ファンサービスは僕のモットーですから   作:ジャギィ

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遊戯王ARC-Vの配信が始まりましたねぇ。今見返しても、やっぱ北斗君の戦法ガチガチ過ぎて草しか生えんw


第11話

零児とのデュエルに負けてから3日後…遊矢は家の近くにある鉄橋の端に座り込みながら夕焼けを眺めていた

 

「………」

 

この1ヶ月、あまりにも多くの出来事があった

 

消えた父の代役として行ったチャンピオン戦でいきなり目覚めたペンデュラム召喚、LDSとの対決、初めて自分以外のペンデュラム使いと戦った赤馬零児との対峙、心が折れつつも奮起しエンタメデュエリストとして再スタートを果たしたIVとの出会いとデュエル、エンタメデュエリストとして成長と挫折、変貌した友達(素良)と自分と同じ顔をした2人の少年

 

そして…この世界の真実と、失踪した幼馴染の柚子

 

激動の1ヶ月と、その果てに突きつけられた選択が、遊矢の心に重くのしかかっていた

 

「柚子…」

 

いつも一緒にいた女の子が隣にいない。それだけでこうも心苦しく、胸にポッカリ穴が空いた気持ちになるのはどうしてなのだろうか?それほど彼女の存在が、自分にとって大きかったという事だろうか?

 

柚子を助けに行きたい。しかしそれは、アカデミアというデュエルを戦争の道具にしている組織と戦うことを意味していた

 

幼馴染(柚子)の事、友達(素良)の事、そして友である赤馬零王を止める為に3年前に次元を越えて失踪した父親(遊勝)の事…

 

次元を越える理由がいくつもあったが、それでも“デュエルで戦争をしに行く”という事実、そして、母の洋子を置いていく事が、遊矢の最後の迷いになっていた

 

「俺…どうすればいいんだろう…」

 

 

「見つけたぜ、遊矢」

 

 

「え…?」

 

声を掛けられて振り返ると、そこにはここ最近で見知った男が立っていた

 

「IV!?」

 

そこにいたのはIVだった。その顔には右目付近を覆い尽くす程の包帯が巻かれており、見てるだけで痛々しい姿だった

 

「その包帯…」

「ああ…ちょっとした名誉の負傷って奴だ」

「それって…」

(黒咲が言ってた、IVの塾が燃やされたって話か…?)

 

飄々としている風に見えるが、その表情から微かな憂いを感じ取れた遊矢は、何も言わずに口を噤んだ

 

そうやって2人で静かに夕日を見つめていると、IVが遊矢に問い掛ける

 

「遊矢、お前はどうすんだ?」

「っ……何を?」

「アカデミアと戦うのかどうかだ」

 

そのストレートな物言いに一瞬言葉に詰まるが、やがて堰を切ったように言葉を吐き出し始めた

 

「そんなの、嫌に決まってるだろ………戦争だぞ?しかもデュエルで戦争をするなんて…俺にとってデュエルは、最高に楽しいエンターテインメントなんだ…デュエルを争いの道具になんかしたくない…」

「………」

「でも、柚子を助けに行きたい気持ちは本当なんだ!!素良も止めたい!父さんも探して、なんで何も言わずにいなくなったのか聞かなきゃいけない!行かなきゃいけない理由はたくさんある…!でも、最後の一歩を踏み出す勇気が、どうしても出ない…っ!」

 

絞り出したその声には万感の思いが籠っていた

 

おそらく、IVが遊矢の価値観を壊していなければこうはならなかっただろう。子供特有の万能感、使命感、そして幼馴染を救うという願いに引っ張られた、子供らしい決断を原作通り下したはずだ

 

しかし、この世界の遊矢は早く成長し、ある意味で少し大人になってしまった。だから自分の決断に迷いが生じ、持ち前の純粋さ、真面目さからそれを誰かに相談も出来なかった。洋子でさえ、彼女から無理やり聞き出さなければ遊矢は何も言わずにいただろう

 

そうやって迷いに震える遊矢を見て、IVはある話を口にする

 

