ファンサービスは僕のモットーですから   作:ジャギィ

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第7話

舞網チャンピオンシップの初日は、出場者全員が1回戦を行う形で終了した

 

中身は原作と特に変わらず、遊矢、柚子、権現坂は1回戦を勝ち上がり、逆に素良は黒咲と当たった結果敗れ落ちた

 

その際に素良の本性…アカデミア(融合次元)としての残虐な顔を見せ、黒咲もレジスタンス(エクシーズ次元)として融合への憎悪を滲ませた、ただ相手を潰し合うだけのデュエルが繰り広げられた

 

 

「やめろー!!こんなのデュエルじゃない!!

 

俺が信じるデュエルは、みんなを幸せに……!」

 

 

価値観が変わった遊矢も、これには叫んだ

 

いや、むしろIVのデュエルは、これ以上に残虐で恐ろしいものだったかもしれないし、遊矢自身も最後は破壊の権化と化していた

 

しかし、IVは自分とのあんなデュエルですら「良いデュエルだった」と認めてくれた。それがどれだけ遊矢を心の闇から救い上げ、エンタメデュエルへの価値観に変容を与えたか…

 

だからこそ、遊矢は認められなかった

 

こんな、互いへのリスペクトなど一切感じられない、相手を否定し、潰す事だけを目的とした殺し合い(デュエル)など…今の遊矢が到底認められるわけがなかった

 

故に、大会2日目の2回戦、対戦相手の勝鬨勇雄とのデュエル。どれだけ殴られようと罵倒されようと、遊矢は勝鬨への敬意を忘れずにデュエルを続けた──

 

 

 

「二色の眼の竜よ。絶対零度の力でもって、大地を同胞で埋め尽くせ!」

 

「エクシーズ召喚!!」

 

「現れろ、ランク7!刻をも凍てつかす竜!「オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン」!!」

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン

ランク7 ATK2800

 

『なんとぉーっ!?ペンデュラム召喚から更にエクシーズ召喚!!』

「なんだと…!?」

「「EMソード・フィッシュ」の効果!「魔星剣」の効果で上がった「イダテン」の攻撃力は更に下がる!」

 

ATK2200→1600

 

「バトルだ!「オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン」の攻撃!」

「バカめ、いくら攻撃力を下げようと…」

「ここで、「オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン」の効果発動!」

「何、ここでだと!」

「ORUを1つ使い、モンスター1体の攻撃を無効にする!『フリーズン・バリア』!!」

 

視界を遮るほどの冷気が瞬く間に分厚い氷の障壁へと変わり、「アブソリュート・ドラゴン」自身の攻撃を無効にする

 

「それに何の意味が…」

「速攻魔法「ダブル・アップ・チャンス」!このカードは、モンスターの攻撃が無効になった時発動する事ができ、そのモンスターの攻撃力を倍にして、もう1度攻撃する事が出来る!」

 

ATK2800→5600

 

「攻撃力5600!?」

「「オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン」で「覇勝星イダテン」を攻撃!!」

「「イダテン」の効果発動!このカードのレベル以下のモンスターと戦闘する場合、相手モンスターの攻撃力は0となる!!」

 

しかし、二色の眼の氷竜の攻撃力は変わらない

 

「エクシーズモンスターはレベルではなくランクを持つモンスター!よって効果そのものが成立しない!」

「何!?レベルを持たないなら、レベル0ではないのか!?」

 

「イダテン」の効果はダメージ計算時に発動する効果。つまりステータスを上昇、下降させるアクションマジックでなければ対処が出来ない

 

そもそも近辺のアクションカードは、勝鬨本人が装備魔法「魔星剣」のコストに使う為に狩り尽くした為、存在しない。慢心と知識不足、これらが招いた必然の敗北だった

 

 

「『氷結の、アブソリュートバースト』!!」

 

 

「ぐああああああっ!!」

 

 

勝鬨勇雄 LP4000→0

 

 

『決まったァー!!勝負を制したのは、エクシーズ召喚という新たな力を見せつけた、榊遊矢選手だーっ!!』

 

会場中に響き合う、拍手喝采大喝采。肩で息をしながら呼吸を整える遊矢は、何かに気づいたように顔を上げ、倒れる勝鬨に近寄って手を伸ばす

 

「勝鬨!」

 

パシィィィ…!

