ファンサービスは僕のモットーですから   作:ジャギィ

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youtubeに流れたファンサービスに触発された


第1話

天気は快晴、景気は良き、ドロー運もバッチシ

 

舞網市に住むその少年は、今日も今日とて己が住まうデュエル塾で、平穏な日常を謳歌していた

 

塾生は自身を含めてたった2名。かつて栄華を誇ったが今や衰退の一途を辿っている遊勝塾以下の、どうして潰れてないのか不思議なレベルの弱小塾だが、まるで「増殖するG」の如き粘り強さでなんとか塾は維持されてきていた

 

「……は?LDSがウチを買収?」

「うん」

 

()()()()()()、その平穏は崩れてしまった

 

 

 

お世辞にも来客用とは思えない部屋のソファで脚を組みながら、赤馬日美香は不快感を隠そうともしなかった。良く言えばレトロ、最大限に悪く言えば掘っ建て小屋としか言えない木造建築は古さしか感じず、何もかもが最先端のLDSの住人には耐え難い環境だった

 

その日美香の正面に座るのは、杖を横に寝かせた腰の曲がった老人。この“人形デュエル塾”の塾長であるデメット・ドールであった

 

「それで…この塾の買収には応じないと?」

「ええ…何故あなた方のような人達がこんな古びた塾を欲しているのかは知りませぬが、この塾はワシが祖父の代から受け継いだ大切な場所。ここを居場所としてくれる子もいる以上、おいそれと明け渡す訳にはいかんのです」

 

老いぼれが、と吐き捨てたい気分を必死に抑え込む。日美香とて、こんな舞網市の角にあるボロボロのデュエル塾など買収するほどの価値はないと断じられるが、簡単に引き下がれない理由がLDS側にもあった

 

 

『……強力なエクシーズモンスターの召喚反応を検知したそうです』

 

 

そんな息子の言葉が脳裏でリフレインする

 

少なくともこの塾では最近、そのエクシーズモンスターを召喚するデュエルが行われたということ。間違いなくこの塾の生徒がそのモンスターを召喚したのだ

 

つまり、LDSの目的はそのデュエリストをLDSに引き込む、もっと言えばその子供の持つエクシーズモンスターそのものを手に入れることだった。最悪カードさえ手に入れてしまえば、子供には用はない

 

懸念すべき点があるとすれば、人形デュエル塾の公式戦ではエクシーズモンスターを召喚したデュエルのデータがない所なのだが…そこも大した問題ではないだろう

 

「残念ながらそういう訳にはいきません。我々にも事情がありますので…なのでここは、デュエル塾らしくデュエルの勝敗で決めようではございませんか」

「…やはりそうなるかの…」

 

デメットは露骨に残念そうに息を吐いた

 

当然だと日美香は思った。何故なら我がLDSはエクシーズ召喚のみならず、融合召喚、シンクロ召喚すらも習得できる世界有数のデュエル塾なのだ。その強さはこの世界で1番と言っても過言ではなく、更にいずれ訪れる()()()への対抗策も講じているのだ

 

如何に強力なエクシーズモンスターを持っていようと、数少なくとも公式戦で無敗だろうと、こんな木っ端塾の生徒に負ける道理などあるはずがないのだから

 

「では、また後日」

 

それだけ言うと、上機嫌に見下しながら日美香は退室した

 

日美香が去ったのを確信し、デメットは後ろを向くと、古びた扉の奥から現れたドレスを着た愛らしい孫娘と背の高い金髪の美少年を見た

 

「デメット爺さん、大丈夫!?」

「おお、コロンや。大丈夫じゃ、安心なさい」

「あのオバサン、爺さんをイジメたから嫌い!ねえIV(フォー)、あのオバサンやっつけちゃってよ!」

 

ぷんすこ怒る女の子…コロンの言葉に、IVと呼ばれた少年は顔を顰めるが、すぐにデメットの方を向くとバツの悪そうにする

 

「爺さん…その、だ…」

「良いのじゃIV、お主を拾った時点でこうなる未来は覚悟しておった。それにじゃ、お主にとってもここの生活は窮屈でつまらなくて仕方なかったじゃろうに」

「そんな事ねえ…」

 

