小さな事務所の机で、俺は支払明細とにらめっこ。

 穴が空くほど見つめても、熱視線を嫌と言うほど送っても、この熱に反応するシートにある0のケタは変わらない。
 ああ、今日も邪兎屋は火の車だ。

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ゼンゼロのてけとーな妄想を一晩で超コンパクトに、公式のキャラエピソードみたいにまとめた、続くか未定のおはなし


手取り0ディニー

 『後悔』とはよく言ったものだ。自らの行いを悔やむことなど、どれだけ足掻こうと過去にしかできない。

 

 自らの道の先を知っているのであれば、それこそ道のりを変えれば良いわけで。そして、知ることができなかったからこそ、俺は自戒の念を背負ってここにいる。

 

 白いコンパクトカーの中、アイマスクをつけて眠れない目を閉じる。そのまま軽く倒した背もたれに身をあずけて、つとめて何も考えないようにする。が、どうにも俺は苦手なようで、どうにも忌々しい"あの日"のことがリフレインし続ける。

 

 今はない、懐かしいあのオフィスと、慌てたように駆け込むアイツと。守るべきモノのために鉄火場に向かう、立派なアイツと、背を向けて帰った、意気地なしの俺と。

 

 

 「………チッ」

 

 

 日々の業務で疲れ切った目を労ってやろうと体勢を整えていたわけだが、どうにもまぶた裏の像がそれを邪魔する。アイマスクをもぎ取るように外して舌を打って両目を開き、チラとサイドミラーを見ると、すぐそこの路地裏から見慣れた社長と同僚達が駆けてくるのが見えた。

 そしてさらにその後ろから、今日の取引相手が血相を変えて追いかけてきているのも見えた。

 

 またか。

 痛む頭を押さえながら背もたれを正すと、同時になだれ込むように乗り込んできた社長が、俺に声をかける。

 

 

「出しなさいソル、逃げるわよ!」

 

「承知しました…………たまにはもう少しこう、穏便なやり方を考えないんですか、ニコ」

 

 

 同僚2人が後部座席に乗り込み、最後のもう1人が車体の後部にコミカルにしがみつくと同時、猛スピードで車を出す。そうしてある程度彼らから離れたことを確認してから問うと、桃色のツーサイドアップを上機嫌に揺らす彼女はいつものように高飛車に応える。

 

 

「バカね、穏便に事を済ませられるのなら、この世に治安官はいないのよ! アンビー、ビリーのスペース開けてあげなさい」

 

「猫又がもう少し寄ってくれればできるわ」

 

「にゃにっ!? この小さくてカワイイネコちゃんが邪魔ってコト!?」

 

「なんでもいいから早くしてくれ!俺の油圧シリンダでも、何度もGをかけられちゃ手を離しちまう!」

 

 

 追手を振り切るために、多数の路地を自慢のドライビングテクニックによって走り切っていたからか、後方でなんとかしがみついている機械生命体の同僚が悲痛な訴えを漏らす。

 それを聞いてようやく、いまだに続いていた後部座席の姦しいやり取りが収まる。

 

 言葉にすると「しょうがねぇなぁ」だろうか、そんな言葉が額に書いているのではと錯覚する態度で、身体を横にずらす二人。

 

 そうして出来たスペースに身体を滑り込ませた彼は「ふぅっ!」と言葉を漏らして、両の手を開いて閉じてを繰り返し、「もうちょっとでスターライト・ナイトみたいなアクションをするところだったぜ!」と冗談を言う。

 どうやら割とピンピンしているみたいだ。

 

 彼―――ビリーを労おうと、俺は声をかける。

 

 

「ビリーさん、お疲れ様でした。今日の稼ぎによっては、関節に差す油をワンランク上にできそうですよ」

 

「お、マジか? 俺の娘たちのためのガンオイル、いいヤツにもできっかな!?」

 

「それは……」

 

 

 ビリーの期待が篭った声に、思わず隣に座るニコに目をやると、彼女は少し汗を流しながら明後日の方を見ている。その姿に一抹の不安を覚えた俺は、冗談であってくれと思いつつ、ニコに質問をする。

