「ズァーク…?」
そして…時系列は、柚子がズァークと名乗る、遊矢の姿形をした存在と邂逅した場面へと戻る
「…貴方、一体何者よ!どうして遊矢と同じ姿をしているの!?答えて!」
柚子は問い掛ける。間違いなく目の前にいるのは、柊柚子の知る榊遊矢その人だった。しかし、同時に柚子の幼馴染としての勘が、目の前の存在が“遊矢”本人ではない事を感じ取っていた
(だって、遊矢は…あんな笑顔を見せない…!)
遊矢はもっと楽しそうに笑う。幼い子供のように無邪気で、そして純粋に楽しそうな笑顔を見せる
あんな、全てを見下した冷たい目と、愉悦に染まり切った邪悪な笑顔をする人間が、榊遊矢なわけが絶対になかった
そんな柚子の疑問を、ズァークは嗤いながら答える
「簡単な事…これは元々“我の肉体”だからだ」
「な、何言ってるの!?その体は遊矢のものでしょう!」
「ククク…榊遊矢だけではない。ユート、ユーゴ、ユーリ…その全てが我の力の欠片であり分身体…4つの肉体と力が1つに統合された事で、我は復活を遂げることが出来たのだ…」
情報が断片的で理解が追いつかない柚子だったが、それでも1つだけ分かる事があった
「…つまり、貴方が居なくなれば、遊矢は元に戻るわけね!」
「だとしたら…どうする?」
「デュエルよ!私が勝ったら、遊矢を返してもらうわ!」
「ハーッハッハッハ!この我にデュエルを挑むとは何たる蛮勇!しかも
勇ましくデュエルディスクを構える柚子を愉快そうな目で眺めながら、ズァークもデュエルディスクを構えて高らかに宣言する
「いいだろう!我の復活を記念し、最初に貴様を葬り去ってくれる!」
「「デュエル!!」」
「先攻はくれてやる。さあ、足掻いてみせるがいい」
「バカにして…!私の先攻!まず私は魔法カード「独奏の第1楽章」を発動!自分フィールドにモンスターが存在しない時、デッキからレベル4以下の「幻奏」モンスターを1体特殊召喚出来るわ!来て!「幻奏の音女ソプラノ」!」
『ラーラーラー♪』
柚子の発動したカードにより、目隠しした長い赤髪の天使が透明感のある美しい歌声と共に現れる
「次に私は「クリスタル・ローズ」を召喚!「クリスタル・ローズ」のモンスター効果!デッキの「幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト」を墓地に送る事で、「クリスタル・ローズ」はこのターン「プロディジー・モーツァルト」として扱うわ!」
融合使いのライバル、光津真澄から託されたクリスタルで構築された薔薇が光を反射させながら最初に出てくる
「そして「ソプラノ」のモンスター効果!1ターンに1度、このカードを含めたフィールドのモンスターを使って、融合召喚を行える!」
「ほう、融合か…」
「私は「幻奏の音姫プロディジー・モーツァルト」として扱う「クリスタル・ローズ」と「幻奏の音女ソプラノ」の2体で融合!」
「至高の天才よ!天使のさえずりよ!タクトの導きにより力重ねよ!」
「融合召喚!!」
「今こそ舞台に勝利の歌を!「幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ」!!」
『ララララー、ラー♪』
大きな華の上に立つ、羽衣を纏った小柄な天使が降臨する
ATK1000
「「ブルーム・ディーヴァ」は戦闘・効果で破壊されず、戦闘ダメージは0になる効果を持つわ!私はこれでターンエンド!さあ、貴方のターンよ!」
「なかなかの余興であった。褒めて遣わすぞ」
「な、何よ…偉そうにしたって、「ブルーム・ディーヴァ」をそう簡単に破壊する事なんて出来ないわ!」
「ククク…その様な羽虫を片付けることなど、我にとっては造作もないこと!我のターン、ドローカード!」
デッキからカードを引くと、ズァークは2枚のカードを見せつけた
「我はスケール0の「覇王門
「えっ…!?ペンデュラム!?」
「何を不思議がる事がある?この力は元々我が生み出したもの。我が分体に扱えて、我に扱えぬ道理はない!」
ズァークの背後に立ち並ぶ、“0”と縦向きの“∞”を形取ったモンスターが収まる光の柱。そのスケールは0と13という、遊矢の力を優に超える規格外の数値
「さあ、刮目するが良い!我が力を!
