【TS転生】気づいたら、大好きだったカードゲームのディストピアアニメの世界で幼女になっていた件 作:銀層
俺は、ただのカードゲーマーだった。
レジェンドリンクス。
ソリッドな演出と熱い駆け引きで一世を風靡したカードゲーム。
大会に出るほどでもないが、地元のカードショップでは中堅どころ。
カジュアルとガチのちょうど真ん中、そんな位置で楽しんでいた。
でも、ある日──
目が覚めたら、そこは《レジェンドリンクス》の“アニメ版スピンオフ”の世界だった。
しかも、よりにもよって「曇らせで有名なディストピア編」。
カードに魂を賭けて、命を削って戦う鬱屈としたシナリオ。
敗者は《魂》を喰われ、生存者は《勝利報酬》として食料や寝床を得る……。
曇らせが好きでよく見ていた。
カードゲームは割と子供向けの楽しい系が多いため、新しい気持ちで見れていた。
なぜか俺は「モブの幼女」に転生しており、いまだに登場人物に会えていない。
名前も年齢も知らない。ただ一枚のカードと、やけにリアルな痛みだけが手元に残っていた。
カード一枚が生きる希望を意味する、この狂った世界で。
俺は、俺のままじゃ生き残れない。
俺には、2つのデッキがある。
1つ目は──この世界に転生してきた“幼女”が元々持っていたものだ。
中身は、3〜4コストのバニラモンスターだけ。
シナジーも展開力も存在しない、ただカードを並べて殴るだけの山札。
マナカーブは崩壊していて、手札事故率は天井知らず。
正直、勝てるわけがない。
──これは、勝つためのデッキじゃない。
「負けるため」に組まれたようなデッキだ。
そしてもう1つ──
それは、俺がかつて“現実世界”で使っていた相棒。
緑と火を中心に組まれた、ビースト種族のミッドレンジデッキ。
トップメタじゃない。
環境的にはティア2──いや、Tier1.5にすら届かない時期もあった。
でも、俺はこのデッキが好きだった。
展開がスムーズで、盤面を作っていく手触りが心地よくて。
たとえ負けても「自分のプレイが通った」って思える、そんな相棒だった。
──なぜかこの世界に、そのデッキも一緒に転生してきた。
何の理屈もない。
でも、手元にはしっかりと、俺だけが知るカードたちがいる。
頭が真っ白になっても、とりあえず動いてくれる。
一手一手が馴染んでいて、使えば使うほど「自分のデッキ」だと感じられる。
この狂ったカード世界で、
“好きだから使っていたデッキ”が、俺の命綱になるかもしれない。
~~
この世界は──もともとは平和だったらしい。
だが今は違う。
カードモンスターたちが現れ、世界を支配した。
銃も、爆弾も、戦車ですら通用しない。
人類の兵器は、奴らの前にはただの火花に過ぎなかった。
でも──唯一、有効な手段があった。
カードバトル。
「同じカードの力」でしか、カードモンスターには対抗できない。
ただしそれは、「カードを持っていて、なおかつ“戦える人間”に限られる」。
カードを一枚も手に入れられない人間もいる。
勝負のルールすら知らない者もいる。
……いや、そもそも手札すら揃えられずに、モンスターに“喰われる”人間が大半だ。
この世界では、カード=命。
持たざる者は、ただの“エサ”に過ぎない。
カードは、モンスターを倒した時にまれにドロップする。
あるいは、フィールドのどこかに偶然落ちていることもある。
だが、その確率は絶望的に低い。
運が良ければ……いや、“強運”の域に達してようやく、1枚拾えるかどうかだ。
──そして、俺は。
この世界に“幼女”として転生して、いきなりその現実を突きつけられた。
所持カードは、バニラモンスターだけの負けデッキ。
自分の命を守るには、とてもじゃないが頼りにならない。
けれど、俺にはもう一つの切り札がある。
──現実世界から持ち込まれた、俺のビーストデッキ。
緑と火の二色で構成された、展開力とパンチ力のあるミッドレンジ。
環境トップではない。でも、俺が何度も握り、勝ち筋を体で覚えたデッキ。
この世界で生き残るには、もう頼れるものはそれしかない。