 

 

「ニコ、その冷や汗を止めて今すぐに答えてください。まさか今回の報酬、受け取れないとかそんなことにはなってませんよね?」

 

「え、ええ!? まさかそんなワケないじゃない、イヤダワーヘンニカングラナイデホシイ」

 

「……まさか、ニコ? 貴方もしや、よくわからん怪しい"ビジネスチャンス"に首をツッコんでいるとか言うのではないでしょうね?」

 

「そうじゃないわよ! た、ただ……」

 

 

 目を泳がせ、しどろもどろになる"社長"を見はせずに圧をかける。

 次第にハンドルを握る力も強くなるが、まさか事情を聞きもせずに怒る訳にもいくまい。

 だが事と次第によっては―――。

 

 そう思った次の瞬間。

 

 

 ―――BOMB!!!!

 

 

「キャアッ!?」

「うにゃぁ!?」

「うおぁ!!」

「ッ!!」

 

 

 車体横から衝撃。次いで割れる窓ガラスと、肌に伝わる熱。

 

 

「―――クッッッソタレがよぉぉ!!」

 

 

 40°は傾いた車体。その体勢を整えるため、死に物狂いでハンドルを操作して落ち着かせる。

 ガタンッと浮いた車輪が舗装に着くと乗員も軽く浮き、同時に後方で様々な悲鳴等が飛び交うが構わず、ニコに半ば怒鳴るように聞いた。

 

 

「相手方の追手かなんかですか!? どんだけやらかしたんです!?」

 

「むしろこっちが聞きたいわよ! ていうかそもそも、アイツらと似ても似つかないスーツだし!!」

 

「―――おいおいおい、ヤバいぜアイツら! トンデモねぇモン構えてやがるッ!!」

 

 

 ビリーの言葉に俺は割れてはいなかったミラーで後方を確認する。

 

 左サイドを見るとバイクに乗った黒ずくめ男。右サイドを見ると黒塗りの高級車。次いでバックを見ると、周りの空き家から飛び出してきたのか、俺らが通ったときにはいなかった黒ずくめサングラスクソ野郎たちが、ロケットランチャーを構えていた。

 

 

「―――伏せろォッ!!」

 

 

 

 

  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 

「ハッハァッ!! 俺らに楯突いたからこうなったんだよ!! しっかり反省しな、あの世でなァ!」

 

 

 自分の縄張りで騒ぎを起こされた裏社会の者は、往々にしてケジメをつけさせにいく。

 新エリー都全体でみると、ごくごく小さな一派でしかない彼らだが、それでも今後自分たちが目指す地位を考えた場合、今回のように『鼠』が侵入し、あまつさえソレを逃したなどと噂が広まった場合・・・想像もしたくない。

 

 故、この組のボスである男は徹底的にぶちのめすことを選択、現在目の前で炎上している車がその顛末だ。

 

 

「ボス、例のブツがぶっ壊れてたらどうします?」

 

「んなこと後だ後、今はコイツらに灸をすえてやることが一番よ」

 

 

 「まあ、生きていればの話だがな!」と大口を開けて笑った彼は、そのまま手下に『鼠』の生存を確認しに行くよう指示をした。

 

 その手下の男は銃を片手にしつつ、しかし揚々と近づいていく。それはその轟々と燃え盛る炎の中で生き残る者がいるわけがないと思っているからだが。

 

 

 

「―――面倒なことにしてくれましたね、社長」

 

 

 目の前の炎がフロントのエンジンなどからではなく、あくまでも運転席などの車内から出ているが、ボスは『燃え盛る炎から人がほぼ無傷で生還している』という事実を受け止められずに呆けていた。

 

 同時に炎の中から声が聞こえる。先の鼠の仲間の声だ。

 

 

「あとで追加請求には応えてあげるから! 今はコイツらをどうにかするわよ!」

 

「あちちっ! ソル、早く鎮火してくれ! 尻尾に火が・・・にゃあ!?」

 

 

 次いで聞こえてくるヤツらの声。

 

