ファンサービスは僕のモットーですから   作:ジャギィ

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お待たせしました

色々大事な話とかネタとか詰め込みすぎてこんなにも更新に時間がかかってしまいました。youtubeの遊戯王配信でもシンクロ次元編始まっちゃったよ


第12話

朝、レオ・コーポレーション敷地内に選び抜かれたデュエリスト達が集まっていた。権現坂昇、沢渡シンゴ、デニス・マックフィールド、黒咲隼…対アカデミア精鋭部隊“ランサーズ”の面々だ

 

そこに幼い弟である“赤馬零羅(れいら)”とアカデミアの刺客であった少女“セレナ”を連れて、赤馬零児がやってくる

 

「揃っているか」

「Mr.赤馬、その子が例の?」

「そうだ、彼女がセレナだ。自らが属するアカデミアの所業に気づき、こちら側についてきてくれた」

「セレナだ」

「本当に、柚子そっくりではないか…」

 

IVとのデュエルで受けた傷は既に癒えており、勝気に目を吊り上げながらセレナは言った

 

そして、そんな彼女の背後にいる()()()()に視線が集中し…黒咲が忌々しげに言った

 

「……赤馬、何度も言うが俺は反対だ…」

「君の気持ちは理解出来る。が、『彼』をスタンダードに置いていく事は出来ない。例え様々な手段で封じ込めれたとしても、スタンダードに残った彼を探知され、彼が護衛していたセレナを奪還しに戦力を送られれば、それだけでこの街は壊滅する恐れがある。IVとの契約もある以上、これ以上被害を増やす訳にはいかない」

「だとしても!その男を連れて行く理由にはならんっ!」

 

怒りの声を上げながら黒咲はその男を…バレットを猛禽の如く鋭い目つきで睨み続ける。バレットの首には、何かしらの装置が内蔵されたチョーカーのような物が巻き付いていた

 

 

IVの返り討ちに遭った後、バレットはセレナを抱えて舞網市内をアテもなく彷徨っていた。セレナは酷く衰弱していく上に、まるで氷河期のような景色は精神的な疲労を大きく蓄積させ、バレットは死すら覚悟していた

 

そんな時に出会ったのが、バトルロイヤルに参加中の柊柚子だった

 

バレットはスタンダードの住人に目撃されたことに焦るが、アカデミア兵やオベリスク・フォースと違い、戦士としての強い矜恃があったバレットは戦いとは無関係の人間、ましてや女子供を問答無用でカード化する事を酷く嫌っていた

 

故にどうすべきか考える最中、なんと柚子は大会をほっぽり出してでもセレナとバレットを介抱し、レオ・コーポレーションに通報した。素性も怪我の理由も言えないにも拘わらず、セレナを助けてくれた柚子に、バレットは深く感謝した

 

介抱の際初めて柚子の顔を確認した時は、あまりにセレナと酷似した顔つきにバレットはとても驚いた。柚子もセレナの顔を初めて見た時は、非常に困惑している様子であった

 

しかし、連絡を終えた直後、ある者が大会の参加者達をカードに変えつつ柚子を襲撃した。その襲撃者こそ、融合次元におけるズァークの転生体“ユーリ”であった。自分の楽しみを第一優先で動くユーリは、負傷したセレナとバレットを放置して柊柚子を追跡。“鬼ごっこ”と称して彼女を追い掛け、去っていった

 

その後、バレット達にレオ・コーポレーションの人間が接触。セレナの治療を条件に、バレットは投降した

 

治療後、意識を取り戻したセレナは零児によってアカデミアの真実を知った。最初は否定していた彼女も、言い訳もせず黙りこくるバレットの姿に零児の話が事実だと察し、その事に憤ったセレナは融合次元と訣別。そのまま勢いでランサーズに参加したのであった……

 

 

「あの瑠璃に似た少女はまだ良い。赤馬零王達に歪んだ知識と認識を植え付けられていたのだからな……だがッ!」

 

バレットを指差しながら黒咲は叫ぶ

 