 

その伸びた手を、弱者への施しと捉えた勝鬨は払い落とす。元より敵と馴れ合うつもりはなく、勝鬨はそのまま立ち去ろうと踵を返した

 

ガシッ!

 

そんな勝鬨の手を、遊矢は無理やり両手で掴んだ

 

「ッ! 貴様、離──」

「対戦ありがとうっ!!」

 

そして、遊矢が言い放った言葉に、拳を振り下ろそうとした勝鬨の腕が止まった

 

「良い…デュエルだったッ」

「………っ………!」

 

その表情は、笑顔とは程遠い緊張感に強ばらせた顔。しかしその瞳の強い意思に勝鬨は一瞬怯み…結局何も言わないまま、掴まれた手を振り払って去っていった

 

遊矢の表情が空模様のように曇る

 

何故あんなに敵意を向けるのか。これで良かったのか。ただの自己満足ではないのか。色々な疑問が遊矢の心の中を埋め尽くす

 

(そういえば、IVの2回戦の相手も勝鬨と同じ梁山泊塾の選手だったな…)

 

勝鬨と同じく、リアルファイトでアクションカードを奪うという反則スレスレの手段を用いる相手だったにも拘わらず、IVはそれらの暴力に一切怯まず、それどころか相手を投げ返す始末

 

当然完封で終わった試合後。相手を称えながら握手を求めるIVの手をその選手はなんと叩き落とし、それによって女性ファンによる大ブーイングが起こったのは記憶に新しかった

 

IVはどうして、あそこまで酷く扱われても尚、相手に敬意を払うのだろう…?圧倒的強者としての余裕だけでは説明出来ない理念に、遊矢の中に迷いが生じ…それを無理やり振り払った

 

(俺は、俺のエンタメを見つけるんだ)

 

それが柚子に、権現坂に、母さんに、塾のみんなに、多くの対戦相手に、IVに……多くのファンに対する、遊矢の恩返しなのだから

 

 

 

一方、IVは会場のとある通路で、志島北斗を背に庇いながら2人の人間と相対していた

 

1人は柊柚子と酷似した顔立ちの少女、セレナ。もう1人は眼帯をつけた筋肉質な男、バレット。共に融合次元、アカデミアの刺客だった

 

「お前は誰だ?そいつの仲間か?」

「そんな所ですかね。彼は僕のファンですから」

「誰がファンだっ!!」

 

あんな酷い目に遭わせておいて、よくもまあいけしゃあしゃあと言えたものだと北斗は思わずにいられなかった

 

「ふん、エクシーズの残党など、いくら集まったところで敵ではない。皆まとめてやっつけてやる!!」

「デュエルですか…いいでしょう、受けて立ちます。新しいファンの為に尽力するのもスターの役目ですから」

(ああ…今度は彼女が犠牲になるのか…あんな可愛い子が…。それとも彼女も、あのイカれたファン達(主に女性)みたいにIVの“本当のファンサービス”を求めているというのだろうか…?ボクには理解できないよ…)

「ム?お前、何故十字を切るのだ?」

 

勝つにせよ負けるにせよ、彼女の未来は明るくないだろうと不憫に思った北斗は静かに十字を切った

 

そうして、IVとセレナのデュエルが勃発する…そんな雰囲気の時、バレットがセレナの前に出てきた。自分が代わりにデュエルすると主張するように

 

「控えろ、バレット!!」

「セレナ様、長年戦場に身を置いた私には分かります。この男は危険極まりない男です。私は貴女様のお目付け役であると同時に、貴女様の護衛でもあるのです。無礼をお許しください」

「ダメだ!この男は私の獲物だ!」

 

そうやって揉める2人を見ていたIVはひとつの提案を出す

 

「それでは、おふたりで同時に掛かってきてはいかがでしょうか?」

「む…」

「何!?」

「…どういうつもりだ…」

「どうもこうもありません。僕としてもあまり時間を取られ過ぎるのはいけませんからね、お互いに都合がいいんですよ」

「………」

「貴様…我々をナメているのか!?」

 

優秀な戦士と自認しているセレナはともかく、バレットは間違いなく歴戦のデュエル戦士だった。その我々を相手に、エクシーズの残党風情が生意気なことを言うものだから、セレナは思わずそう叫んだ