「遊矢、前に俺が話したことを覚えているか?」

「え…?」

「お前の父親、榊遊勝についてだ」

 

もちろん、遊矢は覚えていた。父のエンタメデュエルを面と向かって批判した人間など、IV以外いなかったのだから

 

「そっちじゃねえ。…榊遊勝の功績についてだ」

「父さんの功績?」

「何か分かるか?」

「えっと………エンタメデュエルを生み出したこと…?」

 

榊遊勝と言えばエンタメデュエルの開祖。故にそう答えると、IVは少し違うと首を振る

 

「当たらずとも遠からずだな」

「そ、そうなのか?」

 

てっきり全然違うと言われると思っていたばかりに身構えていた遊矢は予想外な顔をする

 

「…榊遊勝の3年前の失踪に関しては、俺は一切擁護する気はねえ」

「でも、父さんだって何か事情が…」

「妻子に一言も告げずにか?」

 

ウッ、と遊矢は言葉に詰まる。その事に関しては、遊矢も遊勝が消えた当時は何度も思っていたことだった

 

どうして居なくなったんだ。俺や母さんに何も言わないで。本当に逃げた訳じゃないのか。そう思い、口にした事は幾度もあった

 

「仮に誰にも伝えられない事情があったとしても、だ…奴がした事は、ファンをがっかりさせるっつう、スターとして落第以下の行動だ。特に……1番のファン(息子)をほっぽって行くなんざ、笑い話にもならねえぜ」

「IV…」

「そこまでしておきながら、尚も消えない榊遊勝の功績…それはな、スタンダード次元におけるリアルソリッドビジョンに()()()を植え付けたことだ」

「せ、先入観…?ど、どういう意味だよ?」

 

その抽象的な言い回しに理解が追いつかない遊矢に対し、IVはゆっくりと説明する

 

「例えばだ、包丁がここにあったとする。その包丁で人を刺したりするのはどう思う?」

「どうって、ダメに決まってるだろ!」

「何故?」

「だって、包丁は料理をする為に使う物だから…」

 

料理好きな母を思い浮かべながら遊矢は断言する

 

「ならば車は?こいつで人を撥ねたりするのがダメな理由は?」

「だから、そんなの本来の使い方じゃないからで…!IVはさっきから何が言いたいんだよ!」

()()()

 

その言葉を待っていた、と言わんばかりにIVは指摘する

 

「そう、包丁も車も、()()そういった使い方をする為に作られた物じゃない。だから誤った使い方をすれば誰もが非難する。ここまでは分かるな?」

「あ、ああ…」

「だがな、刃物も乗り物も、使い方次第で多くの人間を殺傷出来る。剣や槍、戦車や戦闘機なんかはまさにそうだ。人を殺す事に特化した道具…そういう用途で開発された物も存在する」

 

そして、一呼吸間を置いてから…その恐ろしい事実を口にする

 

「それと同じ事が……リアルソリッドビジョンでも可能だとは思わねえか?」

「なっ…!?」

「力があり巨大なモンスター、素早く空を飛べるモンスター、それらが何の前準備も必要とせずいきなり出てくる。しかもその気になれば幾らだって呼び出す事が出来る。弾薬だって消費しねえから人とリアルソリッドビジョンさえあれば無尽蔵に湧いてくる……自分が使えばこれほど頼もしく、敵が使えばこれほど恐ろしい兵器はねえだろう?」

 

淡々と羅列される事実は恐怖を助長させ、そんな恐ろしいリアルソリッドビジョンの使用方法に恐怖した遊矢は全否定した

 

「ダ……ダメだろうっ。そんなのはダメだろ!!」

「何故だ?」

「だって、リアルソリッドビジョンはそんな使い方じゃ、な…い………」

 

咄嗟に否定の言葉を口にした遊矢は、しかし言葉を紡いでる途中で何かに気付いたようにセリフは途切れ途切れになり……

 

「ッ……!? ッッ……!?!?」

 

全身の肌が粟立ち、これまでにない悪寒を感じ取った

 

「……気づいたか……」

 