「この男は違う!アカデミアの実情を知っていて尚、赤馬零王に与していた!エクシーズ次元を滅ぼした、俺達の完全な敵でしかない!!」

「否定はしない…確かに私は、部下と左目を失う以前はアカデミアの兵士としてエクシーズ次元で戦っていた。しかし、私が求めているものは狩りではなく闘争であり、獲物ではなく戦士だ。一流のデュエル戦士との戦いこそが、手に入れる勲章をより誉れ高き存在へと高めるのだ!」

「黙れっ!!何が戦士だ!貴様の言う戦士達は、誰1人として命懸けのデュエルなど望んではいなかった!友の為…恋人の為…家族の為…皆恐怖を押し殺して戦ってきた!貴様を飾り立てるガラクタの為に強くなった訳では断じてない!!」

「ガラクタだと…!!」

「反応を見つけられるのが面倒だと言うならば、こいつをカードに変えて反応を消滅させてしまえばいい!そうすれば奴らは自然とセレナを連れた俺達(ランサーズ)を狙ってくる!」

 

デュエルディスクを構える黒咲によって、一触即発の雰囲気が漂う。触れるだけで破裂しそうなピリピリとした空気を、零児が制する

 

「それはダメだ」

「何故!」

「これからの目的を考えれば、我々はアカデミアと同じ手段を取るわけにはいかない。カード化の力を交渉のカードとしてチラつかせれば、それを向こうが脅威に感じて同盟が失敗する可能性がある。隠す場合もバレた時のリスクが大き過ぎる。君には説明をしたはずだが」

「ぐっ…!」

「同盟ぃ?何の話だよ?」

 

自分を置いてきぼりにする話が気に食わない沢渡が2人の話に介入する

 

「無論説明する。ただし……『彼』の意思を聞いてからだ」

「…あ!」

 

ザッ…ザッ…

 

そう言いながら零児が視線を向ける先を見て、権現坂も遅れて気づく。自分達の方へゆっくり歩いてくる幼馴染の姿に

 

「遊矢!!」

 

権現坂は4日前の遊矢の様子を思い出し、心配そうな表情で語り掛ける

 

「遊矢、ここに来た以上、覚悟を決めてきたのだろう。…しかし、本当に大丈夫なのか?これから俺達がやろうとしている事は」

「権現坂」

 

遊矢は、ただ権現坂の名を呼んだ。そして彼に向かって、不敵な笑みを浮かべていった

 

 

「大丈夫だ」

 

 

それだけ言って遊矢は零児の元に歩き続ける

 

(あの眼は……『漢』の眼だ……)

 

権現坂は言葉を発する事も出来なかった。決して威圧的ではないのに、その大き過ぎる雰囲気と強い眼に、完全に飲み込まれていた

 

(こ、こいつ、本当にあの遊矢かよ…!?)

(初めて会った時とまるで違う…)

(アカデミアと戦う事を決めた時の俺達(レジスタンス)のような、強い覚悟と決意を感じる…!)

(あいつが柚子の言ってた…)

(戦場でもこれ程の者とは滅多に出会せない…!)

 

他の者達も、遊矢の大きな変化に、或いは初めて見る遊矢の様子に、それそれが驚愕し感嘆した

 

零児の前に辿り着いた遊矢。真剣な表情そのものなのに、一切圧を感じない。しかし確かに感じ取れるその大きな存在感に、零児はある人物を思い出した

 

(…榊遊勝…?)

「──俺は、父さんの事をまるで分かっていなかった」

 

唐突に放たれたそのセリフに、権現坂が疑問符を浮かべる

 

「遊矢?」

「父さんは、エンタメデュエリストとして人々を笑顔にすると同時に、スタンダード次元のデュエルモンスターズと人々の笑顔をずっと守ってきた。父さんの息子なのに、俺はそんな大切なことを気づきもしなかったんだ…」

「…誰から聞いた?」

「IVが教えてくれた」

「彼が…」

 

確かに、スタンダードの住人ではない彼ならば気づくだろうと零児は思った

 

人は、自分が生きてる世界の常識を疑う事はまずしない。それが当たり前の事だと深層心理の奥深くまで思い込んで、それ以外の発想がまず浮かばないからだ。零児とて、父親から知らされた4つの次元の真実と侵略戦争の話を聞かされていなければ、頭の片隅に思い浮かぶ事すらなかっただろう