 

それに対するIVの答えがこれだ

 

「ええ、ナメています」

「っ!?」

「僕にとってあなた方2人など、所詮掃いて捨てるほどの木っ端風情でしかない。逆に言わせてもらうと……2人がかりなら俺に勝てると夢想する事自体、お前らの思い上がりに過ぎないんだよ」

「お、お前ぇ…!!」

「弱い奴ほどよく吠えるってやつだ。まさに駄犬だな」

 

IVの蔑んだ視線に顔が紅潮するセレナ。こうまで格下扱いで見下され続けては、沸点の低いセレナが激昂するなど自明の理

 

一方、その話の流れを見ていた北斗は違和感を覚えた

 

本性はああだが、IVは基本相手に対して“貴公子”と呼ばれるだけある紳士的な態度を取る。そして慇懃無礼に暴言を吐く時も、相手に大きな非がある時限定で、たかがデュエルに挑まれた程度でここまでの事は言わない。少なくとも北斗は自分から喧嘩を売るIVなど見たことはなかった

 

「我々を見下したこと、後悔させてやる!!構えろ!!」

「出来るもんならやってみな。先攻はそっちに譲ってやるよ」

「ど、どこまでもバカにして…!叩きのめしてやる!私の──」

「お待ちくださいセレナ様」

 

と、怒りに任せて先攻を取ろうとするセレナをバレットが制した。鋭い右目がIVを睨め付ける

 

「先攻はお前からだ」

「ほう…」

「何故だバレット!?」

「私が経験した戦場でもこのような輩はいました。相手を挑発し、先攻を取らせ、返しのターンでワンターンキル…奴の狙いはおそらくそれです」

「ワンターンキルだと!?私やお前がそんな卑怯なやり方で負けるものか!ましてやこっちは2人だぞ!」

「貴女様はまだ戦場というものを知らない。そして戦場において、卑怯汚いは敗者の戯言……戦士としての誇りを持つのは結構ですが、警戒はするべきです。…聞いていたな?お前の先攻だ」

「いいのか?俺は善意でお前らに先攻を譲ってやってんだぜ」

「くどい、さっさと始めろ」

 

最後の確認を取るも断固として譲らないバレット。それを見たIVはやれやれと初期札の5枚を引き

 

「なら先攻は俺からだ…お前らは必ず後悔する事になるぜ。「先攻なんざ渡さなきゃ良かった」ってな」

 

 

 

「「「デュエル!!」」」

 

 

 

「俺の先攻!魔法カード「テラ・フォーミング」発動!デッキからフィールド魔法1枚を手札に加える。「地獄人形の館」を手札に加え、そのまま発動!こいつも発動時にカードをサーチする効果が内蔵されている。「ギミック・パペット」モンスターである「ギミック・パペットーブラッディ・ドール」を手札に。今手札に加えた「ブラッディ・ドール」の効果発動!EXデッキの「ジャイアントキラー」を見せることで、こいつのランクと同じレベルを持つ「ギミック・パペット」モンスターをデッキから「ブラッディ・ドール」と共に特殊召喚出来る!」

「エクシーズ…やはりエクシーズ次元の!」

「来な、「ブラッディ・ドール」!「カトル・スクリーム」!俺はレベル8のモンスター2体でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

 

「ブラッディ・ドール」の効果で呼び出した2体でいつものエクシーズ召喚を行うIV

 

ただし出すのは「ジャイアントキラー」や「ヘブンズ・ストリングス」などではない……今回のIVは、少しだけ本気を出すことにしていた

 

 

「希望を与えるスターよ!ファンを魅了し、舞台の上に立て!」

 

 

「エクシーズ召喚!!」

 

 

「「ギミック・パペットーファンタジクス・マキナ」!!」

 

 

糸に吊り下げられ、お辞儀と共に登場するモンスター

 

それは、頭から生えた金髪や白い洋服のような外装、デュエルディスクにも見える両腕の刃など…見れば見るほど、IVに酷似しているエクシーズモンスターだった

 

「「ファンタジクス・マキナ」のモンスター効果。ORUを1つ使い、デッキから「RUM」1枚を手札に加えることが出来る。俺が手札に加えるのは…「RUMーアージェント・カオス・フォース」」