そんな遊矢の変化を察したIVは、答えを言う

 

「リアルソリッドビジョンの軍事利用…お前はそれをこの目で見ているはずだ」

「…アカデミア…!」

「そうだ。奴らはリアルソリッドビジョンを兵器にする事に何ら違和感を覚えていない。何故ならばアカデミアにとって、リアルソリッドビジョンを兵器として扱う事こそ“常識”だからだ」

 

遊矢はあまりの認識の齟齬に吐き気すら催していた

 

人を傷つけることが普通の世界が存在するなど、理解不能過ぎて脳が情報を拒んでいるほどだ

 

「分かるか?お前の親父が何を成したか」

 

「リアルソリッドビジョンに“アクションデュエル”という先入観を植え付け、“エンタメデュエル”を開拓して人々を熱狂の渦に巻き込んだ…」

 

「そうやって、スタンダード次元の“デュエルモンスターズ”を、あの男は、榊遊勝は守ったんだ」

 

「これがどれほど大きく偉大な事か…分かるか?」

 

今度は、父親の偉業に目眩がした

 

まだ子供の遊矢にはただ、遊勝は世界一有名なエンタメデュエリスト…その程度の認識しかなかった。それが蓋を開けてみれば、デュエルモンスターズそのものをずっと守り続けていたなど、どうして想像出来ようか?

 

「実際、榊遊勝がそこまで考えて行動したのかは俺も分からない。単なるエンタメバカが、結果的に世界を守っただけかもしれねえ。だが…これだけは断言出来る」

 

IVは遊矢の目を見ながら本当の気持ちを語る

 

「スターとしても父親としても失格な奴だが、このスタンダード次元で俺のやりたいデュエルが出来るのは、間違いなく榊遊勝のおかげだ」

 

 

「俺は榊遊勝を尊敬し……そして深く感謝している」

 

 

そして言葉を聞いた遊矢は…静かに涙を流した

 

遊勝が失踪してから、多くの人間が掌を返して彼とその家族を罵った

 

学校の友達も、近所の知り合いも、かつての塾生や講師達も、口を揃えて「臆病者」と「臆病者の息子」と嘲笑った。苦しくて辛かった。逃げて現実逃避し続けた

 

だから、悪い面も飲み込んだ上で、遊勝を認めてくれた事が遊矢には本当に嬉しかった。父が積み重ねてきたものが無駄ではないのだと言われたようだった

 

「俺達はエンターテイナーだ」

 

ボロボロ零れる涙を拭って笑おうとしたが、上手く出来ない。それを見たIVが唐突にそう言う

 

「観客を楽しませる為に笑顔の仮面を貼り付けなきゃならねえ。でもな…本当に泣きたい時、許せない時、辛い時まで無理やり笑ってたら、いつか本当の笑顔も忘れてしまう」

 

「だから、泣いていいんだ」

 

遊矢は泣いた。今までの悲しみと苦しみを吐き出すように、声を出して泣きじゃくった

 

IVは慰めもせず、励ましもせず、ただ静かに見守っていた

 

数分後、遊矢は涙を拭って顔を上げた。目元が赤く腫れ上がっていたが、その瞳には強い意志と覚悟があった。それを見たIVは満足げに口角を上げて笑うと、背を向けて去っていった

 

 

そして、遊矢がこちらを視認出来なくなったところで、デュエルディスクに触れつつIVは聞いた

 

「あれで良かったんですね?()()()()

「…ええ、ありがとう、IV君」

 

そこには遊矢の母親、榊洋子がいた

 

IVは遊矢が次元戦争に行かない事を危惧し、面倒だがメンタルケアの為に遊矢の家に訪れた。その時に出会ったのが洋子であり、相手がIVだと分かるとサインをお願い(当然IVは快く承諾)し、そして遊矢に用があると知ると彼女は言った

 

『アタシの代わりに遊矢の悩みを解決してほしい』

 