ペンデュラム召喚!出でよ、我がしもべのモンスター達!
我が忠実なる下僕!「覇王眷竜ダークヴルム」を2体!
そして、二色の眼持つ眷属よ!その鋭き両目で捉えた敵を焼き尽くせ!現れろ!「覇王眷竜オッドアイズ」!!」
同時召喚された3体のモンスターの内2体は、黒い甲殻を持った小型の竜
そして残りの1体は、より鋭利な形状に変形した、柚子もよく知るドラゴンの成れの果ての姿
覇王眷竜オッドアイズ
レベル8 ATK2500
「そんな…「オッドアイズ」!?」
3体の竜には黄緑に妖しく光るクリアパーツやラインが組み込まれており、それはまさしくズァークの眷属の証だった
「これだけでは終わらぬ!更に我はマジックカード「融合」を発動!」
「ペンデュラム召喚から更に融合!?」
「2体の「ダークヴルム」を融合する!」
「飢えた牙持つ眷属よ!その毒で全ての敵を溶かし、喰らい尽くせ!」
「融合召喚!!」
「現れろ!「覇王眷竜スターヴ・ヴェノム」!!」
赤と黄の球体が全身に散りばめられた紫毒の竜。当然その肉体には眷属の証明たるイエローグリーンの線などが刻み込まれている
覇王眷竜スターヴ・ヴェノム
レベル8 ATK2800
「このモンスターは、あいつが使ってた…!」
柚子の脳裏に浮かぶ、舞網チャンピオンシップでユーリにドラゴンと一緒に一晩中追いかけ回された記憶。融合召喚された「スターヴ・ヴェノム」はその時のドラゴンと酷似していた
「「覇王眷竜スターヴ・ヴェノム」のモンスター効果!自分または相手のフィールド、墓地からモンスターを1体選択し発動!ターンの終わりまで、選んだモンスターの効果は無効となり、「スターヴ・ヴェノム」はその効果を得る!」
「何ですって!?」
「我は「ブルーム・ディーヴァ」を対象に発動!」
背部の翼のような顎が伸びて「ブルーム・ディーヴァ」に食らいつき、その力を吸収する
『アアアアアッ!』
「「ブルーム・ディーヴァ」!」
「これで貴様のモンスターは攻撃力1000の案山子と化した!」
「そんな…!」
「バトルだ。「覇王眷竜スターヴ・ヴェノム」で「幻奏の華歌聖ブルーム・ディーヴァ」を攻撃!」
「スターヴ・ヴェノム」の2つの巨大な
「きゃあ!」
LP4000→2200
「喜べ、最後は
「あ…ああ…」
「「覇王眷竜オッドアイズ」でプレイヤーにダイレクトアタック!」
柚子に攻撃を防ぐ手立てはなく、「オッドアイズ」の灼熱の息吹が柚子の足元に着弾し、勢いよく吹き飛ばした
「きゃああああっ!!」
LP2200→0
「そんな…こんなにあっさり…」
意気揚々と挑んだものの、蓋を開けてみればワンターンキルされたという事実に柚子が打ちひしがれる中、ズァークは倒れ伏す柚子を首を掴んで持ち上げる
ぎりりりり…
柚子の白く細い首を、手袋に包まれた指が万力のような力で締め上げていく
「つまらんな…所詮はこの程度の実力か…」
「かっ、はぁ……は…はな、してぇ…!!」
ぎり ぎり ぎり
「う”あ”あ”あ”あ”…っ!!」
手を外そうと試みるも、更に力を込めて締め上げられ、苦悶の声を上げる柚子。ズァークは彼女の右手首に付けられたブレスレットを忌々しげに見つめる
「…我を引き裂き、封印した忌々しい力よ…!しかし、遂に我は復活を遂げたのだ!」
ズァークは残った右手に邪悪な波動を纏って手刀の形に変えると、それを柚子のライダースーツに包まれた左胸…その奥に潜む心の臓に狙いを付けて構える
「そして、貴様を葬れば!もはやあの女は復活出来なくなり、我を封印する手段は永遠に失う!!」
「…や…め…て…」
そしてズァークは、弓を引き絞るように右腕を引き…怨嗟の声と同時に解き放った
「消えよっ!!レイの残滓よ!!」
「 ゆ う や 」
ブシュァァ!