「カードがすべて」を意味する世界で。
俺は──俺のカードで、命を賭ける。
~~
もともとは「町」だった場所だ。
今では瓦礫と煤煙にまみれた、崩れた建物の寄せ集め。
外壁の看板には、かつてのチェーン店のロゴがかすかに残っている。
だが今、その中では──細々とした「闇市」が開かれていた。
ジャガイモ。パン。干からびた果物の切れ端。
かつて工場で量産されていたはずの食品は、もう存在しない。
人類は、そんな“当たり前”すら失っていた。
俺は、芋を売ろうとしていた。
農場でこき使われて、手に入れた数少ない“稼ぎ”だ。
この芋を売って、パンを──ふわふわじゃなくていい。少しカビててもいい。
ただ、今日も生きるために、交換しようとしていた。
そんなときだった。
「けけけけ……今日の飯は、お前でいいわぁ」
腐った声が、背後から聞こえた。
振り向くと、そこにいたのは──
小柄な体に不釣り合いな、膨れた腹とギラついた目。
まるでハイエナのように薄笑いを浮かべた、ガラの悪いおっさんだった。
「カードバトルだ」
「てめぇ~みてぇなガキはカードを持ってねぇ。だから勝負すらできねぇ」
「つまりは、メシってわけだ……がははははっ!」
(……こいつ、知ってる)
俺の心臓が、ドクンと跳ねた。
出てきたモブキャラ。本編1話目で、主人公・光華にボコボコにされる悪党。
弱者にカードバトルを強要し、負けた相手の魂を“加工”して食料に変える外道。
曇らせ演出の筆頭にして、「レジェンドリンクス」の過剰な正義観を象徴する存在だ。
「なに? 生きてやがる!?」
「くそが……クソが!!じゃあ、バトルできるなら、てめぇみてぇな雑魚を潰して、喰ってやるよッ!」
本来なら、ここで光華が現れて、この外道を制裁する。
だが今は──光華はいない。
俺が、“代わり”にここにいる。
(いいぜ……お前のセリフも、その結末も、俺は全部知ってる)
俺はそっと、カードデッキを握った。
……懐かしい、現実で使っていたビーストミッドレンジ。
俺にとっての“戦えるデッキ”。そして、命を繋ぐ唯一の手段。
「カードバトル、受けて立つわ」
~~
「俺のターン──コストチャージ」
ガラの悪いおっさんが、汚れた手でカードを1枚、盤面の横に差し出す。
それがこの世界の“マナ”だ。カードを使うためのエネルギー。
「1ターン目 速攻の盗賊ジンを召喚。ステータスは1/1。……速攻持ちだ」
「そのままアタック! おらよッ、1点だ!」
俺のライフ:20 → 19
低レアの1/1。速攻持ちで1ターン目にしては悪くないが、火力としては雀の涙。
だがこの世界では、ライフ1点すら“命の重さ”だ。
「コストチャージでエンドだ」
おっさんはニタニタと笑いながらターンを終える。
俺の手札を見透かすように、舌打ちまじりに煽ってくる。
「やっぱり、てめぇのターンはコストチャージだけか? 雑魚がよぉ……」
……黙ってろ。
「俺のターン──コストチャージ」
「2コストで《盗賊キッド》を召喚。ステータスは2/2」
場には、1/1のジンと新たに出た2/2の《キッド》が並ぶ。
盤面は相手優位。
「ジン、アタック。もう1点、もらってやれ!」
──俺のライフ:19 → 18
(……くそ、テンポで押されてる)
だが──ここからが反撃だ。
「俺のターン、コストチャージ」
「2コストを支払い……召喚する。《紅蓮獣 ガレット》! ステータスは1/1」
「登場時効果発動。相手モンスター1体に2点ダメージ」
場の《盗賊キッド》が、ガレットの咆哮とともに焼き尽くされる。
炎のエフェクトのようなエネルギーが、カードから走る。
「ちっ……モンスターが……っ!?」
ようやく、おっさんの顔に焦りの色が見え始めた。
そして、横展開をたたみかける。
「俺のターン、コストチャージ。」
「1コスト──《紅蓮獣ドライブ》、1/1、登場時効果でデッキトップを1枚コストチャージ」
「さらに1コスト──《紅蓮獣パワー》、1/1、登場時にビースト1体に+1/+0。ブースにドライブ」