隠し事をする子供のような態度にデメットは静かに笑いながら、そのシワシワの手でIVの手を触れながら言う

 

「この古巣から飛び出す時が来たのじゃ。遠慮はいらん。明日のデュエル、お主のやりたいようにやりなさい」

「…そうかよ…」

 

それだけ言うとIVはコロンとデメットに背を向けて去ろうとし…その眼差しを2人に向けて言う

 

「…俺は…」

「うん?」

「…俺は、ここに戻ってきてもいいのか…?」

「もちろんじゃよ」

「IVも私達の家族なんだから!ちゃんと帰ってきてよね!」

 

屈託のない笑顔から出てきたセリフにIVは呆気を取られ

 

「…ああ。約束する」

 

今度こそIVは部屋に戻った

 

明日のデュエルで、勝利を得る為に

 

 

 

後日、LDSデュエルコートにて…

 

「おや、君がボクの対戦相手でいいのかな?」

 

観客席に囲まれながら、星の髪飾りを付けた少年“志島北斗”はキザったらしく相手に呼び掛けた

 

「初めまして、志島北斗君。僕はIVと呼ばれています」

「「IV」…“決闘者(デュエリスト)の貴公子”と名高い君がデュエルの相手だとは光栄だね」

「ありがとう。君も僕のファンになったのかな?」

「冗談…君は公式戦で無敗を誇っているようだが、所詮そんなものは雑魚相手だったから勝てたようなものさ。ここで君を倒して、40連勝目の記録に箔をつけさせてもらうとしよう!」

 

己を誇示するかのように『40連勝』を強調する北斗。それを観客席で見ていた褐色の少女が「バッカみたい」と呆れていたのだが、IVは逆に目を輝かせながら北斗に言った

 

「40連勝…!凄いよ北斗君!君は才能のあるデュエリストなんだね!」

「え!?ま、まあね!これでもボクは、LDSエクシーズコースの主席を務めているからね!」

「そんな凄い人とデュエル出来るなんて、今日はなんて素晴らしい日なんだ!」

「フ、フフン!なんだい、分かってるじゃないか君ぃ!」

 

褒めちぎられて鼻が天狗になったかのように伸びる北斗を、融合、シンクロコースの首席が白い目で見ていたが、有頂天になっている北斗は気づけなかった

 

「でも、このデュエルには僕の大切な塾の存続が掛かっているんだ!だから君には負けないよ、北斗君!」

「フフ、なぁに、大丈夫さ。負けても誇りあるLDSの一部になれるんだ。ボクも手を抜く気はないぞ!」

 

互いにデュエルディスクにデッキをセットし、戦いの準備を進める

 

「アクションフィールド、オン!フィールド魔法「星の聖域」!」

 

そして、空に球状にかき集められていた大量のカード…アクションカードが、フィールド全体に散らばる。砕けるような破砕音が、デュエルを開始する合図

 

それと同時に北斗を皮切りに、アクションデュエルの口上が紡がれる

 

「戦いの殿堂に集いし決闘者デュエリストたちが!」

 

「モンスターと共に地を蹴り、宙を舞い!」

 

「フィールド内を駆け巡る!」

 

「見よ!これぞデュエルの最強進化形!」

 

「「アクション……!」」

 

 

 

「「デュエル!!」」

 

 

 

デュエルが始まった同時刻…LDS内のとあるモニタールームにて、そのデュエルを観察する者達がいた

 

「始まるか…」

「そうですね。しかし志島北斗はエクシーズコースの主席、エクシーズ召喚を体得してからは39連勝記録の保持者です。間違いなく彼が勝つでしょう」

「………」

 

そんな日美香の、母の言葉に何を思うのか…赤馬零児はただ黙って、モニターに映るデュエルを見ていた

 

 

 

「最初は僕のターンからだ!僕は「ギミック・パペットーキラーナイト」を召喚!」

 

右手に大振りの剣を持った人形がIVのフィールドに現れる。その人形の左肩に乗りながらエンド宣言をする

 

「僕はこれでターンエンド!さあ、君の番だ、北斗君!」

「ボクのターン、ドロー!」

 

ターンが渡ってドローをすると、北斗は不敵な笑みを浮かべる

 