肉が引き裂け、血飛沫が舞った
「………え?」
しかし、ズァークの右手が傷付けたのは柚子の胸元ではなく…柚子を締め上げていたズァークの左腕だった
「な、に……!?」
これに1番驚いたのはズァーク本人だった。ズァークは間違いなく柚子を抹殺しようとした。なのに右腕にひとりでに軌道を変え、ズァーク自身の邪魔をした
ドクンッ!
「グッ…!?」
「きゃっ!」
ズァークは首を掴んでいた左手を離し、頭部を押さえて呻く
「げほっ、げほっ……え…?」
そして、ズァークが押さえていた右手の指の隙間から、ズァークの黄色い眼光とは違う…強い意思の篭った赤い瞳が覗いた
『やめ……ろ……!!』
「ギ…サ…マ…!!」
『柚子に……柚子に手を出すなぁ!!』
ズァークが発している訳ではない、脳に直接響いてくるような声。柚子にも聞こえたそれは、柚子のよく知る男の子のものだった
「遊矢…!?遊矢なの!?」
『逃げろ、柚子…!俺が、抑えている、内に…!』
「舐めるな、虫ケラがぁ!!」
一人芝居のように、右手で左腕を抑えて震えるズァークの姿。ズァークは苛立ちと共に邪悪な波動を放ち、遊矢の精神を汚染しようとする
『ぐっ!?ううう……うおおおおおっ!!』
「なんだと…!?」
だが、遊矢でそれで弱るどころかますます抵抗を強め、ズァークは自由に体も動かせないほど肉体の支配権を奪われていた
「バカな!我の力を受けて精神を崩壊させないばかりか、逆に我の支配に抗うなどと!?」
『絶対にやらせない…!柚子は…俺が守る!!』
「遊矢…!」
遊矢の意思がまだ残っている。その事に希望を見出した柚子は、ブレスレットに顔を近づけて、念じるように祈った
「お願い…!遊矢を元に戻して!!」
カッ!
「ぐあああああああっ!?!?」
すると不思議な事が起こった。柚子のブレスレットが突如輝き出し、ズァークの全身を照らし…瞬間、ズァークは苦痛の絶叫を上げた
更にズァークの肉体に横断するような2本の亀裂が走り、さながらそれは、
「あ、ありえぬ!!4つに分割した力の1つだけで再び我を引き裂くなど!榊遊矢の強い自我が、統合を不完全にしたとでも言うのか!?」
「遊矢を返してもらうわ、ズァーク!」
確かにIVの存在は、ズァークの早すぎる復活という結果を齎した。しかし、復活したズァークを遊矢が抑え込めたのは、遊矢の心の歪みが早い内に叩き直されたIVとの出来事があってこそだった
IVの存在によって復活を果たしたズァークは、しかしIVの行いにより、巡り巡って再び封印されるのだった
「おぉぉぉのぉぉぉれぇぇぇ!!!」
闇を纏った怪物めいた表情で呪いを撒き散らすズァークは、しかし消える瞬間に言葉を残した
「だが無駄だ!!引き裂かれた力が1度統合を果たした以上、何度でも次元を越えて再び統合し、我は復活する!!それまでせいぜい仮初の平和を楽しんでおくがいい!!」
「我が次に統合を果たした瞬間こそが…“覇王龍”の真の復活であり、この世界の最後だっ!!」
その言葉を最後に、光に包まれたズァークは3つに分かれ、その内の1つが消え、残りの2つが柚子の目の前で光のヴェールを脱ぎ、遊矢とユーゴが姿を現した
「…………」
「いっちち…一体何が起きたんだぁ…?」
