IVは目の前の光景が信じられなかった
『な、何が起こったのでしょうか!?竜巻が現れたと思えば、そこから見た事もないモンスターが竜巻を吹き飛ばしながら出てきました!!なんて…綺麗なの…』
実況者も見蕩れる程、神々しくも温かい光を放つ大型の白いドラゴン
“クリアマインド”という、この世界とは異なる世界の人物が辿り着いたシンクロ召喚の極致。それにより生まれた「クリスタルウィング」より更に上の進化を遂げた「クリアウィング・シンクロ・ドラゴン」の姿
それを成したのは、覇王龍の闇に飲み込まれる寸前だったはずの…
「くっ………」
遅れて、ようやくそれを認知したIVは俯き…
「くっくくく…!
ハハハハハハハハハッ!!!
アーハハハハハハハッ!!!」
笑った
人目もはばからず、演技すらも忘れて
ただただ無邪気を笑い続けた
いきなり爆笑し始めたIVの姿に人々が目を丸くする中、堪え切れないと言った風にIVは語る
「クリアマインド!?アクセルシンクロ!?挙句の果てには「クリスタルクリアウィング・シンクロ・ドラゴン」だぁ!?最高だっ…!最っっっ高のファンサービスだ!!全くお前らって奴は、一体どんだけ俺をワクワクさせてくれりゃあ気が済むんだ!?」
誰が聞いても断言出来るほど喜色溢れた声音に、ユーゴ達はちょっと引き気味に言葉を返した
「『な、なんか、スゲェ嬉しそうだな…?』」
「当たり前だ!!これが喜ばずにいられるか!!」
IVからすれば、ユーゴが覇王龍に支配されなければそれだけで儲けものだった。それが蓋を開けてみれば、覇王龍に支配に抗う所か力を完璧にコントロールし、更に自力で“クリアマインド”の境地に辿り着くという、IVも完全に予測していない未知に到達したのだ
というかぶっちゃけた話、目の前で生のアクセルシンクロを見る事が出来たIVは、過去最高にテンションが上がっていた。脳内BGM再生余裕でした
「これだ…!デュエルってのは、驚かして驚かされてナンボってもんなんだよ!!負けたら地下送りってのだけが気に食わねえが、それを除けば、これほど楽しいデュエルはねえぜ…ユーゴッ!ユートッ!」
「『っ!…お前という男は、どこまで行ってもブレないな……よっしゃあ!!このデュエル、とことん楽しもうぜIVッ!そして、俺達が勝つ!!』」
「吼えたなッ!だが勝つのは俺だ!!」
例えヒール役として最高においしいポジションなのだとしても、それで手を抜くなどIV自身のプライドが許さないし、何より2人に対する最悪の侮辱でしかない
それに…IVは信じる事にしたのだ。原作では決してありえなかった、未知の領域に踏み込んだユーゴとユートの可能性の光というものを
(だからこそ、全力でブチのめすっ!!)
2人のDホイールは新しいデュエルレーンに移って走り続け、いよいよデュエルは最終盤面を迎える
「いくらモンスターが進化しようと、俺のライフはお前の10倍以上はある7900。攻撃を1度だけ止めるリバースカードと4体のエクシーズモンスターに加え、その中にはお前のモンスターと同じ3000と、それを超える3100の攻撃力を持つモンスターもある。鉄壁を誇る「ギミック・パペット」の布陣を、そう簡単に超える事は出来んぞ!」
「『──それはどうかな?』」
「何ッ…」
その絶望的な状況を説明されても、ユーゴは
「『「クリスタルクリアウィング・シンクロ・ドラゴン」の効果!1ターンに1度、相手がモンスター効果を発動した時、ターンの終わりまでそのモンスターの元々の攻撃力分「クリスタルクリアウィング」の攻撃力がアップし、更に、相手モンスターが発動した効果を受け付けなくさせる!!』」
(「クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン」の能力を1つに複合させたような効果か…)
「バカが。そんな効果を教えられて、素直に「ファナティクス・マキナ」の効果を「クリスタルクリアウィング」に使うと思っているのか?」
「『いいや!例え効果を教えなくても、アンタなら必ず「クリスタルクリアウィング」を警戒して「ファナティクス・マキナ」の効果は使ってこない…でも、俺達の本当の狙いはそこじゃない!』」
「!」
そしてユーゴは、伏せられていた“使い道のないリバースカード”を…今発動した