「フフフ、出たね、君のデッキの切り込み隊長。「キラーナイト」は手札以外から墓地に送られれば手札に戻る効果を持つ。つまり、幾ら「キラーナイト」を倒しても何度でも出てくるってわけだ」

「僕のカードを知っているのかい!?光栄だなぁ」

「当然さ、君の事は調べ尽くしたんだ。君に勝ち目はないよ!ボクは「セイクリッド・グレディ」を召喚!」

 

黄道十二星座が1つ、山羊座の力を司る白銀の鎧を着た女型の魔法使いが現れる

 

「「グレディ」は召喚に成功した時、手札の「セイクリッド」モンスターを1体特殊召喚できる!この効果により、僕は「セイクリッド・カウスト」を特殊召喚!」

 

次に出てきたのは射手座を表す、下半身がケンタウロスのように馬の胴体になっている金の弓を持ったモンスター

 

「レベル4のモンスターが2体…来るか!?」

「残念ながら、これで終わりじゃないよ!「セイクリッド・カウスト」のモンスター効果!1ターンに2度、自分フィールドの「セイクリッド」モンスターのレベルを1つ変化させる!「カウスト」と「グレディ」のレベルを1つあげる!」

 

レベル4→5

レベル4→5

 

「まさか、レベル5のモンスターが2体!?」

「僕はレベル5の「グレディ」と「カウスト」の2体で、オーバーレイ!!」

 

 

「星々の光よ!今大地を震わせ降臨せよ!」

 

 

「エクシーズ召喚!ランク5!「セイクリッド・プレアデス」!!」

 

星雲を切り開き出現したのは、星のように金銀に輝く鎧を纏った戦士。マントの内側には星が漂う宇宙が広がっており、周囲には光の球がゆっくり旋回していた

 

セイクリッド・プレアデス

ランク5 ATK2500

 

1ターン目から登場したエクシーズモンスターに観客席が沸き立つ。しかし誰よりも「プレアデス」の召喚に興奮していたのは、対戦相手のIVだった

 

「凄いよ北斗君!召喚が難しい高ランクのエクシーズモンスターをこんなにも簡単に出すなんて!」

「そんなに褒めないでくれよ〜!…って、状況が分かってるのか君!?「プレアデス」はORU(オーバーレイ・ユニット)を使うことでモンスターカードを手札に戻せる!つまり、「キラーナイト」の防御が出来なくなるってことなんだぞ!」

「なんだって!?それはマズイ…!アクションカードを探さないと!」

「させないよ!「プレアデス」のモンスター効果!ORUを1つ使い、君の「ギミック・パペットーキラーナイト」を手札に戻す!」

「うわっ!っ、「キラーナイト」!」

 

行動を起こそうとするも既に遅く、効果で手札に戻った「キラーナイト」は消滅し、IVはなんとか着地するのが手一杯でアクションカードに手が届かなかった

 

「いけ「プレアデス」!プレイヤーにダイレクトアタックだぁ!」

「うわぁ〜!!」

 

IV LP4000→1500

 

「うう…やるなぁ」

 

大型モンスターの一撃に一気に半分以上のライフを削られるIV。それを見た観客…特に、LDSでありながらIVのファンでもある女性客達が悲鳴をあげた

 

『IVォー、しっかりー!!』

『頑張ってー!!』

『あんな変な立て髪に負けないで〜!!』

「へ、変な立て髪…!?」

 

それを聞いていた融合コースの主席“光津真澄”とシンクロコースの主席“刀堂刃”は、北斗が近くにいるにも拘らず笑った

 

「プッ」

「ハハハ!言われてんなぁ北斗の奴!」

 

「そこの2人っ!!聞こえてるぞぉ!!」

 

薄情な仲間に批難する北斗。一方IVは観客席に向けて手を上げながら爽やかな笑顔でファンに応える

 

「応援ありがとう、みんな!!」

『『『キャア─────!!!』』』

 

すると甲高い叫びが木霊し、デュエルコートにIVコールが響き渡っていく

 

『『『IV!!IV!!IV!!』』』

「ホームの筈なのになんだこのアウェー感…!!」

「ご、ごめんね?でも、ファンサービスは僕のモットーだから…」

「うるさいっ!!ボクはターンエンドだ!早く進めろ!」

 

やけっぱちにターンを終了した事で、次のターンがIVに回る

 