「2コスト──《紅蓮獣ハウンド》、2/2、速攻持ち」
紅蓮獣──それは、燃え盛る戦意の獣たち。
次々と召喚されるその獣群は、小粒ながら機能的で、無駄がない。
1体が現れれば、1体を焼き払い、
もう1体が現れれば、全体に火を灯す。
そして、その火は次の獣をさらに強くする。
対する敵は、出す端から片づけられた。
除去が重すぎるわけでも、制圧が絶対的なわけでもない。
ただ――軽やかに、確実に、自然に焼かれる。
それがこのデッキの恐ろしさだった。
リソースを使い切る前に、盤面は埋まりきる。
削られるのはライフだけではない。
選択肢、可能性、反撃の構図――すべてが、火の海に呑まれていく。
いつの間にか、戦場は一色に染まっていた。
紅蓮獣たちが跳ね、咆哮し、勝利へ向けて走り続ける。
それはもう、“攻め”というより“処理”だった。
一方的。だが、理不尽ではない。
“隙がない”というだけで、戦いはここまで残酷になれる。
最期の一撃は、容赦なく。
誰も止められず、誰も防げず、ただ炎の奔流に呑まれて――
その試合は、終わった。
~~
「てめぇ……俺の魂を奪って、楽しいかよ……?」
敗北した男が、血走った目でこちらを睨む。
だがその声には、怒りでも悔しさでもなく、ただ擦れた諦念がにじんでいた。
「……あなたが奪う気まんまんだったでしょう?」
「自業自得よ」
少女の声は冷たい。
その口ぶりに、ほんのわずかな嘲りと、かすかな哀れみが混じっていた。
男の魂は、赤く光って浮かび上がる。
それが“カード”へと変わっていく瞬間、
俺の胸の奥が、ひどく冷たくなった。
――わかってる。
これは自衛だ。
生き残るために、必要な行為だった。
でも、それでも。
(……この世界は、ほんと最低だな)
自分の言葉が、頭の中で空しく反響する。
カードを拾い上げる手が、わずかに震えていた。
男の魂がカードとなり、虚空へと吸い込まれていく。
その余波に揺れる大気の中から、ぽつりと一枚のカードが落ちた。
──《紅蓮獣レオン・ファング》
6コスト、5/5、召喚時に獣に+1/+1
一瞬で戦況を変える中型のフィニッシャー。
私は、ゆっくりとそのカードに手を伸ばす。
震える指先で、それをつまみ上げる。
指に伝わるカードの重みは、紙片のくせに妙にリアルだった。
(生き残れるかもしれない)
ほんの少し。
本当に、ほんの少しだけ。
そう思えた。
私は強くなりたいわけじゃない。
誰かを打ち倒して英雄になりたいわけでもない。
──ただ、生きたい。
この世界で、明日を迎えたい。
「……ありがとう、でも……ごめんね」
そう口の中でだけ呟いて、私はカードをポケットにしまった。
“奪って手に入れた”ものだとしても、
“命を賭けて拾った”ものなのだ。
たとえ誰かに責められようとも、
このカードは、私の生存証明だった。
~~
カード勝負が終わった後、どこからとなく聞こえてきた。
「君、強いね」
その声は、凛としていて、どこか優しかった。
振り向いた先にいたのは、背筋の伸びた美しい女性。
長身で、細身なのに芯の通った姿勢。
少年のような髪型に、微かに揺れる銀の耳飾りが印象的だった。
──龍華。
この世界で知らぬ者はいない、“花園の騎士団”団長。
カードの精霊と契約し、腐った人間たちや暴走したカードモンスターと戦う、希望の象徴。
だが、それ以上に。
私にとっては、ずっと憧れだった存在だった。
「人間を喰らうような外道プレイヤーを、たった一人で退ける力。すばらしい」
「もしよければ──君も、私の騎士団に入らないか?」
その言葉に、心が跳ねる。
夢を見ているようだった。
眼差しはまっすぐで、慈愛と誇りに満ちていた。
それはまるで、崩れゆくこの世界の中で唯一、“正しさ”を諦めていない人間だった。
私はモブだった。
でも、いま確かに“誰かの視線”を受けている。
物語が、書き換わっていく。
役割が、ズレ始めている。
この“世界のバグ”が、吉と出るか凶と出るかは、まだわからない。
でも、胸のドキドキは止まらなかった。