「『トラップ発動!「ミス・リバイブ」!!』」
「「ミス・リバイブ」だと…?このタイミングで俺のモンスターを蘇生して何が………いや違う!まさか!?」
「『このカードは、相手の墓地のモンスターを相手フィールドに守備表示で特殊召喚する罠カード!この効果で俺は、IVの墓地に存在する「デビルズ・ストリングス」を特殊召喚する!』」
『え?わざわざIVのフィールドに攻撃力3300のモンスターを蘇らせるなんて、どういうつもり!?』
「墓地の「サービスト・パペット」をゲームから除外して効果発動!俺の墓地の「デビルズ・ストリングス」を、相手フィールドに特殊召喚する!これで「ミス・リバイブ」の効果は不発になる!」
これが通れば「ダメージ・ダイエット」で効果ダメージを半分にしても「ファナティクス・マキナ」の効果でユーゴのライフポイントは0になる。「クリスタルクリアウィング」はモンスターに対し直接妨害してくる効果ではない為、防ぐ事も出来ない…そうIVは
「『この瞬間、「クリスタルクリアウィング」のもう1つの効果を発動!』」
「このタイミングで…!?」
「『1ターンに1度、魔法・罠カードの効果が発動した時に発動でき、その発動を無効にし、破壊する!』」
「何だと!?」
「『『フォトニック・ミラー』!!』」
IVの意識の外から飛び出してきた奇襲。魔法罠への干渉という、IVの知る「クリアウィング」系統には無かった不意打ちの一撃
その水晶から照射された虹色に輝く光が、発動された「サービスト・パペット」を無効にし、破壊する
「ぐおっ!」
「『これで「ミス・リバイブ」の効果は有効となり、IVのフィールドに「デビルズ・ストリングス」は蘇る!』」
激しいカードの攻防の果てに辿り着いたのは、相手フィールドに攻撃力3300のモンスターを特殊召喚するユーゴという結果
『え?え?え?』
メリッサ含め、このデュエルを観戦していた殆どの者達がその意味不明なプレイングの応酬に首を傾げた
その意味が分かったのは極少数のデュエリストと、対面しているIVだけだった
「クソ…!特殊召喚に成功した「デビルズ・ストリングス」の効果を発動…!」
『IV、何故か「デビルズ・ストリングス」の効果を使おうとしている!モンスター効果を使えば「クリスタルクリアウィング」の攻撃力が上がってしまうとユーゴが説明したのに、どうして!?』
そんなメリッサの疑問に、苦々しい表情で答える
「…「デビルズ・ストリングス」の特殊召喚時効果…こいつは効果を「発動できる」んじゃねえ、「発動する」んだよ…プレイヤーの意思に関係なく、「デビルズ・ストリングス」の効果は発動されるって訳だ…」
『え…?それって、つまり…』
守備体勢のまま呪われていない呪剣を振るおうとする悪魔の人形、その挙動をユーゴは見逃さなかった
「『この瞬間、「クリスタルクリアウィング・シンクロ・ドラゴン」のモンスター効果!ターン終了時まで「クリスタルクリアウィング」は「デビルズ・ストリングス」の元々の攻撃力分攻撃力が上がり、相手モンスターの効果は受けなくなる!』」
「『『フォトニック・クリスタル』!!』」
翼のクリスタルはさっき以上に光り輝き、その光が「デビルズ・ストリングス」を包み、パワーを吸収する
ATK3000→6300
『「クリスタルクリアウィング」の攻撃力が6300に!?もしかして、ユーゴは最初からこれを狙って「デビルズ・ストリングス」を復活させたって事!?』
「『アンタは初めて「デビルズ・ストリングス」をエクシーズ召喚した時、「デビルズ・ストリングス」の特殊召喚時効果を使った。IV、アンタは無駄な行動はしない男だ。そのアンタが、何のブラフにもならない「デビルズ・ストリングス」の効果を使ったのは、俺達が思いもよらない狙いがあるか…効果の発動を止められないかの2つしかないだろ!』」
「くっ…!」
(だが、いくら攻撃力が高かろうと、その攻撃力では俺のライフを半分も削り切れない!しかも俺の場には攻撃を1度は止める「くず鉄のかかし」もある!奴がこのターンで決着を付けることなど…)
しかし次の瞬間、ユーゴは1枚のカードを掲げた。裏面に大きく「A」の文字が刻まれたそのカードは
「アクションカード?」
「『これが、俺達の逆転のカード!アクションマジック「逆転の一手」を発動!!』」
「!! そのカードは!」