「「RUM」…!?昨日黒咲が使っていた…なんで、IVも…!?」

 

ここで補足しておくと、この世界の北斗、真澄、刃の3人はLDS襲撃犯としての黒咲と対峙していない為、記憶の改竄が行われていない

 

だから元々LDSの頼れる仲間だと認知するようになっていた原作とは違い、この世界線では舞網市の外から来た赤馬零児の客人という扱いになっていた。融合に対する態度の悪さから真澄によく突っかかれたりもし、その度に北斗と刃は仲裁に苦労していたのだった

 

 

閑話休題(それはともかく)

 

 

とどのつまり、志島北斗にとって黒咲隼とは興味深い対象であった。外部の人間で自分以上にエクシーズ召喚を使いこなし、更に昨日の1回戦で見せつけた「RUM」

 

あの力があればIVに借りを返せるかもしれない…そう思っていたからこそ、そのIVが当然のように「RUM」を使っている事に驚きを隠せなかった

 

「「RUMーアージェント・カオス・フォース」。こいつは俺のフィールドのランク5以上のエクシーズモンスターを、ひとつランクが上のエクシーズモンスターへカオス化させる禁断のカード…」

「カオス化だと…?」

「さあ、カオス化しろ!「ファンタジクス・マキナ」!」

 

闇に熔け、流動体となった「ファンタジクス・マキナ」が天井に広がる渦に飲まれる

 

 

するとその渦から───闇が溢れた

 

 

「な、なんだ!?」

「これは…!?」

 

戦士達が慄く

 

何故なら渦から溢れ出た闇が濃過ぎて、IVの背後にいるであろうモンスター…それが巨大な影としてでしか認識出来なかったからだ

 

ランク9 ATK3100

 

それでも表示されたステータスから、ある程度そのモンスターの強さは測れた

 

「攻撃力3100…!」

「特殊召喚成功時効果。デッキから「パペット」罠カード「傀儡遊儀ーサービスト・パペット」を手札に加える。そして墓地の「カトル・スクリーム」のモンスター効果、自分のエクシーズモンスターのORUを1つ取り除くことで、自身を特殊召喚する事が出来る。「ファンタジクス・マキナ」を取り除き、「カトル・スクリーム」を特殊召喚」

「バカな…これほど動いておきながら、手札が1枚も減っていないだと…!」

「手札の「ギミック・パペット」モンスターである「ギミック・パペットーナイトメア」を墓地に送ることで、手札の「ギミック・パペットービスク・ドール」は特殊召喚する事が出来る」

 

再びフィールドに2体のモンスターが並ぶ。そのレベルは8

 

「「カトル・スクリーム」と「ビスク・ドール」で、オーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

 

「現れろ、「No.40 ギミック・パペットーヘブンズ・ストリングス」!!」

 

「攻撃力3000と3100のモンスターだと!」

「こんなものは前座に過ぎねぇんだぜ?「ヘブンズ・ストリングス」をリリース!」

「何!?せっかく呼び出したモンスターを!?」

「「ギミック・パペットーナイトメア」を手札から特殊召喚!」

 

「ヘブンズ・ストリングス」と入れ替わるように出てきたのは、2つの頭と複数の身体を歪に絡み合わせた、まさに“悪夢”の名に相応しい人形だった

 

「どういうつもりだ貴様!」

「「ギミック・パペットーナイトメア」は自分のエクシーズモンスターをリリースする事で特殊召喚出来るモンスター。更にこの効果で特殊召喚に成功すれば、手札・墓地から同名モンスターを特殊召喚出来る。さっき墓地に送った「ナイトメア」を特殊召喚!」

 

IVがそう言うと、「ナイトメア」は分裂するように2体目が現れる

 

「またレベル8のモンスターが2体だと…!」

「俺はレベル8の「ナイトメア」2体でオーバーレイ!2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!」

 

 

「現れろ、“No.15”!!」

 

 

「地獄からの使者、運命の糸を操る人形…」

 

 

「「ギミック・パペット-ジャイアントキラー」!!」

 

 

No.15 ギミック・パペットージャイアントキラー

ランク8 DEF2500

 

「これで準備は整ったぜ…「地獄人形の館」の効果!自分フィールドのORUを1つ取り除くことで、俺の墓地の「ギミック・パペット」モンスターを相手フィールドに特殊召喚する!」

