軒連続、か。そりゃこんな無茶な依頼を受けてくれるところなんて簡単に見つかるわけないよね...。」
僕の名前は永沼圭太(ながぬまけいた)、中学2年生だ。中学校進学を機にお父さんとお母さんの下を離れて、この町に住んでいるお姉ちゃんの所に引っ越した。それからはや1年、この町にも学校にもだんだん慣れてきて、クラスにも馴染めて友達もできた。いじめられるようなことも特になくいい学校生活が送れていた。
そんなある日、突如としてお姉ちゃんが失踪した。もともとお姉ちゃんには放浪癖があったのだが、毎回僕や両親に一言言ってから出ていくし、荷物が何もかも置きっぱなしなんてことは今までなかった。カバンも服も化粧品も全て置きっぱなしで部屋が荒らされたような形跡もなく、まるでお姉ちゃんだけが消えて無くなったようだった。
最初は財布とスマホだけ持ってコンビニにでも行ったのかと思って気にしていなかったが、いつまで経っても帰ってくることはなく、心配になって電話をかけてみたのだがスマホは部屋に置きっぱなしだった。加えて、いつものようにポストを開けてみるとそこには今どき珍しい封蠟がされた封筒があり、中には手紙が入っていた。
手紙の内容はいたってシンプル
『旅に出ます。探さないでください。』
の一言だけだった。
でも、旅に出ると言いながらカバンも化粧品も服も(後から分かったことだが、財布と身分証明書も)そのまま。わざわざ封蠟までしてポストに投函された家出の手紙。この状況とこの手紙がちぐはぐなことくらい僕でもわかった。すぐにお父さんとお母さんに連絡したが「どうせ少ししたら帰ってくる」「心配はいらない」と楽観的で全く心配していなかった。
不安と心配に押しつぶされそうで居ても立っても居られなくなった僕は、お姉ちゃんを探してもらうために探偵事務所を駆け回っていたが、どこにも突っぱねられて今に至る、という感じだ。
「ここから近い探偵事務所はっと...これか。【古畑探偵事務所】...うっ、確かここって...。」
次の探偵事務所を調べていた僕のスマホに映し出されたのは【古畑探偵事務所】だった。僕が苦い顔をしたのには訳があるのだ。なんでも、この事務所の探偵は「浮気調査で依頼人と調査対象を両方とも半殺しにした」「礼儀のなっていない依頼人をボコボコにして放り出した」「気分が乗らないからという理由で依頼を断った」などなど、嫌な噂が後を絶たない。
「怖い話ばっかり聞くとこじゃん...どうしよう...。ボコボコにされないかな...この事務所はやめとこうかな...いやでも、もしかしたら受けてくれるかもしれないし...。うーん...。」
僕はものすごく迷った。暴力を振るわれないか、気分を害して半殺しにされないか、強面の男の人が出てきて脅されたりしないか、色々な考えが僕の頭を駆け巡った。
「でも、もうここら辺の探偵事務所はほとんど回って断られちゃったし...ここ以外ってなるともっと遠くまで出かけないといけなくなっちゃう...。」
「......ええい!ダメで元々!当たって砕けろだ!行ってみるしかない!」
近くにある探偵事務所はもう古畑探偵事務所しかなく、ここ以外に行こうとしたら電車で1時間以上かかってしまう。背に腹は代えられないと思った僕は依頼を持って行くことに決めた。
辿り着いた事務所は、どこか寂れた古臭い建物だった。本当にこんな場所に探偵事務所があるのかと疑ったが、プレートがしっかりとつけられており、間違いは無さそうだった。意を決した僕はインターホンを鳴らす。
「すみません!古畑探偵事務所さんに依頼したいことがあって来ました!」
数刻の後、室内から返ってきた声に僕は驚いた。
「...依頼?はーい!今行きまーす!」
なんと、返事をくれたのは女性の声だったのだ。そして、バタバタという音が近づいてきて扉が開く。
「いらっしゃいお客さん!依頼したいことがあるって?ささ、入って入って!話は中で聞くよ!」
中から姿を現したのは、女性にしてはかなり大きい身長を持ち、大きなアホ毛を頭の頂点にたなびかせた若い女性だった。彼女に案内されるまま、僕は応接間まで通された。