「僕のターン、ドロー!僕は「おろかな埋葬」を発動!この効果で、デッキの「ギミック・パペットービスク・ドール」を墓地に送る!今墓地に送った「ビスク・ドール」はゲームから除外することで、このターン僕の「ギミック・パペット」モンスターは効果の対象に取れなくなる!」

「何!?「プレアデス」の効果を封じてきたのか!?」

「そして「ギミック・パペットーボム・エッグ」を召喚!」

「そのモンスターは…!」

「手札の「ギミック・パペットーブラッディ・ドール」を墓地に送って効果発動!北斗君に800ポイントのダメージを与える!」

 

フィールドに現れる、オレンジ色の卵型に手足のついてカツラを被らせた人形のモンスター。その体が半分に開くと、中から光の玉を北斗に向かって発射し効果ダメージを与える

 

志島北斗 LP4000→3200

 

「くっ…やってくれるね!」

「更に「キラーナイト」のモンスター効果!墓地の「ギミック・パペット」モンスターを効果を無効にして守備表示で、手札のこのカードと一緒に特殊召喚する!来い!「キラーナイト」、「ブラッディ・ドール」!」

 

フィールドに「キラーナイト」と、鏡から血のように真っ赤なドレスと赤髪の少女の人形が出てくる

 

「雑魚が幾ら増えようと…!」

「そして「ブラッディ・ドール」をリリースして魔法カード「ミニマム・ガッツ」を発動!相手モンスター1体、つまり「プレアデス」の攻撃力をターンの終わりまで0にする!」

「な、なんだと!?」

 

「ブラッディ・ドール」の特攻による爆発が「プレアデス」に直撃

 

ATK2500→0

 

「1ターンに1度だけ、手札以外から墓地に送られた「ブラッディ・ドール」は手札に戻すことが出来る。さらに「ミニマム・ガッツ」の効果を受けたモンスターを戦闘破壊出来れば、破壊したモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「や、ヤバい!確かここに…!」

「「ボム・エッグ」!「プレアデス」に攻撃だ!」

 

先ほどのように体内から飛び出た光弾が星の戦士を蜂の巣にすべく乱射され…

 

「!! あったぞ!アクションマジック「回避」!モンスター1体の攻撃を無効にする!」

 

不可視のバリアのようなものが「ボム・エッグ」の光弾を弾き、「プレアデス」を守ったのだった

 

「破壊出来なかったか…!僕はカードを1枚セットしてターンエンド!」

 

ATK0→2500

 

 

 

モニタールームにて…

 

「志島北斗、一体何をやっているのですか!?」

 

予想以上に苦戦を強いられている北斗の姿に怒りを表す日美香。一方零児はそのデュエルの状況を冷静に把握していた

 

「しかし、志島北斗の手札は潤沢にある。地の利も我々の方にある以上、こちらが優勢です」

「そ、そうですか…それは良かった…」

 

ホッとする日美香。しかし、そんな安心とは裏腹に零児の胸中には不安が渦巻いていた

 

(そう…「セイクリッド」エクシーズモンスターの特性上、攻撃力の高さは問題ではない。アクションフィールドも志島に有利に働く限り、彼がアクションカードを入手することは困難…しかし…それならば…)

 

何故…()()()4()()()()()()()()2()()()()()()()にも拘らずエクシーズ召喚しなかったのか

 

(何かが…ある…)

 

 

 

「ボクのターン!臆したなIV!さっきの攻撃、「キラーナイト」も攻撃表示で出していれば勝つ事ができたものを!」

 

もっとも、その場合は「回避」ではなく戦闘破壊耐性と戦闘ダメージ半減を付与する「奇跡」を取ればギリギリ耐えられるけどな、と心の中でほくそ笑む北斗

 

「「プレアデス」の効果、「キラーナイト」を対象にして手札に戻す!」

「罠カード「スキル・プリズナー」!このカードは自分のカードを対象に取るモンスター効果をこのターンだけ無効にする!「キラーナイト」を対象に取ることで「プレアデス」の効果は無効になる!」

 

表になった罠カードから飛び出た光が「プレアデス」に命中し、それをモロに受けた「プレアデス」は膝をついて無力化される

 