「遊矢!!ユーゴも!!元に戻ったのね!!」
柚子は感極まって、地べたに座り込む遊矢に抱き着いた。だが、女の子に抱き着かれたというのに遊矢からの反応が全くない。それどころか信じられないものを見るような目で虚空を眺め…ボソリと呟いた
「…俺が…覇王龍…?世界を滅ぼした、悪魔の…生まれ変わり…?」
「遊矢…?」
声に反応して、遊矢がゆっくりと柚子に視線を向ける
そして、柚子の首筋に残った赤い手の跡が目に入った瞬間…遊矢の喉がヒュッと鳴った
「うわあああああ!!近づくなぁぁぁぁぁ!!」
「きゃあ!?」
遊矢はいきなり、抱き着く柚子を引っぺがして強く突き飛ばした。大きく飛ばされた柚子は痛みを堪えながら、突然突き飛ばした遊矢に怒声を上げる
「いったぁ…!ちょっと遊矢!いきなり何すんの──」
「ヒュー…!ヒュー…!ヒュー…!」
「…ゆ、遊矢?」
…しかしそんな柚子の怒りの炎は、過呼吸を繰り返し、ガタガタと震える自分の体を痛くなりそうなど強く抱き締め、心底怯え切った表情と目をする遊矢の異常な姿を見て、一瞬で鎮火してしまった
「ヒュー…!ヒュッ、ぶっ、ゲェェェッ!!」
びちゃちゃちゃ びちゃ
挙句の果てに目の前で吐瀉物まで吐き出されてしまえば、柚子も不安より心配の気持ちが勝ってしまい、汚れるのも構わず遊矢に近付こうとする
「ちょ、ちょっと、大丈夫なの!?もしかしてまだ、さっきの影響が…」
「ぐる”な”ぁ”!!!」
胃酸で喉が爛れ、苦しそうな声でそれでも遊矢は叫んだ
「ゲボッ、ゲホッ!…ごめん…柚子…!でも俺に、俺達に近寄るな…!殺してしまう!!壊してしまう!!」
「何を言ってるの…?」
「来ないでくれぇ!!」
「ぐっ…!なんだよ、この記憶…!?」
『これは…まさか、遊矢にも同じ記憶が…?』
遊矢と柚子がそんなやり取りをしている中、覚醒したユーゴと、背後霊のように現れたユートも混乱の極みにあった
「落ち着いて遊矢!もうあのズァークって奴はいないわ!」
「違うんだ柚子…!俺達こそが…ズァークだったんだ…!世界を滅ぼして…柚子も傷つけて…!俺は…俺は…!!」
柚子には遊矢の言葉の意味が分からなかった。それでも柚子に分かるのは、遊矢が今まで見た事がないほど傷ついている事と、涙を流す目が救いを求めている事だった
「遊矢…私は…」
ドゴォォォン!!
「「「!?」」」
そんな戸惑いの中、破壊音を鳴らしながら大柄な男が廃墟の中に侵入してきた
「あいつは…!」
「セルゲイ!?なんでこんな所に!」
乱入者はセレナを追跡していたセルゲイ・ヴォルコフだった。セルゲイはその、機械のように無機質な視線を柚子に向ける
「え…?」
「っ!狙いは柚子か!?」
「柚子…!?」
ユーゴのそんな言葉を聞いた遊矢は、口元を拭って立ち上がると、柚子を背に幽鬼のような足取りで立ち塞がる。その眼は絶望と罪悪感に呑まれながらも、僅かな意思の光が灯っていた
「柚子は…俺が守る…守らなきゃ…!!」
「お前…」
「遊矢…」
誰が見ても分かるほど悲壮な決意。しかしセルゲイは足の後ろからロケットの噴出口のようなものを展開し、その決意を嘲笑うかの如く、滑るように遊矢とユーゴを肉薄
「「なっ!?」」
ドカカッ!