 

榊遊勝は一流のデュエリストであり、そしてマジシャンでもある。故に気付けたのかもしれない

 

人々を楽しませる手品にもひとつ間違えれば死の危険が孕んでいる事があるように。デュエルモンスターズにも危うい側面があるように。デュエルの延長線上にあるリアルソリッドビジョンが悪用され、そしてその扱い方が当然のものであると世界が先に認知してしまえば……その先に待っているのは悪夢の世界でしかない

 

かつてスタンダード次元を去る間際、榊遊勝は零児に言った

 

 

『例えどれだけ綺麗事を言っても、デュエルは勝負事だ。勝敗を決めなければいけない。…だからこそ、デュエルを楽しむ気持ちは誰もが忘れてはいけないんだ』

 

『楽しむ心を忘れたデュエルは、相手を否定し合うだけの悲しい争いでしかない。ましてやデュエルを戦争に利用するなど……そんなものは、デュエルモンスターズに対する最低最悪の冒涜だ』

 

『…何も言わずに去ることを、母さんや遊矢は怒るだろうな。もしかしたら嫌われるかもしれない。それでも2人を…いや、このスタンダード次元の全ての人間を、こんな悍ましい事に巻き込む訳にはいかない』

 

『なぁに、ちょっと親友を説得しに行くだけさ。すぐに戻る』

 

『零児君、零王が済まなかった…そして、私に零王を止めに行く機会をくれて、ありがとう』

 

 

地位も、名誉も、家族すらもかなぐり捨てて、父の愚かな企みを止める為に独り世界を越えて去っていった

 

その真実を知っているからこそ、世間がどう言おうと零児は遊勝に罪悪感を抱きつつ、強くリスペクトしているのだ

 

「俺、嬉しかった。父さんは臆病者なんかじゃなかった。皆に何も言わず消えたのは悲しかったし怒ったけど…父さんは、俺が考えていたよりずっと誇れる父親だったんだ」

「遊矢…」

「だから、俺、戦うよ。素良を説得して、父さんと柚子を連れて帰って、父さんが守り続けたこの世界のデュエルを守る為に……俺はアカデミアと戦う!だから、俺をランサーズに入れて欲しい!皆の力を、俺に貸してくれ!!」

 

遊矢のその決意を聞いた零児が、返事をせずに長い時間思案する中…権現坂が嬉し涙を滂沱の如く流しながら遊矢に抱き着いた

 

「うおお〜〜〜!!遊矢ぁ〜〜〜!!」

「うわああっ!?権現坂ぁ!?」

「俺は今、モーレツに感動しているぅ!!あの引っ込み思案だった遊矢が、自ら立ち上がって漢の決断を下したのだ!!これが感動せずにいられるか〜!!」

「分かった!分かったから離れっうわっ鼻水が!?」

「うお〜〜〜んっ!!」

 

5分後…

 

「す、すまんかった遊矢…俺としたことが、冷静さを欠いてしまった…」

「い、いいよ権現坂。それくらい喜んでくれたって事なんだろ?」

「おい、遊矢!」

 

そんなやり取りの中、沢渡がご立腹といった様子で遊矢に近づき、大声で怒鳴った

 

「いきなりしゃしゃり出てきておきながら何が「力を貸してくれ」だぁ!?だぁれがテメェに力なんざ貸すか!」

「ええっ!?」

 

そこは力を貸してくれる所じゃないのか!?と遊矢は一瞬考えるが、沢渡の続けた言葉でその考えは霧散する

 

「俺がテメェに力を貸すんじゃねえ、テメェが俺様に力を貸すんだよぉ!勘違いすんなよな!」

「………ハハ…」

「アァん!?何笑ってやがる!」

「なんでもない。頼りにしてるよ、沢渡」

「…ケッ!」

 

自分より目立った遊矢が気に食わないで強く当たった沢渡だったが、その真意に気付いた遊矢は笑顔で沢渡を歓迎した

 

「ハァイ遊矢。ちょっと見ない間に大人になったみたいだね」

「デニス」

「…こうして顔を合わせるのは初めてか、榊遊矢」

「アンタは…1回戦で素良と戦った…」

「黒咲隼だ。…お前に聞きたい事がある。自分と同じ顔をした、ユートという名の男に心当たりはないか?大会が始まった翌日から定期連絡が途絶えているんだ」

「ユート…」

 