「やはりその手のカードを伏せていたか!だが無駄だ!「セイクリッド・ソンブレス」召喚!このモンスターは召喚に成功した時、墓地の「セイクリッド」モンスターを除外し、残った墓地の「セイクリッド」モンスターを手札に加える!「グレディ」を除外して「カウスト」を手札に!さらに、「ソンブレス」はこの効果を使えば、もう一度「セイクリッド」モンスターを召喚することが出来るのさ!」

「なんだって!?」

「現れろ「カウスト」!「カウスト」の効果で自身と「ソンブレス」のレベルを1つずつ上げる!」

 

再びレベル5のモンスターが2体…北斗が何をする気は明白だった

 

「レベル5となった「カウスト」と「ソンブレス」でオーバーレイ!」

 

 

「再び降臨せよ!「セイクリッド・プレアデス」!!」

 

 

セイクリッド・プレアデス

ランク5 ATK2500

 

「くっ、2体目の「プレアデス」…!」

「まだだ!更に「プレアデス」1体でオーバーレイ!」

「「プレアデス」でエクシーズ召喚を!?」

 

 

「眩き光もて降り注げ!エクシーズ召喚!現れろ!ランク6!「セイクリッド・トレミスM7(メシエセブン)」!!」

 

 

セイクリッド・トレミスM7

ランク6 ATK2700

 

「なんて事だ!「プレアデス」を更に進化させるなんて!ていうか、これはマズイ…!」

「今更気づいても遅い!2体目の「プレアデス」の効果発動!ORUを1つ使い、「ボム・エッグ」を手札に戻す!「キラーナイト」に効果が効かないならばこっちだ!」

 

新たなエクシーズモンスターによってモンスターを除去されてしまうIV。これによりIVのフィールドに残らされたのは下級モンスターの「キラーナイト」のみ

 

「バトルだ!「トレミス」で「キラーナイト」を攻撃!」

「くっ…「キラーナイト」!」

 

「トレミス」の放った光線により「キラーナイト」は破壊され、IVのフィールドはがら空きになる

 

「終わりだ!「プレアデス」でダイレクトアタック!」

「何か、手は…はっ!あれは!」

 

IVの視界の先、そこには1枚のアクションカードが落ちていた

 

「無駄だ!そこに落ちているのは!」

 

咄嗟にアクションカードを拾い、起死回生の逆転のカードであってくれと望んで拾ったカードは……

 

「あっ」

 

アクションマジック「コスモ・アロー」。効果は“相手がドロー以外で魔法カードを手札に加えた時、そのカードを破壊する”もの

 

この状況を打開できるものではなかった

 

 

「うわああああああっ!!!」

 

 

光が、IVを呑み込んだ

 

 

 

「終わりましたわね」

「………」

「さて、彼が持っているエクシーズモンスターを回収せねば…」

「…っ!待て!」

「…?零児さん…?」

「まだ…終わっていない!」

 

 

 

Excellent(エクセレント)。素晴らしい攻撃だぁ……でも僕はダメージを受けていません」

 

 

「な、何!?」

 

北斗は目を剥いた。土煙が晴れると、その中にはIVを守るように鎌を構える道化師のよう人形がいて、全員がそれを確認すると同時に爆散した

 

「残念ですが、僕は「キラーナイト」が戦闘破壊された時点で手札の「ナイト・ジョーカー」の効果を発動し、破壊された墓地の「キラーナイト」を除外してこのモンスターを守備表示で特殊召喚していたのさ」

「だから「プレアデス」の攻撃は届かず、「ナイト・ジョーカー」を破壊したのか…!」

 

しかし、分からないことが北斗にはあった

 

「だが、それならなんであんな風に焦るフリを!?そんな事をしなくても、「ナイト・ジョーカー」の効果を使えば攻撃は防げたのに!」

「それはだな…お前が俺のファンだからさ」

「ハァ…!?」

 

「希望を与えられ、それを奪われる……その瞬間こそ人間は1番美しい顔をする」

 

「それを与えてやるのが、俺のファンサービスさ」

 

そこには、爽やかな笑みを浮かべてファンを魅了する好青年の姿はない

 

絶望を与えることこそが至上の快楽だと謳う、サディスティックな笑みを浮かべる狂人がそこにいた

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 

「お前のデュエルは素晴らしかった!プレイングも、戦略も!」

 