「「うわあああああああっ!!」」
「遊矢!ユーゴ!っきゃあ!?」
そのまま2人を撥ね飛ばして流れるように柚子を捕まえると、そのまま勢いをつけながらロケット噴射を更に強くして空を飛び、連れ去っていく
「遊矢!!」
「柚子!!」
遊矢は、柚子は、必死に手を伸ばすも、互いの距離はぐんぐん離れていき…
「遊矢ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「柚子ぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」
やがてセルゲイによって、柚子は完全に連れ去られてしまった
「柚子…そんな…!うっ…!ううううっ…!」
「くそっ…!くそったれぇ!!」
『柚子…』
片や膝を突いて打ちひがれ、片や柱を殴って怒りに震える
そんな中、セルゲイが破壊した穴から、ある男が入ってくる
「これは…何があったんだ…?」
男の正体はIVだった
IVがこうまでズァークもとい遊矢達の元に駆けつけるのが遅れたのは、移動の最中にオベリスク・フォースの分隊と鉢合わせしてしまい、赤馬零王からIVの抹殺命令も受けていたオベリスク・フォースに包囲されていたからだ
流石のIVも多勢に無勢な上に急がなければ世界が滅びるかもしれなかった為、先攻1ターン目で1人を瞬殺、動揺した隙を突いて実体化したモンスターでオベリスク・フォース達を蹂躙し、今に至るわけである
(遊矢とユーゴがいるだと…?さっきの謎の光…まさかズァークが再び分裂した?どうやって?柚子が何かやって、その後にセルゲイに攫われた?ユーリがいないのは何故だ?遊矢はズァークの核で、ユーゴはユートと統合してるからか?紫雲院素良とバレットがあそこまでズタボロなのは何でだ?…くそっ、分かんねえ事が多過ぎる!)
シンクロ次元でのズァークの復活は、未来を知っているIVからしても完全に予想外の出来事だった。だから普段のような余裕ぶった演技も剥がれ、焦燥な顔つきでひたすら予測と演算を繰り返す
その時、IVのデュエルディスクのコールが鳴り、出ると上機嫌なロジェの顔が映った
「なんだ?」
『朗報ですIV、柊柚子を手に入れました』
「なっ…!?」
それを聞いた遊矢とユーゴ(特にユーゴ)が強く反応するも、ロジェに悟られぬようジェスチャーで静かにする指示を出すと、IVは続きを促した
「それで?」
『対アカデミアにおけるキーを手に入れた以上、後はこの街の希望の象徴たるキングを墜とせば、シティの住民の心は折れ、シティを完全に掌握する事が出来ます』
「トーナメントに細工をする気か?」
『察しが早くて助かりますよ。貴方かセルゲイにキングをぶつけ、葬ってもらいます。これで…』
「ちょっと待ちな」
『ん?』
取らぬ狸の皮算用をするロジェだったが、そこにIVが待ったを掛ける
「キングをぶっ潰すのは俺も賛成だが、トーナメントの組み合わせを細工するのは止めた方がいいぜ」
『…何故です?』
「チェックを掛けたからって勝負を焦ったら、手痛いしっぺ返しを食らうことになるかもしれねえって事だぜ。あからさまにアンタにとって都合のいいトーナメントの操作なんざ、コモンズのバカ共や評議会の老害共に付け入る隙を与えるだけだ。焦る必要はない。正当に勝ち上がって、キングを潰し、コモンズ共に言い訳のしようもない圧倒的な
IVの説得を聞いたロジェは黙り込み、しかし少しすると不気味に笑いながらIVの提案を肯定した
『フッフフフ…全く…私とした事が少々浮かれていたようですね。確かに君の言う通り、勝利は目前なのです。焦ることなく確実な勝利を目指すとしましょう』
「気に入って貰えたようで何よりだ」
『貴方には本当に助けられますよ。王国を築き上げた暁には、貴方にNo.2の席を用意してあげましょう』
「それはそれは、素敵な提案だな」
『それでは、互いに健闘を祈りますよ』
それだけ言って、ロジェは通信を切った。そうなると当然ユーゴがIVに突っかかってくる訳で
「おいテメェ!遊矢の仲間じゃねえのか!?ホントは柚子を攫った連中の仲間だったって事か!?」