その存在に遊矢は心当たりがあった。「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン」を使う、他次元やアカデミアの存在を教えてくれた少年。素良が黒咲に敗れた日の夜、消えた素良を探していた遊矢は、ユートに辻デュエルをしている素良を見つけ、そのデュエルの決着が付かぬまま素良は粒子となって消えてしまい、そして遊矢は初めてユートと邂逅し、彼と話をした

 

そのユートは、突如現れた3人目の遊矢と同じ顔をしたバイク乗りのシンクロ使いとデュエルし、そして敗北し、遊矢の目の前で……

 

「……ゴメン。俺も、ユートがどこに行ったのかは分からないんだ…」

「…そうか…」

 

そう小さく呟くだけでそれ以上追求してこなかった黒咲の様子に、デュエルでの過激な印象が強かった遊矢は拍子抜けした

 

そして遊矢は、初めて出会うセレナの顔を見て、目を丸くした

 

「そして…君が…」

「セレナだ」

「あ、ああ……俺は榊遊矢。よろしく、セレナ」

 

ぎこちなく手を差し出す遊矢。それを見たセレナは疑問符を浮かべる

 

「…? 何だこの手は」

「え?何って、握手しようかと…」

「フン!柚子はお人好しだったが、私はお前達と馴れ馴れしくするつもりはないぞ!」

「ええっ!?」

 

顔は幼馴染と似ているが、あの世話焼きな彼女と違い、セレナはどうやら人と関わるのが好きではないらしい。しかし見目は勝気な少女である為、遊矢はそんなセレナの様子を見て内心

 

(なんか、人によく吠える仔犬みたいだな。母さんがよく拾ってくる、ウチにいる犬達みたいな)

 

と、結構的確な評価を下していた

 

するとそんなセレナに対し、苦言を呈す声が上がる

 

「おやおや、いけませんねぇ。これから仲間になるというのならば、チームワークは大切ですよ?」

「うるさい!他人にとやかく言われる筋合いはない!誰だか知らんが私に──」

 

そう言いながら目を更に吊り上げて振り返ると…

 

「やあ、この間ぶり。……誰だとは随分なご挨拶じゃねえか、エエ?」

 

邪悪な微笑みを浮かべたIVがそこにいた

 

それを見た瞬間、4日前のデュエルがセレナの脳内を埋め尽くした。端的に言って当時の恐怖がぶり返した

 

「ひぃ!?」

 

一瞬で声音と表情が戦士のものから怯える可愛らしい女の子のものに変化し、これまた一瞬で遊矢の背後に回り込んで彼を盾にした

 

「あっ、IV……って、セレナ!?え?何?何?」

「おおおお、お前、どうしてここにいる!?」

「アカデミア所属のお前やそいつ(バレット)よりは、ここにいておかしくはないと思うがなぁ?」

(全く…本当に、なんでバレットの奴までランサーズに同行する事になってやがんだ?………俺がこいつらをブチのめしたからか)

 

怯えるセレナを見ながらIVは自己完結した

 

「お前はランサーズに参加しないのだろう!?零児がそう言っていたぞ!」

「え…!?」

 

セレナが突如明かした事実に衝撃を受ける遊矢。口が軽いなこのポンコツは、とでも言いたげな顔をするIVに、遊矢は繰り返すように聞いた

 

「今言ったこと、本当なのか!?ランサーズに参加しないって…」

「俺が居ないと都合が悪いのか?」

「そうじゃない!ただ…」

「はっ!どうせ志島北斗みてえに、アカデミアにビビって臆病風に吹かれたんだろ?」

 

そう言ったのは沢渡シンゴだ

 

沢渡は舞網市の新参者の癖に、自分を差し置いて人気者になったIVの事が色々と気に食わないが、エンターテイナーとして、デュエリストとしては学ぶ所があると一応認めてはいた

 

そんな男がアカデミアとの戦いから逃げ出すなど、まるで自分の見る目がなかったのだと突きつけられてるようで何だかムカつき、結果挑発するようなセリフを吐いていた

 