 

「だが! しかし!」

 

 

「まるで全然!この俺を倒すには程遠いんだよねぇ!!」

 

 

「まずはこれだ!フィールド魔法「地獄人形の館」を発動!」

 

IVの背後に森が生い茂り、そのど真ん中に不気味な洋館が立ち顕れる。もっとも、アクションデュエルに悪影響を及ぼさないよう、フィールド魔法は背景にしかならないのだが

 

「これは…!?」

「このカードの発動時、俺は「ギミック・パペット」モンスター1枚を手札に加えられる。「ギミック・パペットーブラッディ・ドール」を手札に加え、その効果を発動!こいつの効果で俺はデッキの「ギミック・パペットーカトル・スクリーム」と自身を特殊召喚する事ができる!」

「な、なんだそのデタラメな効果は!?」

「しかし、この効果を使えば俺はこのターン「ギミック・パペット」しか特殊召喚できなくなるし、そもそもデッキから出すモンスターに応じて、ある条件を満たさなきゃならねえ…」

「ある、条件…?」

 

おそるおそる聞く北斗に見せつけるように、デュエルディスクに収納されている()()()()()()()()()のカードを抜き取り…

 

「それはだな、「カトル・スクリーム」のレベル8、これと同じ数値の…『コイツ』を見せることさ」

「ッ…!!?」

 

公開されたカードを見た北斗は全てを悟り…そして青ざめた

 

「さあ来な!「ブラッディ・ドール」!「カトル・スクリーム」!」

 

ギミック・パペットーブラッディ・ドール

レベル8 DEF1400

ギミック・パペットーカトル・スクリーム

レベル8 DEF2000

 

同時に特殊召喚されたのは、高レベルに似合わない低ステータスのモンスター。だが、その2体の()()()()()に、観戦していた融合・シンクロ首席の2人は気付いた

 

「レベル8のモンスターが2体!?」

「これって…まさか!」

 

2体の人形のモンスター。しかし「ブラッディ・ドール」はともかく、問題はもう1体の燃え盛る牛型のモンスター。何故ならそのモンスターは、小さい人形を大量に組み込む形で作られていて、更に口先の人形はラッパを咥えていて、牛のようでそうでないような音を鳴らしていた

 

今までIVが使用した「ギミック・パペット」モンスターの中には奇っ怪な人形も確かにいた。だが、この「カトル・スクリーム」は明らかに今までのモンスターとは毛色が違う。不気味を通し越して悪趣味極まりない人形を見て、北斗は無意識に理解した

 

 

「とくと味わってくれよ……俺のファンサービスを!!」

 

 

このモンスターこそ、IVの隠された本性…「ギミック・パペット」モンスターの本当の姿なのだと

 

「俺はレベル8の「ブラッディ・ドール」と「カトル・スクリーム」でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」

 

2体のモンスターが飛び込んだ渦から光が溢れ、そこから現れたのは……強く脈動する巨大な心臓

 

 

「現れろ、“No.15”」

 

 

心臓が内側から開いて変形していく。人形のパーツとなり形となって現れたのは、イスに座る巨大な黒い人形。無機質な翠の瞳には光が存在せず、座席の上から吊るされた糸に引っ張られ手脚が揺れ……その額に己の象徴たる15の数字が浮かび上がる

 

 

「地獄からの使者、運命の糸を操る人形…」

 

 

「「ギミック・パペット-ジャイアントキラー」!!」

 

 

No.15 ギミック・パペットージャイアントキラー

ランク8 ATK1500

 

「な、なんだ、こいつは!?」

 

あまりに異様な威圧感を放つモンスターの登場に恐れ慄く北斗。そして、このモンスターを動かせば自分は恐ろしい目に遭う…そんな予知ともいえる予感が北斗の身を貫く

 

「や、やばい!「プレアデス」の効果、「ジャイアントキラー」を手札に戻す!」

「無駄だ!墓地の「スキル・プリズナー」は、ゲームから除外することでもその効果を発動することが出来る!」

「ぼ、墓地からトラップだと!?」

「効果は言うまでもないな?「プレアデス」を無力化する!」

 

先ほどと同じ光景が北斗の前で繰り広げられる

 