 まさか。そう思った男の意識は、次の瞬間には刈り取られていた。

 

 

「ハァ……持病が苦しいから、あまり運動はしたくないんですよ。ストレスでニコチン接種も捗ってしまう」

 

 

 男が持つ武骨な棒はとても長く、男と同じくらいの長さ……およそ180cmだろうか。一部ではあるが等間隔に穴が開いており、そこから炎がチラチラと頭を覗かせている。

 

 くるくると軽やかに、しかし明らかなイラつきを載せてその棒を振りまわすと、知らぬ間に鎮火された車内から四名、鼠たちが下りてきた。

 

 『猫又』と呼ばれる、黒髪褐色のみるからに少女は、不敵にも笑みを浮かべ。

 その手を既に腰の電磁ブレードにかけているのは、『アンビー』と呼ばれる少女。

 『ビリー』と呼ばれる機械人は、悠々と歩きながら装填を済ませ。

 そして彼らをまとめあげている『ニコ』という女性は、早くも敵を一人卒倒させた男を見つけて声を荒げる。

 

 

「ってソル! アンタまたタバコ吸ってるでしょ! 身体に悪いんだから辞めろって、何度言えばわかるのよ!」

 

 

 「そもそもアンタの持病の喘息も、元はタバコが原因じゃない!」と漏らすニコだが、ソル―――白髪交じりの短髪をオールバックにしている男は、半ば額に青筋を浮かべ、メガネの位置を中指で直す。

 

 

「ニコ、こちらも何度言えばいいのでしょうか。赤牙組から私を拾ってくれた恩ゆえに助力いたしますが、日々貴方の無茶振りに応えたり唐突な荒事に巻き込まれれば、人間ゆえにストレスが溜まります。そして人間というものは無限に空気を溜め込める不思議な風船ではないので、適度にガス抜きをしなければいつかは爆発する。私の場合、そのガス抜きはニコチンの過剰摂取です」

 

「お、お前ら……やっと確保したナワバリだってのにこったこたに荒らしやがって、お前ら、何なんだぁっ!?」

 

 

 意識がやっと戻ってきたならず者のボスだが、自分のキャパを超えた事態に思わず、ツバを飛ばしながら彼らに怒りをぶつけようとする。

 ボスが出した合図とともに、ならず者たちは近くにいたソルに左右から飛びかかろうとした。しかしソルはそれを読んでいたかのように、棒を支えに飛び上がって、両の足で顎を的確に蹴りつけることで意識をブラックアウトさせた。

 

 アンビーはそれに合わせるようにソルの隣に立つと、傲岸不遜に名乗りをあげる。

 

 

「私たちは、『邪兎屋』。ホロウレイダーであり、世にはびこる悪を許さない秘密組織」

 

 

  ☆  ☆  ☆  ☆

 

 

 俺はアンビーの隣で嘆息しつつ、同僚の悪癖の一つに嘆く。

 ああ、また出たぞ。アンビーの『映画の名シーン再現癖』だ。

 

 今日はなんの映画のシーンかしらんが、こうなるといっそのこと乗らないと彼女が憐れじゃあないか。

 そういうわけで隣でそれっぽく合わせる俺。アイツが見たらゲラ笑いでもしただろうか。いや、アイツに限ってそれはないな。

 

 

 ―――ああ、そうだ。こういう物語ぽくキメたなら決まり文句があるってのはアンビーの言葉か。なら……んんっ。

 

 俺は『ソル』。本名はソロモン・ターナー。

 なんやかんやで今はニコに世話になっている、『邪兎屋』 専属会計士だ。

 

 でもってここは新エリー都。『ホロウ』ていうトンデモ自然災害と常に隣り合わせで危険がいっぱいの……けれどそれでも人々が息づく、素敵な街だ。




割とキャラ設定は考えたつもりですが、絶対穴があると思うのでオレンジ評価にでもならない限り続けるつもりは)ないです。

ちなみに濃厚な絡みがある(予定の)陣営はありますが、流石に今回だけじゃわからんと思うので高をくくってます。

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