「テメェみてえな腰抜けが付いてきたって足手まといなだけだぜ!全くいい迷惑だよなぁ!」

「ふざけるな沢渡!IVはそんな理由でアカデミアと戦わない人じゃない!訂正し──」

「おや、誰かと思えば沢渡シンゴ君じゃないですか!」

 

遊矢がIVへの侮辱を撤回させようとしたが、IVは遮るように大声でそう言った

 

「いやぁ、君と遊矢君のデュエルは拝見させてもらいましたが、実に素晴らしかったです!“妖仙ロスト・トルネード”だったかな?まさに伝説と言って差し支えないコンボでしょうね」

「フォ、IV?」

 

いきなり沢渡を絶賛してベタ褒めするIVの様子に訝しむ遊矢だったが…その鋭い三日月状に歪んだ口の端を見て、遊矢は全部を察してしまった

 

「お、おお?へ、へへ…中々見る目があるじゃねえか!」

「ええ、エンタメデュエリストの先達として、君にはエンタメデュエリストとしての大きな素質を感じました」

「そーかそーか!偉大なる俺様の才能を感じ取っちまったのか!」

「ともすれば、榊遊勝以上のエンタメデュエリストになれるでしょう!」

「ハッハッハー!その通り!俺こそ、全てのエンタメデュエリストを過去にしちまう、レジェンドエンターテイナー!沢渡──」

 

「ネタ枠としてなぁ!!」

「ンだとテメェ!?!?」

 

当然、賞賛の言葉は全て、最後のセリフの為の完全な前フリであった。タチが悪い事に、IVは沢渡への評価に一切嘘をついていなかった

 

「まったく、その道化(ピエロ)としての素質が天然だってのが末恐ろしい所だぜ。この俺でさえ、お前のようなマヌケっぷりは演技でも無理だってのに、それを素でやってのけるんだからなぁ。笑われる才能は間違いなく世界一だぜ、沢渡クン?」

「コノヤロ!一発ぶん殴らせろぉ!離しやがれ権現坂!」

「よせ沢渡!お前が人に笑われているのは今に始まった事ではないではないか!」

「フォローに見せ掛けて後ろから刺してくんじゃねえよ!?」

「フッハハハハハハ……悔しいでしょうねぇ」

「ムッキャー!!」

 

煽れば世界一のIVにより、一時の玩具として弄ばれる沢渡なのであった

 

一通り遊んでスッキリしたIVは、気を取り直して遊矢に先ほどのセリフの続きを促す

 

「で、そうじゃないなら…何だって?」

「…IV。本当はIVも、俺達と一緒に行きたいんじゃないのか?」

「…なんでそう思ったんだ?」

「今回のアカデミアの襲撃で、IVは大切な人達を傷付けられて、住む場所を奪われた。昨日言ってただろ?泣きたい時、許せない時、辛い時まで無理に笑うなって…IVもそうなんじゃないのかって思った。アカデミアの事が許せなくて、でもそれを無理に隠してるように見えたんだ」

 

IVは天を仰いでため息を吐いた。まさか子供にそこまで見透かされているとは思っていなかったからだ

 

(いや、余計な事を喋りすぎたせいか…)

「やっぱり、そうだったんだ…でも、それだったらどうして…?」

「…お前の言う通り、爺さんをカードにして、コロンを痛めつけて、塾を跡形もなく燃やしたアカデミアの連中を…それを指示した赤馬零王を俺は絶対に許さねえ」

「ッ……!」

 

それを聞いたセレナは気まずそうに顔を伏せ、バレットも目を閉じて静かに唸る。特にセレナは、今回IV達が受けた仕打ちを聞いて、見て、アカデミアへの離反の意志をより強くしていた。同郷が仕出かした人でなしな所業に罪悪感も抱いていた

 

「でもな、俺がこの街から離れたらあいつは…コロンはどうなる?あいつの身内は爺さんだけだ。その爺さんも居ない時に俺まで居なくなったら…あいつはひとりぼっちになるだろ…あいつにまで、そんな思いはさせたくねぇ…」

「IV……」

 

少女の魂の嘆きを共に聞いていた黒咲は静かに名前を呟く。その思いが強ければ強いほど、アカデミアと赤馬零王に対する怒りがかさ増しされていく

 