「座って待っててよ、今お茶淹れるから。あ、そうだ、羊羹食べれる?」
「えっ、あ、はい、食べられます。」
「よし、じゃあそっちも一緒に用意するからちょっと待ってて。」
そう言って女性は奥に消えていき、数分でトレーを持って戻ってきた。
「はいお待たせ。お茶は熱いから気を付けてね。」
「ありがとうございます。それでその...探偵の方はどちらに?」
「...へ?ああ!自己紹介がまだだったね。私は古畑三月(ふるはたみつき)。この事務所の所長にして唯一の探偵さ。」
「た、探偵の方だったんですか!?す、すみません!とんだ失礼を...!」
「いやいやいや!そんなに謝らなくていいからね!?顔上げてよ!?」
女性...三月さんは慌てた様子で僕をなだめてきた。事前に聞いていた情報や僕のイメージと大きくかけ離れた人柄に面食らっていると、三月さんが話し始める。
「それで...少年の依頼について聞きたいんだけどいいかな?」
「あっ、ごめんなさい!自己紹介をするのを忘れてしまって申し訳ないです!」
「だからなんでそんな大げさなのさ...そんなに怖い顔してる?」
「いえ、大丈夫です、失礼しました...。僕は永沼圭太っていいます。えっと、それで依頼したいのが...行方不明の姉を探してほしいってことなんですけど...。」
「人探しの依頼だね?じゃあ詳しく話を聞きたいな。そのお姉さんの人柄とか、失踪前日の行動とか、おかしなところはなかったかとか。」
僕はお姉ちゃんの性格や趣味、前日の行動と様子などを事細かに話した。その話を受けた三月さんの様子は、他の探偵の方と同じだった。
「...悪いけどね、お姉さん自体に元から放浪癖はあったわけでしょ?財布がそのままだったからと言って失踪と断言するのも時期尚早だと思うよ。それに、特段失踪前日のお姉さんにおかしいところはなかったっぽいわけだし。ちょっとしたら帰ってくると思うよ?」
「そう...ですか...あ、あの!一応その、ポストに合った手紙も持ってきたんですけど...」
「んー?じゃあ一応見させてもらおうかな。どれどれ?...!!!」
手紙を受け取った三月さんは、最初のうちは疑うような視線だったが、封筒の裏を見て表情が一変した。
「...圭太くん、これって圭太くんがいじったりいたずらしたわけじゃないんだよね!?」
「え、はい。何かを付け足したり外したりはしてませんけど...」
「......なるほど。圭太くん、さっきのは全部前言撤回だ。これは間違いなく失踪事件だよ。」
「えっ!?ほ、本当ですか!?何か分かったんですか三月さん!?」
「詳細は話せないけど、この封蠟は間違いなくある宗教組織が使ってたものだ。数年前に壊滅したはずなんだけど...生き残ってやがったか...。」
「しゅ、宗教組織、ですか...」
「とにかくだ。まずは依頼を受理する手続きをしよう。依頼料は後払いで構わない。」
そういって三月さんは書類とペンを僕に差し出した。
「これにサインすれば依頼は成立だ。けど、その前に言っておかなきゃいけないことがある。...この事件の果て、君が望まない結果になる可能性がある。それでも大丈夫かい?」
「望まない結果」
そう言われて、僕は若干血の気が引くような感じがした。お姉ちゃんが死んでしまう、あるいはもう死んでしまっているのかもしれない。
「世の中には知らない方が幸せだったってこともある。それでも、それでも真実を追い求めたいと思うのならここにサインをしてくれ。」
真実。...そうだ、僕はお姉ちゃんを見つけたい。お姉ちゃんに会いたい。何も知らないまま永遠にお別れだなんて、そんなのは絶対に嫌だ。
「...よろしくお願いします、三月さん。」
「ああ!よろしく任された!」
ここから僕と三月さんの、真実を追い求める長い道のりは始まった。
でも、この時の僕は思いもしなかった。まさかこの道の先であんなことになるなんて、この時はこれっぽっちも思わなかったのだ。
新しく話を作りつつ、前の話を読みやすく分かりやすく修正していけたらいいなぁ...
また次回お会いしましょう!