「そして俺は、「ジャイアントキラー」のORUを1つ使い、相手の特殊召喚されたモンスター1体を破壊する!対象は「トレミスM7」!」

 

その宣言と共に、巨大な人形の掌から多量の糸が伸び「トレミス」を捕らえる

 

「な、何をする気だ!?」

 

そして「トレミス」は「ジャイアントキラー」の方へ引っ張られていき…開かれた胸部の中で、巨大なローラーが回転を始める

 

「ま、まさか…!?ま、待て!」

 

北斗の制止の声も届かず、「トレミス」は翼から粉砕機の中に引きずり込まれていく

 

ギャリギャリギャリギャリギャリ!!

 

当然それだけでは済まない。翼の次は腕、腕の次は胴体、胴体の次は頭…次々と不快な音を鳴らしながら解体され、無感情な瞳の人形の中に飲み込まれていく

 

「あ、ああ……ああぁぁ…!!」

 

その凄惨極まる光景はプレイヤーの北斗どころか、観戦していたLDSや他塾のデュエリスト、ファン、観客も青ざめながら閉口し、子供達はギャン泣き。このデュエルをモニターで見ていた日美香は口に手を当てて動揺に後退り、無表情を貫く零児すらも頬に汗が伝うのを止められなかった

 

「更に!この効果でエクシーズモンスターを破壊したならば、お前はその元々の攻撃力分のダメージを受けることになる!」

「なんだと!?」

「俺のファンサービスだ、受け取れぇ!!」

 

IVの宣言と同時に破砕機の奥から巨大な砲塔が顔を覗かせ、その照準を北斗に向け…発射する

 

「うわあああああっ!!」

 

志島北斗 LP3200→500

 

「うう…そんな…!エクシーズ首席の、このボクが…!」

(しかし、ギリギリだがボクのライフはまだ残っている…!次のターンに「プレアデス」であのモンスターを消してしまえばボクの…!)

「素晴らしい…美しいよぉ…その苦しみに歪んだ顔。それでこそ、俺もサービスのしがいがあるってもんだぜ」

 

薄ら笑いを浮かべながら悦に浸るIVの様子に恐怖を感じる北斗

 

「フフフハハハハ!本気のファンサービスはこれからだ!」

 

しかし、北斗は気づいてない。恐怖はまだ続いているのだと

 

「「ジャイアントキラー」の効果は、1ターンに2回まで使うことができるんだよォ!」

「なにィ!?」

「さあ、今度は「プレアデス」を粉砕しろ!」

 

ORUが弾けると、糸が星の戦士の全身に引っ付き、「トレミス」と同じように引きずり込む

 

「ク、クソォ!」

 

それだけは阻止すべく、あるアクションマジックの場所まで走り出すが、あと一歩の所でIVが立ち塞がる

 

「アクションマジックを取りに行く気か?」

「うわぁぁぁぁっ!!どけぇ!!」

 

己の象徴を破壊される恐怖が、エクシーズコース首席としてのプライドが、色々なものをかなぐり捨てさせて北斗の体を突き動かした

 

「おっと」

 

そんな必死な北斗をIVは危なげなく躱す。勢い余って地面に転ぶ北斗だが、痛みに耐えながら立ち上がり、目当てのカードに手を伸ばして……それを掴み取った

 

「や、やった!!アクションマジック「透過」だ!これで「プレアデス」は効果で破壊されなくなる!」

「上手い!」

「破壊が成立しなければ、効果ダメージを与えることも出来ない!」

 

か細い糸を紡いで、希望を掴み取ったその姿に、誰もが北斗の逆転勝利を確信した

 

 

「俺がさっき拾ったカードをもう忘れたのか?」

 

 

だが……その糸は、IVが絶望を演出する為にわざと垂らしていた、蜘蛛の糸に過ぎなかった

 

「なに、を…? ……っ!?」

 

言ってる意味が分からなかった北斗だったが、IVが掲げていた1枚の()()()()()()()()()を見た瞬間…希望に満ちた顔を絶望の表情に塗り替えられた

 

「俺はアクションマジック「コスモ・アロー」を発動した。これでお前が手札に加えた「透過」は、発動するまでもなく破壊される」

 

IVの握ったアクションマジックから光が飛び出し、その光は北斗が掲げていた「透過(希望)」を粉々に粉砕した

 

IVは記憶していた。アクションフィールドに配置されたアクションカードの場所も、その効果も

 

「お前は運命の糸に操られたデク人形…」

 

「コスモ・アロー」を拾った瞬間…否

 

デュエルが始まる前から、IVはこの流れを完全に見通していた

 

「俺の支配からは逃れられん」

 

ギャリギャリギャリギャリギャリ!!