「何!我々のフィールドにだと!」

「「ジャイアントキラー」のORUを1つ取り除き、「ヘブンズ・ストリングス」をお前のフィールドに特殊召喚する!」

 

そう言ってIVが指さしたのは…バレットのフィールド。吊り上げられた「ヘブンズ・ストリングス」が相手フィールドに鎮座する

 

そして、観戦していた北斗は理解した。バレットのフィールドに「ヘブンズ・ストリングス」を送り付けたその理由を

 

「エクシーズモンスターが相手のフィールドに…これは!」

「さあ、ショーの幕開けだ!「ジャイアントキラー」の効果発動!ORUを1つ使い、相手フィールドの特殊召喚されたモンスター1体を破壊!その破壊したモンスターがエクシーズモンスターならば、元々の攻撃力分のダメージを相手に与える!」

「何!?」

 

「ヘブンズ・ストリングス」は糸に捕らわれ、同族である「ジャイアントキラー」によって無感情に破壊される。その処刑方法は、多くの人間の悪意を見てきたバレットすらも顔を顰め、セレナに至ってはあまりの残虐さに脳が理解を拒んでいた

 

「『ディストラクション・カノン』!!」

「ぐうううう…っ!!」

「バレットォ!!」

 

バレット LP4000→1000

 

強過ぎるダメージに膝をつくバレット

 

(せ、先攻1ターン目でライフを3000も減らすとは…!我々が先攻を取っていれば、攻撃でどちらかが確実にやられていた…危なかった…!)

 

だが、そのバレットの考えすらも、IV相手では楽観が過ぎた

 

「……ン!?」

 

意識を回復させたバレットが気づく。フィールドに再び「ヘブンズ・ストリングス」が蘇生されている事に

 

「何故……ハッ!」

 

バレットは見た

 

IVの背後の巨大な影。それの広げた巨大な手から大量の糸が発射され、「ヘブンズ・ストリングス」を引き上げてることに

 

「そのモンスターの効果か!」

「御明答。『こいつ』はORUを1つ使う事で、自分か相手の墓地のモンスター1体を相手の場に特殊召喚する事が出来る…そして!」

 

そして、特殊召喚が成立すると同時に影から飛び出た鉤爪付きのワイヤーが「ヘブンズ・ストリングス」を拘束し、闇の中に引きずり込む

 

「『こいつ』は1ターンに1度、相手フィールドにモンスターが特殊召喚された時、そのモンスターを破壊し、元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える!」

「バカな…!?」

「これでお前はTHE ENDだ」

 

不快な破壊音が闇の中から響くが、それが収まると闇から極太のビームが発射され、それがバレットのライフを削り切った

 

 

「ぐわあああああっ!!?」

 

 

バレット LP1000→0

 

「バ…バレット…?」

「せ、先攻……ワンターン…キル…?」

 

通路が、シン…と静まり返る。それほど、IVが行った行動はセレナと北斗に衝撃を与えていた

 

「カードを1枚セットし、ターンエンド。さあ、次はお前のターンだぜ」

「う、うう…!」

「どうした、お前の番だぜ?それともお仲間がやられた程度で勝負を捨てるのか?ハッ!アカデミアのデュエル戦士ってのは腰抜けしかいないらしいなぁ?」

 

その分かりやすい挑発にセレナは反応する

 

「ち、違う!アカデミアを侮辱するな!お前みたいな奴にやられる、アカデミアの戦士ではない!私のターン!」

 

湧き上がる恐怖を無理やり押さえつけ、勇ましくカードをドローする

 

見目麗しい少女がそれをやると非常に絵になり、その絵面はまさに邪悪な敵に立ち向かう勇敢なヒロインといったところか。北斗は自分が襲われていた事も忘れて、心の中でセレナを応援した

 

「私は「融合」を発動!手札の「月光蒼猫(ムーンライト・ブルー・キャット)」と「月光紫蝶(ムーンライト・パープル・バタフライ)」で融合!」

 

フィールドに蒼い猫と紫の蝶をモデルとした獣人…セレナの「月光(ムーンライト)」モンスターが現れ、月の引力に引かれるように渦巻き、飲み込まれる

 