「逆転の一手」。それは来たるアカデミアとの戦いに備えて、対多数戦のデュエルを想定して生み出されたアクションカードの内の1枚
その効果は──
「『こいつは相手フィールドのモンスターの合計数が自分のモンスターの合計数より多い時、発動可能なカード!自分のモンスター1体を選び、このターン選んだモンスターしか攻撃出来なくなる代わりに、対象のモンスターは相手モンスターの数だけ攻撃出来るようになる!』」
「クリスタルクリアウィング」が吼える。すると全身の水晶体、特に水晶翼に光の粒子が吸い寄せられ、徐々に水晶はその輝きを増していく
『IVのフィールドには、特殊召喚された「デビルズ・ストリングス」を含めて、5体のエクシーズモンスター…』
「『つまり…「クリスタルクリアウィング・シンクロ・ドラゴン」はこのターン!』」
やがてクリスタルの眩きは最高潮に達し、瞬間、クリスタルから突き破るかのように5対の光の大翼が現出し…
『グォォオオオオオオ!!』
「バカな!?合計5回の攻撃だと!?」
「『行け!「クリスタルクリアウィング・シンクロ・ドラゴン」!「ギミック・パペット」モンスターに攻撃!』」
「クリスタルクリアウィング」は翼の水晶の乱反射で出来た光で4体の分身を生み出し、その内の1体が「シリアルキラー」に向かって竜巻…否、暴風を纏って突撃する
それを見たIVはホープ・トゥ・ディスペアーを限界まで加速させ、その先にあったカードに手を伸ばす
パシッ
「くっ!1回目のバトルは「回避」の効果により無効!」
咄嗟に拾ったアクションマジックの効果により、最初の攻撃は透過したようにすり抜けていき、不発に終わる。直後、2体目の攻撃が「シリアルキラー」に迫る
「「くず鉄のかかし」の効果発動!1ターンに1度、バトルによる攻撃を無効にする!2回目のバトルも無意味だ!」
「シリアルキラー」に当たる直前、ボロボロの案山子が2体の間に挟まるよう現れ、2度目の攻撃も無効にする
「『だが、3回目のバトル!「シリアルキラー」を攻撃!』」
ユーゴ達の猛反撃は止まらない。3回目にしてついにIVの使えるカードが切れたことにより、「クリスタルクリアウィング」の攻撃が「シリアルキラー」を破壊する
「ぬぁっ!?ぐぅぅ…!」
LP7900→4100
「『4回目のバトル!「ヘブンズ・ストリングス」を攻撃!』」
続く白竜の壊風を携えた突進が、攻撃力3000のモンスターすらも難なく一撃で粉砕し、凄まじい衝撃をIVに叩きつける
「おおぁぁぁぁぁぁぁっ!!ぐぅっ!」
LP4100→1100
「『そして5回目のバトル!行けぇ!「クリスタルクリアウィング・シンクロ・ドラゴン」!!』」
そして最後の「クリスタルクリアウィング」による攻撃が行われたその瞬間、ユーゴは直線上の進路の先にある2枚のカードが見えた
「『あれは!』」
『アクションカード!?もしかして、意味のない防御カードを使ってたのってこの為の時間稼ぎ!?』
「『っさせねえ!!』」
急加速するユーゴのDホイール。事前に最高速度で走っていたIVに徐々に距離を縮めていくが、攻撃動作に入っている「クリスタルクリアウィング」から逃げ切るようにホープ・トゥ・ディスペアーのアクセルを全開にし、IVとユーゴによる激しいデッドヒートが繰り広げられる
やがてアクションカードの寸前で2つのDホイールは並び、同時に2本の腕がカードに向かって伸び…
直後、凄まじい突撃によって煙が舞い、そのまま「クリスタルクリアウィング」が突き抜けていく
『どうなったの…!?』
固唾を呑んで見守るメリッサと観戦者達。そして1秒もしない内に煙の中から…2つのDホイールと巨大な影が飛び出してきた
IV LP1100
CX ギミック・パペットーファナティクス・マキナ
「アクションマジック「大脱出」…!バトルフェイズを強制的に終了させた!」
『フォ、IV、アクションマジックによるバトルの回避に成功していました!ユーゴの起死回生の逆転の攻撃を見事に防ぎきってみせたぁ!!』
「残念だったな!これで俺の──」
勝ち誇った顔で振り向いたIVは、ヘルメットの影で隠れていたユーゴの……勝利を確信した表情を見て固まった
(なんだ、あの顔は…!「大脱出」が発動出来た以上、「クラッシュ・アクション」も「ノーアクション」も意味が──…ッ!)