 

「プ、プレアデス……ッ」

 

当然北斗に打つ手はもはや無く、己の象徴ともいえる「プレアデス」が為す術なく蹂躙されていく様を絶望した顔で眺めていることしか出来なかった

 

「破壊したモンスターの攻撃力、2500ポイントのダメージを受けな!」

 

そして発射された砲撃が、微かなライフすらも容赦なく北斗の体ごと吹き飛ばしていった

 

「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

志島北斗 LP500→0

 

 

「ウソでしょ…」

「北斗が負けた…?」

 

天下のLDS生でエクシーズ首席の志島北斗と、無敗だが全く無名の塾生のIV。北斗の勝利で終わると思われたデュエルは、衝撃の展開と結末を迎えた

 

そうして静寂が支配するデュエルコート…そこにIVの宣言が響く

 

 

「まだだ、俺のファンサービスは終わらないぜ!…「ジャイアントキラー」!!」

 

 

「なっ、待てよ!?」

「もう勝負はついたでしょ!!」

 

 

「お前らには彼がファンサービスを喜んでるのが分からないのか?行け!「ジャイアントキラー」!!」

 

 

その言葉と共に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()「ジャイアントキラー」はその巨体に見合った鞭を取り出し、北斗に向けて振り切った

 

 

「『ファイナルダンス』!!」

 

 

「うあぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

ゴーン… ゴーン…

 

 

「地獄人形の館」から鐘の音が鳴り響く

 

そして館の周辺に点在していた墓場に新たな墓が、志島北斗の墓が建てられた

 

「北斗っ!北斗ー!!」

「っ…?」

 

その近くで倒れ伏す北斗に駆け寄る刃。遅れて着いてきた真澄は、周辺にある大量の墓…その中の北斗の墓を見つけ、察する

 

「しっかりしろ北斗!北斗!」

「まさかこの墓、今までIVが倒してきたデュエリストの…?」

「なんつー事を…!!」

 

刃は立ち上がると目の前にいるIVに向かって叫ぶ

 

「テメェ、なんでここまでしやがった!」

「スターはファンに全てを捧げるものさ。その全てをな…」

「なんだと…!勝手なことを言いやがって、許さねぇ!IV、俺と戦え!!」

「君も俺のファンになったのかな?」

 

一触即発の雰囲気、新しいデュエルが始まろうとする…

 

「待て」

 

その時だった。デュエルコートに、新たな影が現れた

 

「ほう…まさかそっちから直々に来るとはな」

「あ、アンタは…!」

「赤馬零児!?」

「IV、君に話がある。我々に着いてきてもらおうか」

 

予想外の人物の登場に周囲はざわめくが、IVは冷静を装いつつ、薄ら笑いを浮かべる

 

彼の世界に対するファンサービスは、まだ始まったばかりだ




IV(転生者)
IVのロールプレイを全力で楽しんでるエンジョイ勢一般決闘者。何故かIVの体とデッキを持って舞網市に降り立ったが、深く考えずにIVを演じて過ごしている。空腹で独り彷徨っていた所を助けてくれたデメットとコロンに対してだけは恩義から頭が上がらず素の態度で接しており、2人が関われば化けの皮も剥がれる。なお、1度だけ悪ノリでコロンにファンサービスして泣かせた前科がある模様

志島北斗
人形デュエル塾を潰そうとしたIVのLDSへの怒りでたっぷりファンサービスされた犠牲者その1。おあつらえ向きにエクシーズ使ってたのが悪い

刀堂刃
北斗の後にファンサービスされた犠牲者その2。ハンデス使ってればまだ良い勝負したかもしれない

光津真澄
刃の後にファンサービスされた犠牲者その3。最初からバーンで攻めまくったが3倍返しされ、たっぷり泣かされた
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