「蒼き闇を徘徊する猫よ!紫の毒持つ蝶よ!月の引力により渦巻きて、新たなる力と生まれ変わらん!」

 

「融合召喚!」

 

「現れ出でよ!月明かりに舞い踊る美しき野獣!「月光舞猫姫(ムーンライト・キャット・ダンサー)」!!」

 

そして月から舞い降りた、美しき獣人の舞姫。敵を魅惑し、誘き寄せ、狩る狩人が着地した

 

月光舞猫姫

レベル7 ATK2400

 

融合召喚に成功した事で自信に満ちてきたのだろう、活力溢れた声音でセレナは更なるカード捌きを見せる

 

「まだだ!更に私は手札から…」

 

ガッ!

 

…しかし、そのセレナの希望(勝機)

 

ガガガガッ!

 

今まさに、奪われようとしていた

 

「なっ、「舞猫姫」!?」

 

次なる手を打とうとした瞬間、闇から伸びたワイヤーのフックが「月光舞猫姫」の身体に食い込み、完全に動きを封じ込めていた

 

「忘れたのか?俺はさっき、キチンと説明したぜ」

「何をっ」

「『『こいつ』は相手フィールドにモンスターが特殊召喚されれば、1度だけそのモンスターを破壊する』とな」

「……あっ……」

 

IVの説明を改めて聞いたセレナは、徐々に顔色が悪くなった

 

そう、IVが説明した効果は起動効果ではなく誘発効果と受け取れる内容。条件を満たせば相手ターンでも発動出来る、つまり妨害系の効果だった

 

しかし、本来なら相手ターンで発動するような効果を、IVはさも当然のように自分のターンで無理やり条件を満たして発動した事で、セレナはその効果が自ターンで発動する類のものだと錯覚してしまった

 

初めての戦場、初めての用意された者以外とのデュエル、初めての焦り、初めての恐怖。それらがセレナの判断力を鈍らせてしまったと言えよう

 

…もっとも、ここのプレイングミスがなくとも、セレナのデッキではIVを倒し切ることはおろか、盤面の一角を崩すことさえ不可能な訳だが…

 

早い話、負けるのが早いか遅いかの違いでしかなかった

 

「さあ、「月光舞猫姫」を破壊しな!」

 

その命令と共にワイヤーが巻き戻され、「月光舞猫姫」が闇の中に引きずり込まれていく

 

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!!

 

「こんな辱め、許される訳が…!や、やめろぉ!!」

 

ローラーのようなものが高速回転する音が聞こえ、セレナは思わず制止の声をあげるがもう遅い

 

『キャアアアアアアアアア!!』

 

ゴキッ! ボギッ! ゴリィッ!

 

ギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!!

 

「アーッハッハッハッハッハーッ!!」

 

悲鳴と、折れ砕け削れる音と、ローラーの音と、IVの笑い声との四重奏(カルテット)が通路中に響き渡る

 

「う……うぁあ……」

「う、おげぇ……!」

 

あまりに残酷、そして邪悪な所業に、戦士ではなく乙女として震え上がるセレナ。デュエルする度に「ジャイアントキラー」でよくファンサービスされ慣れてしまった北斗も、極めて人型に近い女型モンスターが悲鳴と嫌な音を立てながら破壊される様子には耐え切れず、道の端で胃液を吐いてしまう

 

そんな様子に構うことなく、IVは効果処理を進める

 

「「月光舞猫姫」の攻撃力の半分、1200ポイントのダメージを受けな!」

 

「『ディスペアー・カノン』!!」

「うわあああっ!!」

「セレナ様ー!!」

 

セレナ LP4000→2800

 

バレットの叫びを耳にしながら、立ち上がろうとするセレナ。しかし恐怖で手足が震え、四つん這いの姿勢から立ち上がれないセレナ。そのまま前を見て…見てしまい、もはや覆しようのない絶望的状況にセレナの中で何かが折れた

 

「あ………」

「俺のターン、ドロー」

 

制限時間によってセレナのターンが強制的に終了し、IVによるラストターンが開始される

 

「つまらねぇ……所詮は獲物ですらない餌風情か。少し本気を出しただけでこんなもんかよ……」

 

心が折れたセレナの姿に、IVは残念そうに、本当に心底残念そうにため息を吐きながら、つまらなさげな顔でとどめを刺す

 