「これがお前らに着いていかない理由だ…幻滅したか?」

「…そんな事ないさ」

「うむ、IVにも考えがあってのものだという事は理解した。アカデミアの事は俺達に任せてくれ!」

「ああ…そうだな… いや待て遊矢、忘れてたぜ。お前に言う事があった」

「俺に?」

 

話をこれで切ろうとして、ふとIVはある懸念事項を思い出し、とても真剣な表情で口を開き…

 

「この先の戦い、例えどんな事があっても──」

 

 

「IVォ────!!!」

 

 

…その瞬間、黒い塊がIVに跳びついてきた

 

「ォゥアアーッ!!?」

「IV!?」

 

完全に油断していた事もあって、ゴロゴロと地面に転がるIVと物体X。それでも跳んできた()を傷付けないように抱き抱えられているのは、流石、IVの肉体スペックと言うべきか

 

それはともかく、一気に場の空気をユルユルにした元凶に対して、IVは怒りの声を上げた

 

「いきなり何しやがんだコロン!怪我したら危ねぇだろうが!」

「IVはこれくらいじゃ怪我しないでしょ」

「お前が怪我するっつってんだよっ!病み上がりなんだから危ねぇ事すんじゃねえよ!」

「何よ!せっかくIVの為に急いできたのに!」

「俺をダシに言い訳すんな!」

「つーん!」

「このガキッ…!」

 

跳び掛かってきた物体Xもといコロンに対し説教を始めるも、馬の耳に念仏と言わんばかりに聞く耳を持たないその様子に青筋を浮かべる

 

そんなIVの状態も気にせず、コロンは本題に入った

 

「ねえIV」

「アァ!?」

 

「行ってきていいよ」

 

息を呑んだ

 

唐突に告げられたその言葉に返す言葉も見つからないIVだったが、コロンは無視して言葉を続けた

 

「病院で寝てた時にね、聞こえてたの。私がいるからあのメガネの人と一緒に行けないって」

「メガネの人…」

「…聞いてたのか」

 

ポツリと呟く赤馬を無視してコロンの話の続きを聞く

 

「難しいお話はよく分からなかったけど、IVはあの人達に着いて行きたいんでしょ?行ってきていいんだよ」

「行けるか。そしたらお前は1人に…」

「IV、IV、コロンちゃんね、お友達が出来たの!」

「……お友達?……は?……友達…!?」

 

「友達」というワードを聞いてIVは相当混乱した

 

無理もない。お人形がお友達と公言する世間知らずで、実力も子供離れしている。オマケに1ヶ月前「No.」をデッキに投入してからはデュエルの残虐さも格段に増した。その残虐性に本人は無自覚なのが恐ろしい

 

事実、他塾との交流デュエルでは大暴れして心の底から楽しそうだったとデメットが微笑みながら言っていたほどだ。地獄絵図が繰り広げられただろう事は想像に難くなかった

 

結果、身内以外でコロンを知る者の対応は完全に腫れ物扱いであり、当然友達はおろか、知り合いすら作れない始末だった

 

そんなコロンに、友達?

 

「昨日ね、“ゆうしょう塾”の子達がコロンちゃんの部屋(病室)に遊びに来たの!」

「俺の塾…って、もしかして」

「その時にね、来た子達みんなと友達になったの!タツヤ君とー、アユちゃんとー、フトシ!」

 

「え、俺だけ呼び捨て!?」というシビレデブの嘆きを幻視したIVと遊矢。憐れ、ワガママコロンの舎弟となる未来が確定した瞬間であった。合掌

 

ともかく、そんなIVにとっては衝撃の事実をカミングアウトしたコロンは、朗らかな笑みと共に言った

 

「だからね…コロン、さみしくないよ!」

「っ……!!」

 

IVは俯いた。そして思った。そんなわけねえだろ、と

 

白い服の裾を強く握る手は小さく震えており、痩せ我慢しているのだと目に見えて分かった。当然だ。同じ赤の他人でも、出来たばかりの友人と、半年間共に過ごした大切な家族。どちらが一緒にいてほしいかなど考えるまでもない

 