「しかし、二つ返事で了承したとはいえ、何故赤の他人の僕にこのような事を頼んだのですか?こういう時は、むしろ母親である貴女の出番だと思うのですが」

「…あの子は、辛い事や泣きたい事があると、無理やり笑顔で取り繕おうとするわ。遊勝さんの影響もあるけど、あの人が居なくなった時、遊矢をちゃんと見てやれなかったアタシの責任なの。年頃の男の子だからって、母親に何も言わずに部屋で泣いているなんて異常よ…でも、アタシはあの子の笑った顔を見る度に、本当は大丈夫なんじゃないかと思った、いや、思い込もうとした…」

 

それに、と洋子は続ける

 

「私は遊矢を大事に育ててきたと思っていたけどね…悩んでるあの子を見て昔を思い返してみると、遊矢を産んだ時の事を、まるで思い出せないの。それどころか産まれる前の事も、産まれた後の事も覚えていない…あの子の1番大切な思い出もロクに覚えていないアタシが、今更どの面下げて、あの子の母親を名乗れるっていうの…!!」

 

それは血を吐くような慚悔だった。しかしIVはそれを聞いて洋子を軽蔑するどころか、あまりにネガティブなその様子にむしろ納得すらした

 

榊遊矢は、かつて4つの次元が1つだった時に人々の過ちで誕生した“覇王龍ズァーク”の生まれ変わりだ。正確には世界の破壊を求めるズァークを封印する際に次元ごと4つに引き裂かれ、覇王龍の主な…魂の核とも言える部分を引き継いで産まれたのが遊矢なのだ

 

この経緯から、覇王龍の生まれ変わり達に誕生の瞬間や過程はなく、気がつけばズァークの転生体達は産まれていて、家族も記憶を改竄された状態になっていた

 

アニメで遊勝がこの事実に気づいた時は、赤馬零王から遊矢達の正体を暴露されていた事もあって遊矢の存在に疑念を抱いていた。しかし洋子はズァークの真実など知らずこの事実に気づいてしまった

 

「もう、アタシに出来ることなんて、あの子の邪魔をしないで、あの子のやりたい事をやらせてあげるくらいしかないんだよ…」

 

結果、息子が産まれた時の事もロクに覚えていない最低な母親という図式が彼女の中で出来上がり、強い自己否定に繋がってしまったのだった

 

そんな懺悔を聞かされたIVは、赤の他人に聞かせることじゃねえだろと内心突っ込みつつ、ある意味で被害者の彼女を憐れみながら、振り向いた

 

「らしいぜ?()()

「……え?」

 

顔を覆った両手をどけて見てみれば、そこには困惑した顔で洋子を見つめる遊矢の姿があった

 

遊矢の持つデュエルディスクはIVのデュエルディスクと通話状態になっていた。つまり、IVに聞かせていた洋子の弱音は、全て遊矢に筒抜けだったということだ

 

ちなみにこの状況を作り出したIVはというと、いつの間にか、既にその場から消え去っていた

 

「母さん…」

「遊矢…どうして…?」

「ごめん、母さん…母さんがそんな風に悩んでいたなんて、俺全然気づかなかった…」

「ち、違うわ!遊矢は何も悪くないでしょ!アタシが、遊矢の事を放っておいたせいで…!」

 

また遊矢に辛い思いをさせると、そう感じた洋子が言葉を紡ごうとしたのを遊矢が遮って止める

 

「母さん…確かに父さんが居なくなってから、嫌な事や辛い事がたくさんあったよ…でも、親の資格がないなんて言わないでくれよ!」

「遊矢…」

「俺は、父さんと母さんの子供で良かったと思っているんだから」

「遊矢…!」

 

感極まった洋子は遊矢を力強く抱き締めた。涙を流しながら腕の中にいる息子に向かって、感謝と謝罪の言葉を言い続けた

 

「ありがとう、遊矢…!ごめんね、遊矢…!」

「うん…大丈夫だよ、母さん…」

 

沈みゆくオレンジ色の光に照らされながら、遊矢はただただ母の抱擁と涙を受け入れ続けるのだった…




色々書き足してたら長くなっちゃった…
次の話は多分短めになりますので、それが書き終わったらシンクロ次元編に突入しようと考えてます
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