「…「───────────」でダイレクトアタック」

 

「うあああああああっ!!!」

 

セレナ LP2800→0

 

「セレナ様ッ!!」

 

黒い鞭のようなものを勢いよく叩き込まれたセレナは痛みのショックで気絶する。互いに傷だらけになりながらも倒れたセレナを抱えたバレットは、元凶であるIVを睨みつけた

 

「おのれ…!よくもセレナ様を…!」

「テメェらにンな事言う資格があると思ってんのか?」

 

それを対してIVはどこまでも冷ややかで、道端で吐き捨てられたガムでも見るような目で返す

 

「もし俺がここを通り掛からなかったら、お前らはこいつ(北斗)をどうするつもりだった?事情も聞かず一方的にデュエルを仕掛け、そしてカードに変えていたんだろうなぁ?」

「カードに変える…?」

 

会話に全くついていけない北斗を無視しながら、IVはバレットに告げる

 

「失せろ。そして二度と俺の前に姿を現すな。もし俺の前にまた現れてみろ、今度はカードを触ることも出来ねえ恐怖と苦痛を味わわせてやる…!」

「ぐっ…!」

(撤退か…しかし、この状態のセレナ様を連れての次元跳躍は、セレナ様にどんな影響を与えるか分からん…!プロフェッサーからセレナ様を任された以上、これ以上危険な状態に陥らせる訳にはいかん…!)

「ここは退かせてもらう…」

 

敵に見逃されるという屈辱を飲み込んで、バレットはセレナを抱え込むと彼女を治療すべくその場を後にした

 

融合次元の刺客を追いやったIVは、初めて命を懸けたデュエルが終わったことをようやく実感し、どっと押し寄せる疲れに身を任せ、壁にもたれかかった

 

「な、なんだったんだ、彼女達は…?IV、一体何を知っているんだ!」

「…テメェが知る必要はねえ…」

「巻き込まれたんだぞボクはッ!それにあのデュエル!あんなカードも戦術も見た事がない!ずっと、ずっと手を抜いてボクらと戦ってたと言うのか!?」

 

IVからすれば、今まで北斗達みんなが本気だと思っていたデュエルですらお遊びですらなかった。何故ならIVは、その気になれば今までのデュエル全てを先攻ワンターンキルで終わらせられる事が出来たのだから

 

エンターテインメントですらない完全な舐めプ。その事実に気づいた瞬間、北斗のデュエリストとしてプライドがどれほど傷付けられたか…

 

だが、そんなものIVの知ったことではなかった

 

「だったら何だ?」

「ッ……!?」

「偏にテメェらが弱えのが悪ぃんだろうがよ。それを人に押し付けて、恥ずかしくはねえのか?」

 

スタンダードにも「D.D.クロウ」や「エフェクト・ヴェーラー」、「ドロール&ロックバード」のような手札誘発の存在は確認出来ている。特に「ドロバ」は「ギミック・パペット」にとって天敵であり、これを打たれるだけで相当展開に制限を掛けられるほどの代物だ

 

無論、価値観の違いによる誘発系に対する認識の齟齬もあろう。だとしてもIVからすれば、本気で勝ちたいならばプライドも何もかもかなぐり捨てて、1度本気で挑戦すべきなのだ。それもせずに相手に責任を押し付け文句だけ一丁前に言うなど……一体どちらが舐めているのだとIVは思わずにいられなかった

 

「そろそろお前の試合が始まる。さっさと行きな」

「ま、待て、IV!!」

 

北斗の制止も聞かず、そのままIVは去っていく

 

1人残された北斗は、先程のセレナと呼ばれた少女と、IVがデュエルの最後に言っていた言葉を思い返す

 

「獲物………そして、獲物ですらない餌風情……ボクらは餌風情、か…ハ、ハハハハ……」

 

乾いた笑いを北斗は不気味に零し続け……突如横に向けて突き出した拳が壁を叩いた

 

 

「チクショウッ!!」

 

 

拳の痛みなど比較出来ない胸の痛み、そして悔しさに涙を流しながら、北斗は叫ぶ事しか出来なかった




セレナのデュエル、書くかどうかで1週間近くも悩んだんだけど、IVのアカデミアの対するスタンスとか、向けてる感情とか、そういうのを表現する為に結局書きました
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