それでもコロンは、嘘をついてでも兄の背中を後押しした。自分のせいで家族に窮屈な思いはしてほしくないという、思いやりから起こした行動だった

 

IVは迷った。自分がアカデミアと戦う理由は、世界の平和の為でも仲間を守る為でもなく、はっきり言って私的な報復の為だ。無論1日でも早く家族(デメット)を取り戻すという理由もあるが、カードが無事な限り重篤な後遺症もタイムリミットもない上、物語の最終盤にはカード化も確実に解ける事が分かってる以上、最優先にするほど優先度も高くない。だが、コロンが勇気を出して後押ししてくれたのを、無碍にするのも違う気がした

 

そんな、人生で1番悩んでいるIVの姿に業を煮やしたコロンは、頬をぷっくりと膨らませながら怒った

 

「もうー!せっかくコロンちゃんが応援してあげてるんだから、早くファンサービスに行ってきなさいよー!」

「……は?何言ってんだお前…?」

 

「え?いつもみたいにファンサービスしに行くんでしょ?」

 

「ッッ─────!!!」

 

それは普段のIVを見ているからこそ出てくる勘違い。命懸けでデュエルしに行くなどと露ほども思っていないコロンの様子に、しかしIVは雷に打たれたように固まって……突然大声で笑い始めた

 

「ア、アハハハハ!!ハハハハハ!!」

「IV…!?」

「…?何がそんなにおかしいの?」

「ハハハ…!……ああ、そうだな。そうだよな、コロン」

 

なんて、なんて小さい事で迷っていたのか

 

コロンの覚悟に対して、復讐の為に行くことを重く捉えて罪悪感を抱くなど、馬鹿馬鹿しいにも程があった。そんな()()()()()()でいつまでもウジウジと悩み続けるなど、自分らしくもない

 

「…遊矢、社長。決めたぜ。俺もお前達に着いていく」

「いいのか、IV?」

「ああ……だがな、俺がこの戦いに参加するのは、戦争を止めるだの赤馬零王に復讐だの、そんな些細な理由じゃねえ」

「え…?」

 

顔に巻きついた包帯を引っ掴み、解いて投げ捨てる

 

露出した右半分の顔には、右目を横断した十時の綺麗な切創痕が残っており、不敵な笑みを浮かべるその姿で…彼自身が思い描く“IV”そのものの姿で、宣言した

 

 

「他の次元の奴らにも、俺のファンサービスをたっぷりと見せ、そして味わわせてやる!それが俺の戦う理由だっ!!」

 

 

「「「ええ─────っ!?!?」」」

 

「いいのかよ!?そんな理由でっ!!」

「いいに決まってんだろ。忘れてたぜ…俺にとってはファンサービスこそ全てだって事をな」

「アカデミアは!?戦争は!?」

「そんなもんはファンサービスの()()()だ!新しく作るファン達と一緒に、奴らにたっぷりと地獄をサービスしてやるぜ!」

「C、Crazy(イカれてる)…!!」

「イカン!とんでもない方向で吹っ切れておる!」

 

先ほどまでの物静かな美青年だった姿とは180度違う狂人の姿に遊矢、権現坂、沢渡、デニスは大混乱に陥る。そんな騒動に零児と黒咲は静かに笑い、バレットを顔を顰め、セレナと零羅はそれぞれバレットと零児の背中に隠れた

 

「つう訳だ。俺も世話になるぜ社長」

「頼もしい戦力が増えて何よりだ…こちらからもよろしく頼む、IV。君の活動に関しても、怪我によって休止状態である事をこちらの方から喧伝しておくよう手筈を整える。君は、君のすべきことに集中してくれ」

「手回しが早いもんで」

 

最悪紋章の力でソリッドビジョンシステムをハッキングして、活動休止を宣伝しようとIVは考えていたが、流石にレオ・コーポレーションを敵に回しそうだから面倒がなくて助かると内心思っていた

 

「話は纏まったな……月影」

「ここに」

「うおっ!?どこに隠れてやがった!?」

 

零児の呼び掛けに、夜をイメージさせる忍者装束の少年、優秀な斥候である“月影”が音もなく姿を現す。彼は懐から人数分のデュエルディスクとカードを取り出し、それぞれに配布した