「…お前、単細胞にも程があるだろ」
「アァン!?」
「わざわざお前らの目の前で、ロジェの野郎に気づかれないよう通信したんだぞ?ちょっとは気づけよ」
「もうちょい分かるように言えよ!」
アホかこいつ…アホか、などと自己完結していると、ユーゴの傍にいたユートが説明する
『つまり、この男はロジェという男のスパイをしているという事だ』
「スパイィ?」
虚空に向かって話し始める、おそらく傍にいるユーゴ以外には見えないユートと会話しているのであろうユーゴの姿を見て、IVが思い浮かんだ言葉は1つ
(ナストラル…)
「…どうしたんだよ?」
「ここで何があったんだ?」
下らない考えなどおくびにも出さず、ユーゴに問い掛ける
「あー、そのー…俺もなんて説明すりゃいいか…」
『ユーゴ、俺に変われ。俺ならまだ説明できる』
「ホントかよ?…じゃあ任せるぜ…」
何かに預けるようにユーゴの意識が薄れていく。するとユーゴの青と黄の髪色が黒と紫にゆっくりと変色していき、髪型も変わり、目つきも鋭いものになっていく
「これは…」
「…初めまして、というべきか?…俺の名前はユート。訳あって今はユーゴの体の中にいる、もう1人の人間だと思ってもらえばいい」
「二重人格みたいなもんか」
「そんな所か。さて…」
ユートはチラリと後ろを見る。ユーリとのデュエルで受けたダメージが余程大きかったのか、泥のように気絶している素良とバレットを見て、ユートは口を開く
「…これから言う事はとても信じられないかもしれないが、全て真実だ。心して聞いてほしい───」
ユートは語った
この4つの次元の世界は、かつて1つだった事
そこで誕生したズァークと呼ばれる凶悪なデュエリストによって、世界が滅びの危機に陥った事
ある女性がズァークを世界ごと肉体と力を4つに引き裂く事で、何とか封印した事
そして遊矢、ユート、ユーゴ、ユーリの4人こそが、4つに引き裂かれたズァークの生まれ変わりである事
そのズァークが蘇り、柚子を殺そうとした事
しかし遊矢が抵抗したおかげでズァークの統合は完全ではなくなり、それにより柚子のブレスレットの力で再び分裂した事
その全てをユートは話した……
(遊矢が、精神力でズァークを跳ね除けただと…?)
それはIVの予想を超えた成長だった。原作では最後の最後に多くの者達の激励でようやくズァークの肉体を一時的に乗っ取り返したというのに、幼馴染の危機が迫ってたとはいえたった1人で怪物の力をねじ伏せるなど…
史実とは異なる、そして大きな成長を果たした遊矢に、もしかすれば、遊矢は考えている以上の『希望』になり得るかもしれない事実にIVは期待を抱いた
(こいつなら、マジで“レイ”を復活させる事なくズァークを倒せるかもしれねえ。それは赤馬零王の『希望』を奪う事に繋がる…!)
「ズァークの記憶の中には、瑠璃と似た顔つきの女性の姿も見えた。…もしや瑠璃や柚子達も、彼女の…?」
「今考えても仕方がねえ、とりあえず今はフレンドシップカップを終わらせる事が先だ。アカデミアに対抗する為にシンクロ次元を支配するのがロジェの目的だ。とことん追い詰められねえ限りは柚子に手出しはしねえだろうぜ」
IVは未だ膝を突いている遊矢に話し掛ける
「オイ遊矢、次はお前とセルゲイの試合だ。ユーゴのDホイールにでも乗せてもらってスタジアムに急いで戻れ」
「……かない……」
「あ?」
消えてしまいそうなほど小さな呟き
「…俺は…行かない…」
「…何言ってやがんだ…」
「柚子は、ランサーズの皆で助けてくれ…俺は、ランサーズを抜ける…俺は、もう二度と………デュエルはしない」
それを聞いた瞬間、IVは遊矢の胸ぐらを掴んで無理やり持ち上げ、近くの柱に叩き込むように押し付けた
「ぐはっ!」
「遊矢!?IV、いきなり何を…」
「テメェ、何寝ぼけた事ほざいてやがるっ!!!」
信じられないほどの音量で発せられた怒声だった。IVの表情は怒りで染まり切っており、瞳には失望の色が滲み出ていた
「デュエルをやめるだと!?あれだけエンタメエンタメ言ってたテメェがっ!!よりによって
「……に……れの……んだ……」