いや、たった1枚だけあった
そのあまりに強さに「大脱出」と同じく最低確率でしか出現する事がない、最強格と言えるアクションカードの1つ
「──まさかっ!!?」
「『アクションマジック「シューティングスター」!』」
「『バトルフェイズを、
見れば、既に「クリスタルクリアウィング」は大きな宙返りでユーゴの背後に移動しており、攻撃体勢に入っていた
「『これが正真正銘最後のバトルッ!!「クリスタルクリアウィング・シンクロ・ドラゴン」!!「ギミック・パペットーファナティクス・マキナ」に攻撃!!』」
腕と水晶の翼を折り畳み、長い尾をピンと張り立たせるその姿はまさに1本の矢…否、
それが大気を切り裂いて流星の如く飛来し──
「『『
──「ファナティクス・マキナ」の腹部を貫いた
「ウゥ───!!」
凄まじい衝撃でDホイールから落ちないよう耐えながら、IVは信じられないと言わんばかりに目を見開く
「バカな!!「ギミック・パペット」がッ、この俺がッ!ガキ2人如きに敗れるというのかっ!!?」
そしてIVの背後で漆黒の大人形は紫電を散らしながら崩れ落ちてゆき…やがてIVをも巻き込む大爆発を起こした
「ウアアアアアアアアアアアッ!!!」
IV LP1100→0
デュエルレーンを真っ二つにへし折っただろうと思わせるほどの爆炎、爆風
それによってホープ・オブ・ディスペアーは横転しながらスライドし、大きく跳ね上がる。更にブチン!とチューブが千切れる大きな音と共にIVの身体が勢いよく投げ出され、火花を散らしながら仰向けの状態で道路の上を滑走し、やがて止まった
キィィィッ!
「大丈夫かっ!?」
『…!?』
遅れてやってきたユーゴがDホイールから降りて大声で呼び掛ける。ユートも心配そうな視線を向けていると、IVの体が倒れた姿勢のまま宙に浮いた。そしてそのまま立った状態で静かに地面に着地した
「IV…?」
「……お前達の勝ちだ」
訝しむ2人にそう告げるIVの表情は、デュエルに負けた人間とは思えないほど穏やかな笑顔をしていた
「お前達は、俺の想像を遥かに超える形で進化した。アクセルシンクロ…あのチカラを得るだけの心の強さを持つなら、本当にズァークの闇を乗り越えられるかもしれねえ…お前達は、その希望の可能性を示したんだ」
IVはゆっくりと歩き、ユーゴの目の前で止まると右手を差し出して、悪い笑みを浮かべながら言った
「良いデュエルだったぜ。ユーゴ、ユート」
『IV…』
「……ああっ!最っ高のデュエルだったぜ、IV!!」
微笑むユートに合わせるように、ユーゴは差し出された右手を右手で力強く掴んで応えながら、心の底から楽しそうな笑顔で言い切った
ワァァァァァァァッ!!!
瞬間、シティ中から歓声が湧き上がった
『決着が付きましたぁぁっ!!激しい攻めに耐え、見事大逆転勝利を収めたのはァ!ユーゴだぁぁぁぁぁっっ!!!互いの健闘を称え合いながら握手する2人!これこれ!!こーゆーのが見たかったのよね!!』
街中からコモンズ達のユーゴコールが響き渡り、それを聞いたユーゴが照れくさそうに頭を搔く中、IVは破壊されたDホイールに向かって少しだけ頭を下げると、そのままユーゴ達に背を向けてどこかへ向かおうとする
「あっ…!IV、どこに行くんだよ!」
「生憎、俺にはやる事がまだあるんでな。それにこいつからのコールがうるせェんだよ」
見せつけられたデュエルディスクのパネルには、ロジェからの通信の通知音がしつこく響いていた
「この大会で俺のやる事は終わった。あとはあのエンタメバカがキングをぶっ倒すのを待つだけだぜ」
「そいつは聞き捨てならねえな!キングを倒すのは遊矢じゃねえ、俺達だ!!」
「ハッ!そいつはそいつで面白くなるかもなァ」
遊矢が決勝まで勝ち上がってくる事を微塵も疑わない2人は軽口を言い合いながら、徐々に距離が離れていく
「またデュエルしようぜ、IV!今度は本気のお前に勝ってやるからな!!」
『また会おう、IV!』
「──楽しみに待っててやるぜ、ユーゴ!ユート!」
聞こえないはずのユートの声にも反応するかのように返事をすると、IVはデュエルレーンの高架から飛び降りて、シティの貧民街に消えていった
扉のロックが解除され、姿を見せたボーイのサムが部屋の中に人物に声を掛ける
「遊矢さん、次の試合の準備を………遊矢さん?」
サムは、モニターに釘付けになるようにこちらに背を向ける異様に静かな遊矢の姿に疑問符を浮かべるが、遅れて反応した遊矢は目元をゴシゴシと腕で擦ると、振り向いて答える
「ああ……ごめん、サム」
「今、行く」
目元が腫れ上がったその瞳には、覚悟の色が宿っていた