 

「それは我々が新たに開発した、次元移動装置を搭載したデュエルディスクだ。融合次元の物を参考にした」

(捕虜にしたオベリスク・フォースのか)

「このデュエルディスクには、アクションフィールドを発動させる機能も組み込んである。黒咲とセレナにも同じ処理を施した。我々にとってペンデュラム召喚とアクションカードは最大の武器。それを存分に活かせるようにした」

 

そして前置きをして、零児は遊矢が来る直前に言いかけた本題の内容を語る

 

「大前提として、我々の最終目標はアカデミアの壊滅、即ちプロフェッサー“赤馬零王”の捕獲だ。しかし我々だけで融合次元を相手するには、あまりにも戦力差が大き過ぎる。故に、まず我々が向かうのはシンクロ次元だ」

「シンクロ次元」

「今現在もアカデミアがエクシーズ次元に侵攻している現状を考えれば、おそらくシンクロ次元はまだ本格的に手出しされていないはず。そこでシンクロ次元のトップと接触し、融合次元の脅威を伝え、同盟を結びエクシーズ次元のアカデミア本隊を退いて、3つの次元の同盟軍で融合次元を包囲し、討伐する。これが対アカデミアの策だ」

 

ここで最後の所で()()()()()を伝えたのは、どこかのタイミングでバレットが逃亡出来る隙を与え、その偽の情報をアカデミアに流させようと零児が画策していたからだ

 

アカデミアが無視出来ないシンクロ次元と睨み合っている間にランサーズは融合次元に侵入、電撃戦で赤馬零王の元まで辿り着いて最速で捕縛する。これこそ本命の作戦だった

 

「では、配布したカードを用意してくれ。これにはシンクロ次元の座標データが入力済みだ。各自ディスクにセットし、私の合図で発動せよ」

 

各自がそれぞれカードを見せ、デュエルディスクにその魔法カードをセットしていく中、IVはコロンを脇の下から抱え、高く持ち上げた

 

「キャー!」

「ありがとう、コロン。お前のおかげで大事なことを思い出せた。だから…」

 

コロンを下ろしたIVは1枚のカードを手渡した。それはカード化されたデメット・ドールその人だった

 

「爺さんはお前に渡しておく。これで少なくとも、お前はひとりぼっちじゃねえさ」

「…IV、早く帰ってくる?」

「今回ばかりは長い旅になる…いつ帰ってこられるかは俺にも分からねえ…」

 

でも、と続けて言う

 

「必ずお前と爺さんの元に帰ってくる。約束だ」

「……うんっ!約束だからね!」

 

満面の笑みで約束したコロンは、自分からIV達の元を離れる。IVは零児の方を見て、静かに頷く

 

「では出発する。シンクロ次元に向けて」

 

「「ディメンション・ムーバー」発動!!」

 

次々と光の粒子と共に消えていく中、IVはスイッチを押す手前でコロンを方を見て、大きく手を振る家族に応えた

 

「いってらっしゃい、IV!!」

「ああ、行ってくるぜ、コロン!!」

 

カードの発動と共に、IVの視界は緑の光に包まれ…

 

次元の壁を越え、飛び去っていった

 

 

 

「オベリスク・フォースの部隊が戻ってこない…失敗したのか…」

 

背後で機械が眩い光を放つ玉座の上で、1人の男が嘆く。男は付近の部下を呼び寄せ、彼に顔写真のデータと共に命令を下す

 

「全部隊に通達。この男、IVという者を見つけ出して始末しろ。人質でも何でもいい、あらゆる手段を行使し、必ず抹殺するのだ」

「ハッ!」

 

部下が消えていなくなると、男は立ち上がり、背後の機械を覆うガラスに手を置く

 

「リアルソリッドビジョン抜きでデュエルモンスターズの力を行使する……そんな者はこの世に存在してはならない…!必ず消し去らねば…!」

 

 

「第二の“悪魔”が誕生する前に…!!」

 

 

その瞳には使命と、大きな憎悪に塗れていた

 

 

 

ファンサービスは、新たな次元に移行する




いよいよ次回からシンクロ次元編!
お楽しみはこれからだ!
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