「テメェにはがっかりだぜ遊矢!!あれだけ多くのシティ中の人間を!!俺を夢中にさせたデュエルをした奴が!!んな下らねえ事をほざくとはっ」
「IVに俺の何が分かるんだっ!!?」
「っ……!?」
怒りと悲しみ、それが綯い交ぜになって乗せられた遊矢の言葉にIVは思わず怯み、胸ぐらを掴む力が緩む
「俺だって嫌だっ!!昔からずっと父さんのデュエルに憧れていた!!皆を笑顔にする世界一のエンタメデュエリストになるのが俺の夢だったんだ!!その夢を捨てなきゃいけないなんて、嫌に決まってる!!」
「でもっ、でもっ!!俺がデュエルをすればするほど!!勝とうと思えば思う分っ!!ズァークは力を取り戻して、また復活してしまうんだ!!」
「今度も止められる保証なんかない!!そしたら…そしたら…!!今度こそ俺の手で、仲間を、友達を、家族を、柚子を、世界ごと滅ぼしてしまう!!そんなっ、そんなの…絶対に嫌なんだっ!!」
遊矢が魂の底から吐き出した慟哭。涙を流す遊矢の目が、IVには見覚えがあった
…かつてこの世界に零れ落ちた直後。降り頻る雨の中で見たショーウィンドウに映っていた、あらゆる希望を失って絶望している
自身の正体が世界を滅ぼした悪魔の生まれ変わりだったという絶望、夢を捨てなければならない絶望、デュエルすら許されない絶望。それらが遊矢の心を容赦なく蝕む
大きく成長して忘れがちだが、遊矢はまだ中学生…年頃の子供なのだ。その残酷な真実は、14歳の子供が背負うにはあまりに重く、心を押し潰して当然だった
「俺にはもう、柚子に近づく資格だってないんだ…だから…俺はもうデュエルはしない…俺が夢を諦める程度で…デュエルをやめる程度で…皆を、守れるなら…」
「遊矢…」
自身の写し身とも言える少年の様子に、ユートもユーゴも何も言えなかった
ユートも故郷が侵略される前は、友やライバル達と切磋琢磨しながらプロ決闘者になるという夢を目指していた。ユーゴに至ってはリンと一緒に作り上げたDホイールでフレンドシップカップに出場し、優勝するという夢を叶えている真っ最中なのだ
だからこそ、その夢を自ら切り捨てねばならない遊矢の血を吐くような思いが、2人には嫌という程理解出来た
「うっ…ううっ…!」
「…………」
手を離すと、遊矢は絶望の涙を零して座り込む
今の遊矢は、かつてこの世界に絶望したIVと同じだった。それを見て何とも思わないほど、IVも薄情ではない
IVの時はデメットが救い上げ、その優しさで包み込んでくれた。しかしIVは自分がデメットのような優しい人間ではないと思っているし、元々IVにとって遊矢は、物語を円滑に進める為、利用しようと繋がっただけの関係に過ぎない。だから決して遊矢を慰めず、背を向けて事実だけを述べた
「…お前がデュエルをやめたところで…例えユートとユーゴもデュエルをしなくなったとしても…ユーリって奴がいる以上、遠からずズァークは必ず蘇る…」
「っ! そ、れは…」
「ズァークをどうにかしたいってんなら、デュエルをやめるんじゃねえ。逆にデュエルしまくって、お前の中にあるズァークの力を完全にコントロール出来るようになるしか手はねえ」
「そんなの…無理だ…あんな強い力、俺に扱える訳…!」
「俺から言えるのは一つだけだ」
「これ以上柊柚子を、ファンをがっかりさせんじゃねえ」
「ッ……!!柚子…っ…」
それでも遊矢は頷けなかった。ズァークの力を暴走させるかもしれないという恐怖が、前に進む事を拒絶させていた
「それでも…俺には…!」
「…………」
これ以上やれる事はないと、IVは遊矢をユートとユーゴに任せて、スタジアムに向かって最短距離で移動する
糸を建物に引っ付け、振り子のように宙を移動しながら、IVはロジェに対して通信を繋げた
「ようロジェ。さっきの話の続きだがよ、面白いショーを思いついたぜ。俺の手でコモンズのガキを嬲り殺しにして、シティ中の奴らを恐怖のドン底に叩き落とすんだ。それによって最高潮に高まったキングへの期待と希望を、俺達の手で奪って更に絶望させるって寸法よ!だからよ…」
「3回戦は、先に俺にデュエルさせろ」